第9話『血の目覚め 3』


4日後の木曜日、授業を終え買い物を済ませて帰った颯太

玄関には見覚えのある人物が立っていた



「よっ、待ってたで」



制服姿の時雨だった



「お前がここに居るって事は、この間の結果の事か?」


「んー、まぁそれもあるけど

とりあえずコーヒーでも入れてんか?話はそれからや」



颯太はおおよその察しはついたが、拒む理由もないため共に部屋へと入る

憂鬱な気分ではあったが、二人分のコーヒーを入れて話を促す



「さてと、検査結果やけど……まぁあんたの事やし察しはついてるやろ

ずばりドンピシャご名答や、とはいえまだ予備群てとこやけどな」


「やっぱりそうか……自分ではそんな気配は全く感じないんだけど、いつそうなるかはわかるのか?」


「なんや、自分の事は気付かんのかいな

ハッキリとは言えんが、近いうちに……てとこや

過去の該当者のデータを見るとそうなるらしいわ

うちはそっちは専門外やから詳しい説明は出来んけどな」


「で、俺はどうなる?」


「本来ならあんたは雷の一族なんやし、慶一さんの所へ行くのが筋なんやけど

あちらさんは今は手一杯や、せやから一時的にではあるけど

うちら水の一族預かりになる

当主のうちがここにおるし、学園に籍も置いとるから都合がいいってのもあるけど」


「なかなか叔父さんと連絡が取れなかったのはそのせいなのか、無事だといいんだけど」


「言っとくけど慶一さんは相当の手練やで、一族の面子も強者揃いで何も心配いらんわ

それよりもあんたは人の心配してる余裕はないで

通常なら能力覚醒の兆しがあるやつは、その能力の行使に身体が耐えられるように基礎訓練に入るんやけど

あんたの場合は元々鍛えとるからとりあえずは問題ないやろ、ただボクシングジムは辞めてもらうで

うちの戦闘チームで実践的な訓練を受けてもらう

クラス1相手なら生身でも戦える、これはあんたが死なんようにする訓練や」


「そうなのか?てっきり能力が無いとダメなのかと思ってた」


「クラス1なら…や、それでもちょっと喧嘩に強い程度の力では返り討ちやで

うちが護衛についてるとはいえ、ある程度自分の身は自分で守ってもらわなあかん

クラス2相手……となったらちゃんと訓練詰んだ戦闘チーム二人がかりでなんとか、ってとこや

覚醒したとしても、その力を使いこなせないと大した助けにもならん

気合い入れて臨んでもらうで」



あらかた想像は出来ていたとはいえ、やはりもう後戻りは出来ないのだと実感させられた



「俺だって、訳もわからず死にたくはないからな……

なぜ親父はずっと隠してたのか……

叔父さんに聞きたい事も沢山あるしな」


「それでええ、まぁ慶一さんと会えるのはいつになるかわからんけど

それまで死なんようにする為にも、うちも協力したるから」


「……わかった、迷惑かけると思うけどよろしく頼むよ」



颯太が決意してくれた以上、本腰を入れてモノになる様に鍛えなければと時雨も決意する

それ以上に、石動灯弥の思惑も気になる

下手に探ろうとすればすぐに気付くだろうし、今は指示通りに動き様子を伺うしか無かった



「よっしゃ、とりあえず今週の土日はうちのもん呼んで手合わせをしてもらう

あんたのボクシングの腕前も見たいしな

最初やし胸を借りるつもりでやってみ」


「ボクシングの腕と言ってもプロを目指してた訳でもないし

どこまでやれるかわからないけど、やるだけやってみるよ」


「その意気や

さぁ、やる事も決まったところで景気付けや

色々教えたるから今からパァっとご飯でも食べに行こか!

心配せんでもうちの奢りや、気い使わんでええで」



そう笑顔で言った時雨の厚意に、颯太は素直に甘える事にした


その後、時雨がホテルへ着替えに戻ったあとに合流し

時雨が選んだ、大通り沿いの小洒落た洋食屋で

食事をしながら、時間も忘れ色々な話を聞いていた


すっかり夜になってしまっていたので家まで車で送って貰う事になった

時雨が手配して来た車が物々しい真っ黒の高級車で、面食らった颯太をみて笑っていた



「凄いなこれ、お前いつもこんななのか?

いまいち実感がないけど、当主ってやつはこのくらい当然なのか」


「せや、今日は特別やで

あぁそれと、いつまでも『あんた、お前』ちゅうのもなんやし、うちの事は時雨でええ

うちはあんたを颯太と呼ぶから、そういう事で」


「俺はいいけど、当主を呼び捨てにしていいものなのか?」


「あほか、お前呼ばわりされてる方が問題やわ

この方が学園内でも不自然はないやろ、転入生同士打ち解けたっちゅう体で通るやろ」


「確かにそうか、わかった

今日はありがとう時雨」


「構わんよ、今日はもう遅いし週末に備えてゆっくり休んどき

ほな」



車のドアを閉め颯太を送り出した時雨はスマホを手に取り

連絡先から相手を呼び出す



「もしもし、咲姉さん?うちや

次の土日やねんけど、悪いんやけどこっちへ出向いてくれんかな?

あぁ灯弥さんにはうちから話通しとくから

うちの任務の事もやんわり聞いてるやろ、その絡みで

ちょっと若いもんの面倒見てほしいんよ

うん、ほなよろしくね」



通話を終えた時雨はホテルへと足を向ける



「咲姉さん相手にどこまでもつか、気張りや、颯太」

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