混沌の炎上勢力


 フレスヴェルクが倒された件に関しては、既にクライアントの耳に届いていた。そして、フレスの報告を聞き――彼らは衝撃を受けた。しかし、時は既に遅かったのである。


『実は――我々の会社を潰しにかかった芸能事務所がいて――』


「芸能事務所? AとJ以外で?」


『その通りだ――既にこちらは手遅れだ。お前は別のARゲームメーカーが同じ悲劇を繰り返さないように――』


「――回線も乗っ取られたか」


 何とかアンテナショップに辿り着き、そこの無料回線コーナーで通信アプリを利用して通話を行った。ARガジェットの方はウルズによって破損しており、通常運用でも支障が出るレベルの為に使えない。止む得ずにスマホの通信アプリで会話をしていたのだが――それもハッキングで強制切断されたようである。


「とにかく、今はあの事実を知らせるのが――」


 ARガジェットが破損している状況では、ARゲームで訴えると言う手段も使えない。ガジェットの方はアンテナショップで修理する事になったが、それでも数時間はかかると言う話である。下手をすればパーツ交換が必須で、新品に変えた方が早いとも言われた。


 あのガジェットは試作型ガジェットを使っている以上――アンテナショップのスタッフにアレを知られるのはまずいだろう。それでも修理しないとまずいのは、新品ガジェットが品切れ状態と言うのもある。まさか、こうなるとは――。



 午前12時30分、ニュースサイトであるニュースが速報されるのだが――その内容は想像の斜め上だった。誰もが目を疑う見出しに、ネット上は祭り状態となる。


【ダークバハムート、芸能事務所Eを解散させる】


「芸能事務所Eが解散!? そんな事って――」


 ニュースを確認した西雲春南(にしぐも・はるな)がフェイクニュースに騙されている――と断言した位には、このニュースを信じる者は少ない。


 掲載したのが大手ニュースサイトなのに、この状態になっているのは様々なまとめブログやまとめサイト等が偽情報を拡散したのが原因なのは言うまでもないだろう。


【芸能事務所Eって、あのグループの――?】


【歌い手の芸能事務所じゃないのか? 夢小説関係で風評被害を受けているという――】


【それこそ動画投稿者の芸能事務所では? 夢小説関係では、あちらも被害者だ――】


【夢小説勢力は完全駆逐すべき。小説サイトは一次創作だけを発表する場を――】


【一次創作者は誰でも利益が得られるような仕組みを作るべきだろう。二次創作は――】


 まるで、芸能事務所Eの解散から飛躍しすぎな話題が拡散していく。これもまとめサイトを初めとした炎上勢力が原因の物である。


「さて――ここからだな。あの連中は、バハムートのブランドネームに便乗してネット炎上させた報いを受けるべきだ――」


 この様子を竹ノ塚駅で見ていたのはダークバハムート本人である。芸能事務所Eは新宿辺りのはずなのに、どうして彼は竹ノ塚にいるのか?

これに関しては――5分後に明らかとなる。



 5分後、まとめサイトのサーバーが揃いもそろってダウンすると言う状態となっていた。サーバーの負荷が限界だった説もあるが、そうであれば――揃いもそろってと言うのはおかしい。


【サーバーオチか?】


【まとめサイトが一斉に落ちるのはおかしい】


【一体、何が起こった?】


【大手サイト等は問題なく見られる。草加市だけの事例では?】


 草加市ではまとめサイトが閲覧できないと言うよりも制限をかけられており、草加市にいる限りは閲覧不能である。しかし、今回に限っては草加市だけの事例ではない。まとめサイトのサーバー落ちは日本全国にまで広まっていた。



 更に5分後、まとめサイトの9割が404エラーになっていたのだ。わずか10分程度の間に何があったのか? そのサイトを管理していた5割ほどが、実は芸能事務所Eだったのである。


 つまり、自分達のアイドルを売り込む為に他のコンテンツを炎上させるまとめサイトを生み出していた。極めつけは芸能事務所Eの所属アイドルを題材としたナマモノと呼ばれるカテゴリーの小説まで、マッチポンプで公開して炎上させているという前代未聞の事まで起こしている。



 午後1時、国営テレビ局のニュースでは芸能事務所Eの社長を初めとして所属アイドルも逮捕と言うニュースが報道された。これによって2次元と3次元コンテンツの勢力は逆転していき、炎上勢力の暴走に拍車がかかる。


 この状況に対し、西雲はタブレット端末の画面をたたき割りたくなったが――そんな事をしても炎上勢力の思う壺なのは分かっていた。


「自分のトラウマを――結局は繰り返されるのか。コンテンツ市場のマッチポンプも、超有名アイドル商法も――」


 しかし、自分の手元にはフレスヴェルクに託されたチップがあった。これをARガジェットに接続する事は出来なかったので、おそらくは別のガジェットに合わせているのか?


「これは――?」


 タブレット端末はニュースサイトとは違ったサイトを開いており、そこには託されたチップと同じ形状の物がスクリーンショットで確認出来た。だが、これはARゲームではない。厳密に言えば、特撮番組の変身ベルトに使用するタイプのガジェットだったのである。


 何故――フレスヴェルクは、この形状のチップを自分に託したのか? 特撮番組を知るような人物に渡せばよかったのではないのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る