ビスマルク再び


 午後4時、民放のニュースでは思わぬ事件が速報として報道された。

『速報です。先ほど、出版社Aが芸能事務所AとJから賄賂を受け取り、ライバル事務所を炎上させていたとして家宅捜索を受けて――』

 国営放送も同じニュースを報道し、それが――。

『本日、出版社Aが家宅捜索を受けて――』

『出版社Aが芸能事務所AとJから賄賂を受け取っていたとして、警察の強制捜査を――』

『芸能事務所AとJから賄賂を受け取り、ライバル事務所を炎上させていたとして出版社Aが――』

 他のニュースを放送している所も、同じ話題である。

「ここだけは平常運転か――」

 別の部屋から長渡天夜(ながと・てんや)はテレビをチェックし、一つだけ通販番組を放送するテレビ局を発見した。

このテレビ局は長時間の生中継で大量の予算を使ってしまい、赤字となってしまった経緯がある。

おそらく、情報不足で報道しても視聴率は取れないと判断したのだろう。

「それにしても、バハムートは何を――」

 長渡がスマホの画面を見ると、バハムートからの着信があったのを発見した。

時間は1分前――テレビ局がほぼ一斉にニュースを報道する前である。何故、このタイミングで着信があったのか?

「私だ――」

『既にニュースを見れば分かるが、あの出版社に強制捜査が入った。一足先にアレを回収した以上――気付かれる事はないが』

 電話の声の主はダークバハムートである。どうやら、出版社Aへ向かっていたのは彼らしい。

「アレを今のタイミングで報道されるのは――非常にまずい。オケアノスの今後と言う意味でも、公開タイミングは慎重を期すべきだろう」

『それはこちらでも分かっている。だからこそだろう? 自分を呼んだ理由は――』

「そう察していただいて結構だ。それに、今の保護主義的な流れのオケアノスではアレを公開されると一瞬で崩壊する」

『こちらとしては、今発表されても問題はないのだが――』

「マッチポンプの一件は、今のタイミングではSNSテロも引き起こすのは明白だ。だからこそ、悪質なタダ乗り便乗を完全に一掃してから方が――」

『しかし、あの連中はミカサの正体にも気付き始めている。これが別のSNS経由で拡散されれば――』

「今、何て言った!?」

 会話の途中で速報していたニュースとは別の話題に切り替わった時、長渡は唐突に会話の中で出てきた単語に対して――唐突に驚いた。

『ミカサだ。どうやら、あちらの正体と一連の目的にも気付き始めたようだ。マッチポンプの事も、そちらを調べていた時に偶然発見した可能性が高い』

 ダークバハムートから語られた事、それは長渡にとっても逆に都合が悪かった。

下手にアレの公開タイミングを引き延ばせば、それこそSNSテロが起きてもおかしくはない。そのレベルで不味い出来事だったのである。

「ミカサか――待てよ、もしかすると――」

 別のテーブルに置かれていたタブレット端末、それはARゲーム専用ではないので一部の規制対象のまとめサイトも閲覧可能だ。

それをチェックした結果――案の定の展開になっている。つまり、既に情報は何処かから拡散していたのだ。

「案の定というべきか――雑誌のフラゲ情報から、拡散したという事か」

 雑誌の早売りフラゲ記事経由で、ミカサの一件が掲載されていたのである。この状況には長渡も言葉を失う。

こうなるとは予想はしていたのだが――拡散のスピードは侮っていたと言ってもいい。

『雑誌の早売りサイト自体は閉鎖されているのがほとんどだが、個人のつぶやきまでは規制できていなかったようだな――これは裏目に出たと言うべきか』

「拡散してしまった情報を、このままなかった事には出来ない。止む得ないが――」

 マッチポンプの件が公表されていない事には一安心するも、ミカサの正体が今のタイミングで割れたら――。

しかし、ミカサの正体が拡散している中でも『フェイクニュースの類』と信じているネットユーザーが多い。

こうした背景は、やはりこの出版社が今まで不倫報道等を含めた箇所で評価を落としていたのが非常に大きく、まとめサイト勢力よりも発言力の減っていた事もある。

大手まとめサイトにとっては、この出版社はかませ犬ですらなかったと断言されている程に――カリスマ性は失われていたと言ってもいいだろう。



 3月5日、この日は曇り時々雨と天気予報では言及されていたが、その予想は外れ――晴天だった。

その一方でニュースサイトで話題になった出版社の家宅捜索に関する話題は、オケアノス内でも話題となっている。

「まさかの展開だな。あの出版社は○○砲の前例もあっただけに――」

「しかし、まとめサイトがあの出版社をかませですらないと断言していた。なのに、いざニュースになってみると影響が大きい事が分かる」

「どちらにしても、そう言う事なのだろうな――」

「悲劇は繰り返される。超有名アイドル商法で炎上したあの時と同じように――」

「いくら炎上しないように様々なガイドラインや規制をしたとしても、結局は抜け道を経由して炎上するのは目に見えていると言ってもいい」

 その話題を偶然聞いていたのは、ビスマルクだが――彼女は他人のふりをしてコンビニへと入店する。

目に見えたスポーツ紙のコーナーでも一面には出版社のニュースが触れられているので、目に入ってしまうのは避けられない。

(どちらにしても――繰り返すと言うのか)

 スポーツ紙の方に視線を向けつつも、ビスマルクは春雨サンドというサンドイッチを購入してコンビニを出る。

購入したサンドイッチはその場では食べず、アンテナショップまで歩いて向かっていた。

「今は――どちらの意見を尊重するべきなのか」

 ネット炎上はSNSテロにも繋がる為に規制すべきと言う声、ネットの規制によって束縛されたディストピアとなるだろうという声――ネット上では、二分されていると言ってもいい。

しかし、本当にネットを規制したとしても――それで全てが解決するかと言われると違うだろう。

「動くしかないのか――再び」

 一時はパルクールの方へ戻るべきなのか――そう思う時期さえあった。

今はこちらの方が楽しいと思えてくるほどに、SNSの悪意を持った批判が飛び交う状況に嫌気を感じていたのかもしれない。

しかし、悪意のある意見に背を向けていては――先には進めないとビスマルクは判断し、ランダムフィールド・パルクールだけではなくパルクールその物にも改めて向きあう事にした。



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