アカシックレコードの正体


 2月16日、この日は日曜と言う事もあって観光客が大勢やってきている近くの民宿やホテルもキャンセル待ちになるほどだが、これでも民泊に関しては認められていない。


 過去に重大犯罪に悪用された事で、草加市内が民泊禁止を条例で決定し、その代わりとしてオケアノスエリアの土地にホテルを建てる事で対応した。


 草加市内のオケアノスエリアには――さりげなくだが風俗店や犯罪に悪用されそうな店舗や施設は建てられていない。


 こうした施設の建っている土地を買収し、別施設に変えた事がオケアノスと言うよりも草加市にとっても都合がよかったのだろう。


 実際、ジャパニーズマフィアを2週間弱で壊滅させた事はネット上でも有名となり――モデルケースとして、その他のエリアにおけるマフィア撲滅に貢献する。


 最終的にジャパニーズマフィアは西暦2020年を前にして絶滅したと海外のニュースでも報道された。その後、海外でも同じような活動が起こるが、それは別の話になるだろう。


「まさか、草加市がここまでやるとは――」


 観光客の男性はつぶやく。観光マップをスマホで見ても、その状況は一目瞭然だ。


 問題行動を取るのが、一部のマナー違反をするような観光客や悪質な客引き、一部のアイドルファンと言う段階で――。


「こっちだって正直に言うとビックリだな。そこまでして彼らは――何を恐れているのか」


 別の帽子を深くかぶった観光客は周囲の光景を見ながら驚いている。


 彼の方は、数年前から草加市には足を運んでいたようだが――ここまで変わるのは衝撃だったらしい。


 ジャパニーズマフィアが何をしていたのかは報道されていないので、詳細が不明だが――オケアノスにとって危険な物を開発していたのが原因と言われている。


 その真相は――誰にも知られていない。これを知っていたら、本当にデスゲームが起きてもおかしくないからだ。


「ジャパニーズマフィアは他の地域でも問題視されているが、ここまでやっていいものかどうか――」


「大量破壊兵器等を使って一掃した訳ではない以上、そこまで神経を使う必要性はない。このエリアでは、そう言う存在が不要と言う事だろう?」


「ここまで作り変えていると、本当に一般市民の為なのか――と疑わしく思う」


「ジャパニーズマフィアが周辺住民にも危害を加え、市民デモが起きている以上――排除の動きは自然じゃないのか?」


「それこそ都合がよすぎる。まるで、神の存在が草加市だけを自分の都合よく書き換えているとか――」


「神の存在こそ――ネットが炎上するような煽り発言と取られかねないだろう? 違うのか?」


 二人の観光客は意気投合して、別のショッピングモールへと向かった。何を購入したのかは――定かではない。しかし、アニメ関連のショップなども草加市に出来ていたのを踏まえると――。



 午前中は日曜朝の番組が話題なトレンドで、しばらくして唐突にピックアップされたのは――何とアカシックレコードだった。


 昨日には実在したとだけ言及した文章が拡散した事で話題になったのだが、今回も別の事実が拡散したと言ってもいい。


【アカシックレコードの正体は一次創作オンリーの小説サイト】


 これに関しては、事実なのかどうか疑わしい情報でもあった。しかし、一部のガーディアンが三次元の歌い手や実況者、プロゲーマーを題材とした夢小説勢や厳しめと呼ばれるジャンルを魔女狩りしている現状を踏まえると――これが現実なのだと思うようになる。


 草加市内では一次創作が一番の力を持った世界なのだ――と。ネット上で言及されているジャパニーズマフィアを一掃した神も、そうした一次創作勢を神と考えている人物なのでは――とも。


【どう考えても実現不能な技術もあると思ったら、そう言う事だったのか】


【ここに載っているエッセイにしても、何処の世界を示しているのか分からない】


【もしかすると、別の世界と言うのは――】


【それよりも、あるアイドルグループが人気と言う話だ】


【ARゲームよりも、今の時代はアイドルグループ○○○が一番だから、CDを買ってチャートを一位にしてほしい】


【そうすれば、芸能事務所が儲かって日本は安定する。それこそ平和な社会になるのは――】


 これらのまとめは――地下アイドルファンが作った物だった。該当するまとめサイトの管理人は、速攻で逮捕されたとニュース速報されていたのである。


 まるで、この世界にはアイドル投資家や炎上勢力は一切不要な存在だと明言するような――超展開を連想させた。


 一連の記述及び一部の記述は虚偽の物であり、まとめサイト勢力がARゲームの評判を落とす為の煽り記事だと判明したのは午後になってからである。


 これが偽物の記事だと速攻で気付いて通報したのは、何とミカサだった。この人物は何をしようとしているのか――未だに謎が多い。


『やはり、この手の情報を作り出すような事件を提供するようなメディアは――』


 ミカサは今回の事件が起きたのは、様々な事件を提供してしまう環境にあるのではないか――そう断言するようになった。

自分も過去に炎上案件を見た事があり――それを踏まえて悲劇の連鎖を起こすべきではない、と。



 一方でアカシックレコードの正体を認識したのは、フレスヴェルクだった。他のアカシックレコードの存在を信じるメンバーも色々と調査はするのだが、真実にたどり着けない。


 むしろ、ネット上のまとめサイトや炎上関連のまとめ記事が更なる憶測を呼ぶ結果となっており、かく乱されていると言ってもいいだろうか。


 実際、今回のアカシックレコードの正体を伝える偽記事は別の勢力が焦りを見せて公開した物と分かっていたのである。


「何となくだが、彼らのやろうとしている事が分かってきた気がする」


 フレスヴェルクが手にしていたデータ、それはあるARゲームで使用する予定だった没のデータである。


 それをランダムフィールド・パルクールの仕様に合わせて調整したアプリとも言えるが、違法アプリではないにしても動作保証はされていない。


 このアプリがどのような効果を及ぼすのかは、使ってみないと分からないだろう。その一方で、使えば使ったでまた目立ってしまうかも知れない。


「ライバルメーカーを止めるはずが、これでは敵に塩を送る行為じゃないのか」


 フレスヴェルクは悩む。このデータをどうするべきか――消去したとしても、これを別の誰かにアドレスを特定されて発見したら同じ事。しかし、時間がない事には変わりがない。これを託す人物を決めるのも、これを使うタイミングも――。



 翌日、まさかの展開が起こる事になった。バーチャル動画投稿者が民放のテレビ局で自前の番組を持ち始めたのである。


 その時間帯はお昼の12時――国営のテレビ局はニュースだが、他の報道ワイドショーは全て同じ番組になっていた。おそらくは電波ジャックのような手段を使っている可能性が高い。


『みなさん、今週からバラエティー番組の半数がリニューアルします!』


 若干地味な地方アイドルにも見える彼女は、公共の電波でとんでもない発言をしたのだ。これにはネット上でも祭り状態となっており、彼女が登場したと同時に実況を始めるネット住民がいるほどである。


『ARパルクールことランダムフィールド・パルクールの――生中継番組に差し替える事になりました!』


【!!!】


【まさか、あのアイドルの番組が打ち切りなのか?】


【逆に都合がいいな。バラエティーもそれっぽいアイドルアニメ等で代用できるだろうし――】


【まさか、あのWEB小説が現実になると言うのか――バーチャル動画投稿者が、日本のコンテンツをひっくり返す事を】


【これが連中のやろうとしている事か?】


【こんな事を芸能事務所AとJが黙っていないだろう】


【二次元が三次元コンテンツを一掃する――これもアリだな】


 様々なコメントがつぶやきサイト上で流れるのだが、これらのつぶやきは一切規制されていない。つまり、これらの発言はネット炎上勢力の自作自演等ではない、正真正銘の声なのである。


「三次元コンテンツが二次元コンテンツに逆襲される展開――これって、あのWEB小説で没になっていたシナリオのはずでは――」


 一連の実況をノートパソコンで見ていた西雲春南(にしぐも・はるな)は、この状況に言葉を失っている。まるで、ARゲームを本格的に持ち上げて宣伝するような動きには、過去に自分が見たネット炎上案件やWEB小説を連想させた。


 遂に、世界は別次元の事件を発端にして、一気に加速し始めたのである。

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