第2章
第12話『決意の拳 1』
1学期の修了も近く、生徒達の間ではは夏休みはどこへ行こう、何をしようなどの話題が多く
ガヤガヤと歓談する声が弾む3限目あとの休み時間
教室の後ろ側の扉が開き、入ってきた男に生徒達は注目した
1番に駆け寄ってきたのはクラス委員長の飯田 夏海だった
「ちょっと日比谷!どうしたのその怪我!?
てか2日も休んでたけど何があったの!?」
来てそうそうの質問攻めだが、心底心配していたと見える表情でまくし立てる夏海を見て
嬉しくもあり申し訳なくもあった
「悪い、心配してくれてたんだな
ちょっとプロ相手のスパーリングパートナーに指名されて
遠征してたんだよ、見ての通りコテンパンだったけどな」
本当の事を言える訳もなく、そう答えた颯太の腕や頭には包帯が巻かれており、所々に絆創膏が貼られていた
「それならそうと連絡くらいしなさいよ、全くもうだよ!」
「本当に悪かったって
1日で帰るつもりだったんだけど、負けっぱなしじゃ納得いかなくてさ」
「んで?一発くらい決めてきたの?」
シュシュッとパンチの真似をしながら聞いてくる
「もち!」
「よし、なら許す!
てかプロに指名されるなんて凄いじゃん!」
その後は数人のクラスメイトに囲まれ、普段聞くこともないだろう話に興味津々で質問攻めにあった
今回は理由が違うが、過去にプロとスパーをしたことがあるのは事実だった
その時の経験を交えて答えなんとかやり過ごした颯太は
自分の席につき一息つく
あの時気絶した颯太は、時雨が滞在するホテルへと運ばれ
咲が手配した医療班の治療を受けた
全身の筋肉への負担が相当だったらしく、時雨が強制的に止めてくれていなければどうなっていたかわからなかったらしい
外傷はそれほど酷くはなかったので、意識を失っている間に内傷の治療に専念してもらったそうだ
「そう言えば日比谷、天ヶ瀬さんも週が明けてから休んでるんだけど何か聞いてない?」
「時雨なら家の用事って聞いたけど?」
「『時雨』〜?」
カマをかけてきた夏海は、何かあったなと察してニヤついた
一気に教室がざわめいた瞬間、しまったと思ったが遅かった……
また質問攻めの再開である
男子からはやっかまれたり羨ましがられたり、女子からは「付き合ってんの?」と迫られたり……
以前2人で食事に行ったところを見かけた女子もいて更にヒートアップ
「いやいや、付き合ってはないから!本当だって!
ほら、委員長の事だって夏海って呼ぶし他のやつもそう呼ぶじゃんか
たまたま話が合って飯に行ったってだけだって!」
終始言い訳じみていた
確かに『深窓の令嬢』感が独り歩きしてるやつだから、いきなり名前で呼びあってたと知ったらそう思われても仕方がない
後で時雨にも適当に話を合わせるように言っておくべきだと強く思った
*****
「灯弥さん、えらく遅いお呼び出しやな」
応接室の扉を開き入ってきた時雨にまずは座れと促す
「日比谷颯太は順調に回復しているそうだな
まだ追い込むには早かったと私は思うが?」
「その件についての責任はうちにある
処分は受けるよ」
「そのつもりは無い、何度も言うが私たちの立場はあくまで対等だ」
「結果オーライもええとこやけどな」
「それでいい、結果が出ていれば」
「それでや……うちが今何を聞きたいか、わからんお人でもないよね?」
少しの沈黙のあと、灯弥はローテーブルの上にファイルを出し時雨に渡した
「これは、颯太の検査データか
で、これが何を示してるんや?」
「数値の部分は説明が長くなる、とりあえず右下の円グラフを見てくれ」
「…………!?あんたはこれを知ってたんか……?」
円グラフに示されていたのは各属性の潜在因子濃度
通常、各々の一族の属性部分が突出する
ほかの部分はゼロという訳では無いが残りの数値は均衡が取れるのが普通なのだが
颯太のデータファイルに示されたグラフは明らかな違いを見せていた
「あくまで可能性として秘密裏に報告を受けていた
お前も知っての通り、異なる一族の『能力者同士』の婚姻は禁じられている
そこに生まれる次の世代に、異なる能力が混在する可能性を避ける為だ」
「それはうちもわかってる
片方が未覚醒者で、潜在因子の数値を過去の統計と照らし合わせて5%に満たない場合のみ認可するって事もな
その昔は全て禁じていたらしいから、時代に合わせて近年に改正した制度でもある」
「その通りだ、これまでは特に問題もなかった
5%以下なら覚醒する確率はほぼゼロに近いからだ」
「まさか!?可能性ってそういう事か?」
「…………現在調査中だ……」
時雨は過去に例を見ない事態が起きている可能性に驚愕した
能力者同士の婚姻が禁じられている理由にはもう1つある
異なる一族との血縁が広がると、それぞれの一族間の属性のバランスが取れなくなるからだ
『我らの始祖が神から4種の力を授かり
各々四神の方角にて大地を守護すべしと賜った』
これが一族に伝わる伝承で、各一族の属性を大事にしている要因でもある
「仮に、もしそうやった場合……
颯太はどうなるんや?」
「過去に例がない、なんとも言えないが今は経過を注視するしかない
時雨と咲には、引き続き日比谷颯太の監視を続けつつ
彼の能力の強化を計ってほしい
危険は承知だが、本人の身を守る為でもある
別の能力を秘めている事は本人にも周囲にも絶対に漏らすな、原理主義共が黙ってはいないだろう」
「確かに……こんな事が公になれば大変な事になる……了解や
調査の経過はうちにも知らせてくれるんやろな?」
「随時、という訳には行かないが優先して情報をまわす」
「わかった」
時雨は応接室をあとにした
「これで何故慶一さんにすぐに身柄を引き渡さないのかの説明はつく
静さんでなくうちやったのはまだわからんけども……」
謎は深まるが、今は出来ることをするしかない
時雨は咲の待つホテルへと向かった
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