第20話『対話 4』


『陰陽玉』との対話のあと

颯太は時雨、咲の両名の指導のもと着実に能力のコントロールを身につけていた



「だいぶサマになってきたな、ちゅうても颯太の力はうちらとは異質な物やから

教えられるのは基本の部分だけやけども」


「しかし基礎をしっかりと反復して修得しておけば、その後の応用も効くってものだよ」



2人の言葉を素直に聞き入れる



「本当に感謝してます

いくら力が特別なものだからって、使いこなせなけりゃ持ち腐れですから」


「でも未だに信じられないな

我々の4つの属性から外れた力……『嵐』か」


「それを使っても保つ身体作りも重要っちゅう事やな

実際そこんとこはどうなん?雷のみの力を使ってた時と何か違いは感じる?」


「そこはむしろ今の方が負担は軽く感じてるよ

以前はノイズを取り除きながら集中してたって言えばわかるかな?

今は2つの力を混ぜながら……と言うより1つの塊から少しずつ引っ張ってきてる感じかな」


「なるほどなぁ、やっぱり完全に1つの独立した能力として颯太の中にあるって事やな

まぁだからこそ、今やってるような基礎の訓練が後に活きてくるはずや

ま、今日はこのくらいで終わりにしとこうか

この後は咲姉さんと一緒にうちのホテルへ来てもらおか」


「ん?何かあるのか?」


「ちょっと颯太くんに見てもらいたいものがあってね、少し時間をもらえるかな」


「そういう事なら、わかりました」


「よっしゃ、ほなぼちぼち向かおか」



本部の訓練施設を出た3人は手配しておいたタクシーで

時雨の滞在するホテルへと向かう


ロビーを通り抜けエレベーターに乗ると

ガラス張りの窓から見える景色が小さくなっていった



「やっぱ当主ってすげえんだな、ここのホテルめっちゃ高そうじゃん」


「今のあんたなら、これくらい望めばちょちょいと用意してくれるで」


「ん〜……俺はいいかな、今住んでるとこで満足してるし」


「まぁそれもそうやな、それが颯太の『日常』なんやから」



エレベーターは最上階で止まり、扉が開くと

そこはもう部屋だった、ワンフロア全て……

流石に想像以上だった颯太は、そこにいるはずのない人物に一瞬気付かなかった



「「「ハッピーーーバーーースデーー!!」」」



3人の声とパパパーーンと鳴るクラッカーにビクッとなる颯太は、状況を把握するのに少しの間が必要だった



「これって……マジかよ……」



夏海の奥に見えるテーブルには、ピザやオードブルにケーキとジュースが並べられており

自分のために用意してくれたものだとようやく理解した

あっけに取られる颯太に夏海が声をかける



「忘れてたの?今日は颯太の誕生日でしょ?」


「夏海から相談うけてなぁ、うちが頼んで咲姉さんが使ってるホテルでやらしてもらえるようにしたんやで

ありがとう、咲姉さん」


「気にしないで時雨、可愛いあなたの頼みだもの」



『……流石に時雨がこの部屋に住んでるなんて言えないだろうし、そういう話にしてあるんだな』

颯太は話を合わせる



「こんな凄い部屋、見たことないですよ咲さん

それにありがとう夏海、時雨……すげー嬉しいよ」



にししっと笑う夏海にしたり顔の時雨、咲は颯太に優しく微笑んでいた



「てゆうか私もビックリだよ!

颯太のボクシングの特訓相手が時雨の親戚で、しかもムエタイの世界ランカーで超美人なんて!

テレビでしか見たことない様なとこに住んでるし

こんな凄い部屋で誕生日パーティだよ!

テンションMAXだよー!」


「大したことないよ夏海ちゃん、いつも時雨と仲良くしてくれてありがとうね」


「いえいえいえ!こちらこそお世話になってます!」


「まぁ何はともあれ早速始めよか、颯太

あんたはホンマに幸せもんやで」


「……あぁ、まったくだ

俺、こんなの初めてでどうしていいかわかんないんだけど

とにかく、ほんとに嬉しいよ……みんなありがとう!」



今まで1人でいることが多く親しい友人も居なかった

父が祝ってはくれていたが毎年一緒に過ごせたわけじゃない


それが今は、こうして自分のために労力と時間を割いて祝ってくれる友人がいる

それがこれ程嬉しいものだと思っていなかった颯太は

目頭が熱くなる思いだった



「えへへ、こんなに喜んでくれると思ってなかったよ

やった甲斐があったね時雨!」


「夏海がどうしてもって言うから……まぁでも、ホンマによかったわ」



夏海と時雨が企画してくれたらしい誕生会

飲んで食べて、話に花を咲かせた





「ねぇ颯太、あの……コレなんだけど

良かったら受け取ってくれるかな?」



そういった夏海はラッピングされた箱を颯太に手渡す



「えっ!?ホントにもらってもいいの?」


「当たり前じゃん!誕生日プレゼントなんだから

……気に入ってくれるかどうかわからないけど、とにかく開けてみてよ」


「うわぁ、いいじゃんコレ!」



颯太が開けた箱には、シンプルなデザインのシルバーのネックレスが入っていた



「颯太ってアクセサリーとかつけないかなぁって思ったんだけど、他に思い浮かばなくって……」


「ありがとう、夏海……大事にするよ」



そう言いながらそのネックレスを首に巻く

夏海はそれを嬉しそうに眺めていた



「さ、次は時雨だよ

ほーら、早く渡しなよっ」


「え、えーやんもう

うちのなんて大した事あらへんし」


「いいから早くっ」



促されるままに時雨が用意していたプレゼントを颯太に突き出した



「な、夏海が……どうしてもって言うから

しゃーなしで選んだったんや、うちの柄じゃないんやけど

気に入らんでも文句言いなや……」



苦笑しながら受け取った箱を開けると、小箱の中には包帯の様なものが入っていた



「これってバンテージじゃん、時雨が選んでくれたのか?」


「普通のんとちゃうで、一応特別製や

誕生日プレゼントって言われても、うちもようわからんかったから……」


「いや、すげー嬉しいよ

ありがとうな時雨」



時雨は照れる顔をジュースを飲んで隠す



「はははっ……颯太くんも罪な男だな、こんな可愛い子達に祝ってもらえて」


「咲さん、からかわないで下さいよ」



ひとしきり盛り上がった誕生会も落ちついて

外はもう日が落ちていた





「もう暗くなってきたね

みんな今日はここに泊まるといい」



咲がそう提案すると時雨もそれを促した



「せやで、なかなかこんな部屋に泊まれるもんやないで」


「でもでも、ホントにいいの?」


「あぁ構わないよ、時雨も夏海ちゃんともっと話したいみたいだしね

でも親御さんに連絡だけはしておくんだよ」


「ありがとうございます!

お誕生会からお泊まり会に移行だね、ひゃっほー!」


「颯太、こんな美女3人に囲まれとるからって変な気い起こしたらあかんでぇ?」


「えっ!?俺も参加なの?流石にまずいんじゃ……」


「何言うてんねん、今日の主役はあんたやろ

そんな心配せんでも部屋は他にもあるし、何かあったら咲姉さんに懲らしめてもらうって」


「そうならない様に願うよ、颯太くんはメキメキ力をつけてるから簡単には勝たせてくれなさそうだしね」


「いや俺なんてまだまだですって!

けどそういう事なら、お世話になります」


「いぇーい決ーまりぃ!

せっかくだし今夜は楽しむぞー!」



夜更けまで色んな話をした

夏海と時雨は一緒のベッドで喋りながら眠ってしまった

咲はその隣にあるベッドで寝ている


颯太は別の部屋で一人、今日の嬉しさを噛み締めながら天井を見つめていた



『静さんも……一緒にいた頃は、父さんと一緒に祝ってくれてたのかな……

もしそうだとしても、覚えてるわけも無いんだけど……』



取り留めのないことを思いながら、いつの間にか眠っていた





…………ぅた、……颯太!

自分を呼ぶ声に気付き目を覚ます



「……時雨?おはよう」


「おはよう、さっきちょっと預かったもんがあってな

はいコレ……しっかり渡したで

朝ごはんあるから、もうちょっとしたら顔洗ってからおいで」


「ん、ありがとう」



包を開けると手紙と小箱が入っていた



「手紙……静さんから?」



『拝啓  颯太くんへ

先日はいきなりの事で大変驚いた事と思います

寂しい思いも沢山させてしまっていた事も申し訳なく思います

改めて、今まで黙っていてごめんなさい

その様な状況にもかかわらず

あの陰陽玉との対話を経て、出したあなたの答えを私は誇りに思います

あなたは心の強い人です

だけど、あなたを支えてくれる人は近くにいます

信頼して、頼ってあげて下さい

今更、母親じみた事を私には言う資格はありませんが

あなたの事を想う人は必ずいます

その事を忘れないで


追伸

慶二さんの愛用していた物を同封します

あの人の形見の品ですが、必ずあなたの役に立つはずです

私の勝手な願いなのですが、あなたに持っていてもらいたいのです

生前、『影』との戦いで使用していた物です

使い方はあなた次第

これから避けられぬ戦いもあるでしょう

あなたの母としてではなく

風の当主として、いつでも協力します

あなた自身と、あなたを想う人を守る為に

強くなりなさい


誕生日おめでとう』




小箱を開けると入っていたのは、使い込まれた一振のナイフだった



「父さん、………………かあ……さん……」



手紙とナイフを手に取った颯太は泣いていた



「…………顔……洗わなきゃな……」



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