第3部

解釈の違い


 2月18日、とあるホームページが更新されていた。そのサイトはARゲームの動画を扱っているサイトである。

一部のARゲームでは録画不可の環境だが、アクション系は比較的に人気が高い。この辺りは対戦格闘のプレイ動画が盛り上がっているのと同じ原理のようだ。

【ARゲーム生中継番組配信決定】

 あの電波ジャックは一種のブラフと思っていた視聴者も、ホームページで掲載されていた告知を見て夢と思ったに違いない。

あの時に言及されていた生配信告知は――事実だったのである。

【真実だったのか――あの発言は】

【スケジュールを見ても、かなり凄い事になっている】

【昼のワイドショーは総入れ替えか。唯一の通販番組と国営テレビのニュースは残っているようだが】

【あのCMはネット炎上用の仕込みと思っていた】

【だとしても、芸能事務所AかJのアイドルが告知をするはず。わざわざバーチャル動画投稿者を起用する意味が分からない】

【一体、何が起きたと言うのか?】

【何処までが事実なのか分からなくなっている】

【スポンサー的には大手が絡んでいる以上、問題はないだろうな】

【芸能事務所が絡んでいたら、炎上だけでは済まされない。単純にアイドル総選挙をガワ替えでやっているような物だ】

【今回の中継は、何の得があると言うのか?】

 様々な意見や感想がつぶやきサイト上に流れているが、大体が例の電波ジャックが仕込みではなかったという部分だ。

仮に仕込だったら、もっと別のタイミングで話題になってもおかしくはないだろう。

「本当に―ー生中継を行うのか」

 公式サイトを見て、改めて驚いたのはビスマルクである。彼女は生中継その物には反対はしない。

しかし、パルクールで似たような事が出来れば――と少しだけ焦りを見せるのだが、慌てても失敗するのは目に見えていた。

放送時期は来週と言う事なので、まずは様子見をするべきと判断する。全ては、第1回放送を見てから行動するべきだろう、と。

「一番気になるとすれば、今回のスポンサーか」

 ビスマルクは一連のテレビ中継を行う事になったスポンサー名を見て、ある疑問を持つ。

芸能事務所主導のタイプではない事が確定している一方、見た事もないようなメーカーが数多くある。

アニメで言う様な制作委員会形式ではなく、もっと別な方法でスポンサーを募集した可能性は高いだろう。

「クラウドファンディングでスポンサーを集めたのか、それとも――!?」

 ふと口にした単語、それが一連のスポンサー問題で自己解決をしていたのである。

クラウドファンディングで資金を集め、目標達成と同時にCMを打った――としても、緊急のCMがまかり通るのか――?

 中には芸能人の不祥事でCMを差し替える事案が存在するが、それと似たようなパターンで強引にねじ込んだのか?

どちらにしても、これだけの手際の良さは別の陰謀が隠れていると周囲に思われても――文句は言えないだろう。

「果たして、スポンサー側は何の目的があって今回の生中継を行う事になったのか」

 つぶやきコメントでもあったが、損得勘定が出てこない――とは言えないような大規模案件と言う事もあり、目的があるのは確定だ。

しかし、つぶやきのタイムラインからはそれと思わしきコメントが発見できない。

大半のコメントは、芸能事務所AとJに潰されるのではないか――という心配ばかりで有力情報が存在しなかったのである。



 2月19日、長渡天夜(ながと・てんや)も今回の件は知らされていない物だった。このニュースを知ったのも、コンビニ弁当を買いに行くついでで知った物である。

一部の上層部が勝手に決めたのか、それとも――? それを上層部に問い合わせようとするが――それは時間の無駄と逆に判断する。

「そちらが別の手段を取るのであれば、こちらにも――」

 長渡がタブレット端末で見ていたのは、動画投稿サイトにおける今回の件に関するプレス記事だ。

彼もスポンサーの名前に見慣れない物を発見し、一瞬だけ動揺したが――他のメーカー名を見て納得する。

ライバルスポンサーが次々と顔を並べている光景は、別の意味でも衝撃を受ける物だったに違いない。

 しかし、彼らは芸能事務所AとJを越えるコンテンツ作りに――と言う意味であれば、納得いく理由にはなるだろう。

資金集めにクラウドファンディングを使った理由は、謎に残るだろうが。

『そちらも苦戦しているようだな――長渡』

 コンビニから運営のビルへ向かう途中で遭遇したのは、何とミカサである。

周囲にギャラリーが出来ているので、ここに来た理由は何となく察する事は出来るだろう。

相変わらずだが、ミカサのARバイザーから素顔が見えるような事は一切ない。

「あの手段を考えたのは誰だ? アイドル化しているような動画投稿者をARゲームに使うのは――」

『実況者や歌い手は黙認しているような運営側に――それを言う資格があるのかどうか。それと、起用しているのは炎上必須な芸能事務所所属の動画投稿者ではない』

「どちらにしても、同じだろう。あの動画投稿者勢力は、諸刃の剣だ」

『バーチャル動画投稿者は――ある意味で画期的な物。二次元のアニメキャラを3次元のステージに立たせる的なプロジェクトは、以前からもあったが――』

「フィクションと現実をちゃんと理解できるもの以外がアカシックレコードを使えば、どうなるのか――」

『あの技術は、どう使ったとしても解釈の違いで炎上は発生する物だ。SNSテロやデスゲームが起きてからでは――対処できなくなるぞ?』

「――どちらにしても、ブーメランと言いたいのか?」

『解釈はご自由に。芸能事務所AとJのアイドルだけを排除しているような炎上対策は、ネタ切れだと警告して――』

 ミカサが途中まで発言した所で、ARバイザーにショートメッセージが流れてきた。

そのメッセージは長渡が閲覧する事は出来ない。その為、ミカサが沈黙したのを見て何か起こったとまでは分かるが――。

『長渡、お前との話は別の機会としよう。今は――それどころではなくなった』

 そして、何か急ぎの用事があるかのようにミカサは姿を消した。しかも、別の場所から出現したバイク型のマシンに乗って――。

そのマシンには若干の見覚えがあった長渡だが、実用化はまだだったはず――と立ち止まる。

「ミカサ――何を隠している?」

 運営の動向、ミカサの行動を含め――自分には何か隠している意図が見て取れる物ばかりだ。

一体、今回の中継に何のサプライズを仕掛けているのか――?


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