第22話『闇の胎動 2』
夏海は海に来ていた
以前颯太や時雨たちと共に来た海へ1人で
気分転換がしたくなると海を眺めてボーッとするのが好きだった
日当たりのいい浜辺に座り
口元まで上げていたマフラーを顎で下げて
両手で持っていた缶のホットミルクティを飲む
『25日まであと少しか……時雨の誕生日がクリスマスで良かった……かな?
クリスマスに颯太と一緒にいられるんだし
……でも時雨をだしにしてるみたいでなんだかなぁ
もちろん時雨と一緒にいるのも楽しいし……』
海を見て考え事をしながらため息をついた
「はぁー、私って馬鹿だなぁ」
まとまりのつかない気持ちを抱えながら
両手に持ったミルクティに視線を落とす
『やっぱり、時雨も颯太のこと好きなのかな……
もしそうなら……応援……できるかな、私……』
しばらく思案した後、その場を離れた夏海は駅へと向かうため国道沿いを歩いていた
以前大変な事に遭ったレストランの前を通り過ぎる
対向車線の先の方で急停車する黒塗りの高級車が見えた
数台の車両からクラクションが鳴らされている
『危ないなぁ、事故ったら大変じゃん』
と何気なく視線を向けた先には、その黒塗りの車から飛び出て走り出した人影に目を奪われた
少し遠かったが間違いない
『颯太に時雨!?それに咲さんまで?
3人とも怖い顔してた……何かあったの……?』
ただ事ではなさそうな雰囲気だった
夏海の足は自然と3人を追いかけるように駆け出していた
*****
「いくら動きが活発化してるからってちょっと不手際が多いんちゃうか!?
前ほどの数じゃないとはいえ」
「ただ前回よりも敵の動きが早いです!
しかもクラス3が4体も同時に出現なんて」
「とにかく急ごう!」
車を降りた3人は『影』の出現ポイントへと走っていた
夏に海へ来た時に出現した山と同じ場所で
市街地からも近い位置だった
また前回のように一般人に被害を出すわけにはいかない
山の麓の林を抜けた所で報告にあった4体のクラス3と遭遇した颯太たちは立ち止まり戦闘体制をとる
「うちが真ん中の2体をやる!
咲姉さんは左、颯太は右のやつを頼む!」
「はいっ」「おうっ!」
応えると同時に咲と颯太はそれぞれの相手へと向かっていく
時雨はその場で集中し気を練る
中央の2体が左右に別れようとするが動きが止まる
「そうは問屋がおろさんで」
地面から水が湧き上がり足元に絡みついて動きを制していた
咲と颯太はお互い走りながら気を練ってそれぞれの力を身に纏いクラス3に肉薄していた
膂力に任せた攻撃を避けながら攻撃を畳み込む
その2人の様子に、とりあえず問題ないと判断した時雨は
足止めをした2体に意識を向け、腰だめに構えた両手に
高圧縮の水の槍を創り出した
「うちの新技見せたるで!」
放たれた水の槍はクラス3の腹部を穿ち、突き抜けぬままそこに留まる
「はぁーーーっ!」
時雨がその槍に気を向けると、更に球状に圧縮された塊から
全方位に無数の針のように飛び出て内部から貫き
腱や関節にダメージを負った2体はその場に崩れ落ちた
「凄いなそれ!」
横目で時雨の様子を見ていた颯太はその技に感心していた
「うちかて自分の鍛錬くらい怠ってないわ
それより気い抜きなや!手え貸したってもええで!」
「ヤバそうだと思ったら頼む!
まだ、なんとか行けそうだ」
優位を保ちながら戦う颯太の様子を見て、時雨は咲の方へ注意を向けるとほぼ互角の攻防を繰り広げていた
「まずはあっちやな、咲姉さん!」
言いながら右手に水の槍を創り出した
それを視界に捉えた咲は、クラス3の繰り出した右拳をいなしつつ
気を込めた膝蹴りを放つと同時にその場から飛び退いた
「ナイスっ!」
一瞬無防備になった所へ鋭い槍が突き刺さり、圧縮された高密度の無数の針が内部から巨体を貫いた
「ありがとうございます、時雨さん」
「構わへんよ、後は颯太の方やな」
「……時雨さん、何か違和感を感じませんか?
戦ってるうちに少しずつですがクラス3の力が増していくのを感じたんです」
そう言われ時雨は、先程まで優位に戦っていたはずの颯太が少しずつ押されているのを見た
「……なんや?颯太がバテてきてる様には見えん……」
訝しんだ時雨が倒した3体の姿に注意を向ける
「……?影の鎧が薄まってきとる……」
本体が倒され力が霧散していくのとは違い、剥がれていく影は颯太が戦っている影の方へ流れていく
「咲姉さん、もしかしたら奴は仲間の力を吸収してるのと違うか?
こんなん見たことないで!」
「颯太くんが心配です、加勢しましょう!」
ガサガサ……
後方の茂みから不自然な音が聞こえ、まだ潜んでいたのかと振り返った2人は
一瞬事態が飲み込めず唖然となった
「やっと追いついた……って、何……コレ?」
「夏海っ!?」
時雨が叫んだ名前に反応した颯太は
バックステップで距離を取り振り向く、そこには肩で息をしながらも目を丸くしている夏海の姿があった
「なんでこんな所に!?逃げろっ!!」
剣幕な表情で叫んだからか、驚いた夏海が言ったことを理解するまでに時間がかかった
とにかく夏海を避難させなければ……と動転している隙に
一気に距離を詰めてきたクラス3が猛スピードで体当たりをしてくる
「しまった!避け……ダメだ!」
自分が避ければ、この勢いのまま夏海の方へと突進してしまう状況に戦慄した
颯太はその突進を受け止める形で踏ん張るが、とっさに防御用に気を練れなかったのが災いし吹き飛ばされてしまう
「颯太!!夏海!!」
夏海は時雨の叫び声を聞いたが、その先の事は確認する事が出来なかった
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