第14話『決意の拳 3』


夕暮れ時になり、浜辺から国道を挟んで少し坂を登った所にある

山の麓のレストランで7人集まって食事をとっていた


その少し前……




*****




「何故今まで感知できなかった!」



多数のモニターが設置された一室で石動灯弥は部下を叱責していた


「申し訳ありません灯弥様、ですがこの様な出現パターンは今までには1度も……」


「数が多すぎます!これだけの数が前触れもなく現れるなんて……!」


「狼狽えるな!対処に集中しろ

うちの部隊を至急編成して向かわせろ

時雨と咲にも要請をだせ!」



出現地点の近辺に墓地があるという訳では無いにもかかわらず、20体を超えるクラス1の『影』が出現していたのは

颯太たちのいるレストランの裏手にある山の中腹だった




*****




「ごめん、ちょっと席外すわ」



と言ってトイレの方へ行く時雨



「もしもし、灯弥さんか

今は休暇ちゅ…………なんやて!?確かなんか?」


「あぁ、現在山の中腹に出現したクラス1は南下中だ

歩みは遅いが、街中へ侵入を許してしまうと被害が大きくなる

第一奴らの存在を一般人に知られてはまずい」


「それはわかってる、すぐ向かう……数は?」


「現在確認しているのは25体、内2体はクラス2であることが判明した!」


「不味いぞ、それだけの数やと接触を持たなくても

非能力者に影響が出る……」



そこへ颯太が駆けてきて叫ぶ



「時雨!みんなが!」



遅かったかと店内を見渡すと

時雨と颯太以外みんな気を失っている



「何が起こってる、時雨!?

なんで俺たちだけ何ともないんだ?」


「今この裏の山ん中に多数の『影』が出たそうや

奴らは人の生気を糧にする、能力者じゃない人間は

その負の思念の影響を受けてしまうんや」


「無事なのかみんなは!?」


「今はまだ、な

咲姉さんももうすぐこっちへ来るやろ

奴らが居なくなれば自然と回復する

颯太、あんたにも手伝ってもらうで!」


「こういう時のための訓練だろ!

行こう!夏海たちに手を出させるわけにいかないんだ!」


「上出来!行くで!」



時雨は裏山に面した窓に椅子を投げつけ、2人は割れた窓から飛び出し駆けていった


5分ほど走った頃3体のクラス1と出くわすが

颯太はその異様に面食らった



「颯太はまだ見たことなかったな、前にも言ったように

奴らは死体に取り付く

わかりやすく言ったらゾンビみたいなもんや」


「あぁ、正直直に見て面食らった……

けどそうも言ってられないよなっ!」



颯太は臆しそうな気持ちを押し込み懐へと飛び込み

鮮やかなコンビネーションで1体を片付ける


その隣で水流が迸り残りの2体を吹き飛ばした



「その意気や颯太!見どころあるで!」



2人はまた駆け出す

そこに木々の間から駆けてきた咲が合流する



「時雨さん、颯太くん!無事ですか?」


「問題ない!火の部隊に後処理は任せると連絡しといて」


「そちらはもう済ませてあります」


「時雨、後処理ってどういう事だ?」


「あいつらは倒しただけではあかんのや、またそのうち起き上がってきよるからな

だから倒した後は輸送班を手配して本部に送る

そこで『影』の思念を浄化して死体は供養し直すんや

まぁ細かい説明はまた今度や、来るで!」



更に3体が出てくる

咲と颯太は走っている勢いのまま攻撃を仕掛ける

時雨は残る1体をまた吹き飛ばす


その先の少し開けた場所に差し掛かると3人は立ち止まった


そこには多数のクラス1と、その奥の方に2体のクラス2が見えた



「はっ、本体のお出ましやな…

咲姉さん、3秒稼いで!」



返事をせずに飛び出した咲は集団の直前まで迫り、反転しながら左足を真上へ振り上げる



「しっ!」



この時颯太には、咲の左足に力が流れていくのを感じることが出来た

振り下ろされたその足は、轟音とともに地面に突き刺さり

クラス1たちの足下に亀裂を走らせて動きを封じる


動きを封じられた集団の上空にはユラユラと浮かぶ水の塊があった


咲がそこへ手をかざし気合いを込める



「はあっ!!」



その声と同時に水の塊が弾け、多数の圧縮された針のような水流がクラス1たちに突き刺さった


あまりに流れる様に繰り出された2人の連携と時雨の能力に颯太は衝撃を受ける



「……すげぇ……!」


「能力っちゅうのはこう使うんや、見て覚えや!

咲姉さん、今撃ち抜いたのは16体しかおらん

報告と数が合わん、どっかに隠れとるんかもしれんで」


「わかりました、颯太くん気をつけて!」


「とりあえず奥のクラス2を片付けるで」



そう言って2人は1体ずつ難なく圧倒したが、警戒を解かずに周囲に気を配りながら颯太の元へ戻ろうとした時

2人はまさかの事態に驚愕した


颯太が悪寒を感じた時にはすでに、背後に異形の『影』が迫っていた


筋肉が膨れ上がって大きさを増し、さらにその上から深い闇のような影を鎧のように纏ったモノがそこにいた



「クラス3やと!?チィっ間に合え!」


振りかぶった太い腕が猛スピードで迫るが

その拳と颯太との間に割って入ったのは

足に『気』を込めて一足で飛んできた咲だった


クラス3の拳が咲をブロックごと、能力を放とうとしていた時雨の方へと弾き飛ばす



「くぅっ!」



飛ばされてきた咲を受け止めきれず諸共に倒れてしまい、その拍子で時雨は足首を痛めてしまう



「ぐっ、足が……逃げい颯太ぁ!」



覆いかぶさった咲の後ろから時雨が叫ぶ


2撃目の振り下ろされた拳をなんとかバックステップでかわす颯太



「っちっくしょう!!」



振り向くと時雨は足を痛め、そこにかぶさっている咲は意識を失っている

2人を置いたまま逃げられない

覚悟を決めた颯太は精神を集中し、両拳に力を纏うイメージを練り上げる



「うおぉーーーっ!!」



その瞬間、バチバチッと稲光が走り両拳を光が包んだ

さながらボクサーのグローブの様に


電光石火の速さでステップインした颯太は、その光る拳で

左ジャブ、右ボディ、顎に左アッパー、鳩尾に右ストレートと流れる様なコンビネーションを叩き込む


衝撃で後ずさるクラス3の姿を見た時雨は、一息で 『気』を集中し

颯太とクラス3の間に水の塊を作り出した



「合わせろー!颯太ぁ!」



察した颯太は踏み込み、眼前の水の塊へ渾身のストレートを放つ

その水の塊は雷を纏い、弾けた水流が槍のようにクラス3の腹を貫いた



「はぁ、はぁっ……何とかなった……」



へたり込む颯太に時雨が叫ぶ



「このアホが!無茶しすぎや!

…………でも、ようやったで颯太」



咲を抱えたまま親指を立ててこちらに微笑む時雨に

颯太も同じように応えた



「ん、んん

すみません時雨さん……」


「気ぃついたか、咲姉さん

よう颯太を守ってくれた、腕はどうや?」


「最大まで『気』を込めたので折れてはいませんが……」



颯太が2人の元へ戻ってきた



「咲さん!俺のせいで、すみません!」


「気にしないでくれ颯太くん、君は無事か?」


「はい、なんとか

咲さんとの訓練があったから生き残れました」



「そうか」と咲は颯太に微笑んだ



応援に来た火の部隊に保護された3人は治療のために本部へと護送されることになった

『影』の影響で気を失っていた人たちも本部直轄の病院へ搬送され無事に意識を取り戻した


咲と颯太は安堵していたが、時雨の表情は優れなかった


これ程の数を感知出来なかっただけでなく、予期せぬクラス3の出現と不測の事態が連続し過ぎている

学園内に出現した時と同様、颯太を狙ってきていると考えるしかないが……と思案していると



「どうした?時雨

さっきの事を怒ってるのか?」


「ん?あぁ、そうやない

颯太は良くやったよ、とりあえず今は休んどき」



どうにもやはり釈然としない気持ちを抱えたまま

本部へと帰る車にゆられていた

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