繰り返される炎上


 黒いフレスヴェルクと本物のフレスヴェルクの逃走劇――それはわずかな時間で決着する。その理由は、黒いフレスヴェルクもある勢力に利用されていただけに過ぎない駒の一つだったからだ。


『貴様は――ウルズ!?』


「カラクリが分かってしまえば、それまで――」


『話せば分かる――我々はお前に敵意がある訳では――』


「超有名アイドル以外のコンテンツを炎上させ、それ以外はかませ犬としてレッテル貼りを行う――」


『レッテル貼りだと!? 貴様や西雲が行っていた炎上と何が――』


 アイドル投資家は迂闊な事を言ってしまった。それが、ウルズの不評を買ったのは言うまでもない。そして、彼のARアーマーはウルズの展開したビームスピアによって瞬時に消滅する。


「その一件は今の状況には火に油を注ぐものだ。下手に語らせる訳にはいかない」


 黒いフレスヴェルクを一撃で倒した後、ウルズは瞬時に姿を消してしまう。姿を消したというよりは、ジャミングを利用して別の場所へ向かったと言うべきか。


「奴の言っていた事が本当だとすれば――」


 フレスヴェルクは、西雲と言う苗字が出てきた事に何か違和感を抱く。


 ウルズの方は西雲と言う単語を聞いただけで、相手のARアーマーを瞬時に消滅させる威力のARウェポンを展開した。


 つまり、ウルズと西雲には何か関係がある――。最低でも、無関係ではないだろう。


【やはり駄目だったか】


【承認欲求の強い人物では、こうなる事は想定していた】


【しかし、これで我々の行動が分かってしまっては――】


 あるSNSのやり取りを見て、即座に反応したのはミカサだった。瞬時にして一連の炎上に関係したユーザーの大量検挙を実行し、これで全てに決着が――と最低でもミカサは思っている。



 その状況下で、前代未聞と言える大きな動きがあったのは午後2時20分頃である。


【次々と炎上勢力が――消えていく?】


【これはどういう事だ?】


【おかしいだろう? まとめサイトが一斉に閲覧不能になるなんて――】


【それだけじゃない。一部芸能事務所のサイトも閲覧できない】


【もしかして――】


【これが、ノルンの行おうとしていた変革なのか――】


【それこそ都市伝説のはずでは――】


 つぶやきのタイムラインも、めまぐるしく動きだす。


 しかも、特定サイトが閲覧不能になっていることだが――ニュースサイトでは大きな動きは報道していない。


 地方のニュースと言う扱いでも、全く報道しない事はおかしいと感じて――別勢力も調査をするが、それが裏目に出てしまう。


 全ては――ある人物の仕掛けたトラップだったのである。


「センターモニターを見ろ!」


「あの人物は、まさか――!?」


「えっ? どういう事だ」


 センターモニターに映し出された人物を見て、周囲のギャラリーは慌てている。


 一部の勢力はスマホを片手に撮影を行い、コラ画像を広めようとも考えていたようだが――オケアノスの特定エリアではスマホが使用不能なのに。


 彼らの行動は無駄だと言う事になるのは言うまでもない。スマホが使えないエリアがある事は、オケアノスの観光客でもガイドブックを見ていれば常識だろう。



 アイドル投資家勢力が動いていたという事実を知り、長渡天夜(ながと・てんや)が再び表舞台に姿を見せた。単純にゲーム開発が忙しかった訳でもない。理由に関しては別にあるだろう。


 モニターに表示されていた人物とは――長渡だったのである。


「これで分かっただろう? ネット炎上勢力を完全駆除しようと考えるのであれば――それなりのルールを作る必要性がある事を――」


 このメッセージは、ある場所に向けられていたと言ってもいい。それは、長渡の外見を見れば一目瞭然だろう。


 センターモニターをジャックするかのように姿を見せた長渡の現在いる場所――それは、オケアノスの中継スタジオだった。


 丁度、実況担当のバーチャル動画投稿者も――この場にいた事に加え、スタッフも長渡の登場には驚いている様子である。


「最初から炎上禁止――それに行動のほとんどを制限するような規制だらけのゲームでは、問題視されている保護主義と何ら変わりない――」


「その為に、ランダムフィールド・パルクールを利用した事に関しては――謝罪しなくてはいけないだろう」


「SNSテロの主犯を釣る為だったとはいえ、その影響で不快な思いをした全ての関係者には――この場を借りてお詫びする」


 アーマーを解除する事はなかったが、長渡はカメラの前に向かって謝罪の一礼を行う。


 この後はカメラのフラッシュが――というお決まり光景だが、残念ながらマスコミは中継スタジオにはいないのである。


 

 全ては長渡がARゲームのプレゼンをした際、このようなやり取りがあった事による物である――と彼は語る。


『何をやっても炎上するのであれば、ユーザーに好評なジャンルで挑めば良い話だろう?』


「それでも少数派は納得しないでしょう。ARゲームにも流行り廃りは出てきます。どのコンテンツにも――ソレは当てはまる」


『ならば、どうすればよいのだ? 我々はネット炎上によって投資した資金を回収できなくなるのは避けたい』


『それならば、こうすればよいのでは? 保護主義政策ですよ。最近では大国が貿易で行ったのが有名な――』


『ネット炎上を起こそうと言うユーザーを締め出すと言うのか。それはナイスアイディアだ』


「保護主義は一番やってはいけない事――ファン活動で二次創作を一切禁止にして、そこから一次創作で作品を生み出せと言っているような物――」


「コンテンツと言う形である以上、短所が出てしまうのは宿命。ノーリスクのコンテンツなんてあり得ない――」


『我々は資金を出すと言っているのだ。資金を出すスポンサーには絶対とは思わないのか?』


 こうしたやり取りの末、ランダムフィールド・パルクールは様々なガイドラインを追加して始動した。炎上対策として様々なルールを追加し、下手にSNSで炎上させれば――ライセンスを剥奪し、再発行を認めないと言うガイドラインがあったほどだ。


 しかし、ロケテスト等でユーザーの意見を聞いた結果として、あまりにも無謀なガイドラインは削除されたが――いくつかは残る結果となる。



 長渡の話は続く。その中で、西雲春南(にしぐも・はるな)は別の衝撃を受けたのである。長渡の話をしている間、次々とSNS上ではガーディアンによる物とされる炎上勢力摘発の実況が流れていたのだ。


 これも彼のシナリオ通りなのか? 疑問は消えないが――これで、最悪の結果は避けられるだろう。


 しかし、その西雲の考えとは裏腹に――全く予想できないような動きが展開される。それは――マスコミの存在だった。彼らは、ある証拠を秘密裏に手に入れており、それを公表する準備をしていたのである。


「これを公表すれば、芸能事務所AとJに絶対服従する事になる。地球上は、芸能事務所AとJのコンテンツを神として永遠に刻まれる――」


 記者の発言は特大級の負けフラグとなったのは言うまでもないだろう。


 出版社に姿を見せた思わぬ人物によって、この作戦は失敗に終わったのだから。

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