動き出したウルズ


 2月25日、遂に告知されていた中継がスタートしようとしている。

放送時間は午前10時30分とホームページ上では書かれているが、これはARFPSらしい。

『デンドロビウムって知ってるかい? 今やARゲームで暴れまわってるって話らしいぜ――』

 謎のナレーションボイスは男性声なので、あのバーチャル動画投稿者ではないが――。

「デンドロビウム――?」

 テレビで中継番組を見ようとしていた西雲春南(にしぐも・はるな)は、ナレーションで言及された単語に疑問を持つ。

WEB小説でも見かけたような単語と思っていたが、デンドロビウムは花の名前でもある。つまり、ごくありふれていた。

しかし、本来見る番組とは違うので――チャンネルを変えてしまったが。

「逆に二次元だけで三次元が――と言うのも微妙過ぎるか」

 西雲は疑問を持っている個所もある。今回の方法に強引さがある、あるいはゴリ押しに見える――のは間違いではない。

一連の展開に疑問を抱かないのは、ARゲームに興味を持たない一般市民だけかもしれないだろう。

何故かと言うと、ストレスとなるような報道バラエティー番組が一掃されたのだから。

それこそ週刊誌の売上を上げる為だけの宣伝塔と言われるような低クオリティー番組は、いわゆる二次創作のヘイト小説と変わりない。

こうした動きを変える事こそ――自分の望んだ事でもあるが、どう考えてもここまで何かを飛ばして都合よく話が進む事にはおかしな点が多いだろう。

「一次創作オンリーのディストピア――」

 あるWEB小説で言及されていた事が唐突に頭をよぎる。一体、あのパワーワードには何のメッセージがあるのか?

しかし、これを真に受けるような人物は存在しない。これが下手に拡散すれば、それこそ悲劇の連鎖が展開され、芸能事務所AとJの思う壺だろう。

「この件は全て終わった。今は、このような状況を展開している勢力の正体を掴まないと」

 ARゲームの運営が主導しているとしたら、提供画面でメーカーの名前が出てくるはずだが――そう言った気配はない。

出てくるメーカーの名前が偽名とか動画サイトで付ける事が出来るサービスの類かと言われると――それとは全く違う。

確かにメーカーの名前は実在する会社だ。確認出来た1社はARではないがゲーム会社である事も調査済である。



 午前11時、ランダムフィールド・パルクールの中継番組が始まった。

映像からは電車の通り過ぎる音がするので、谷塚駅近辺のギルドだろう。そして、プレイヤーの方も既にスタンバイ済みだ。

『さぁて、遂に始まりました! ランダムフィールド・パルクール、ランナーズカップ!』

『6人のプレイヤーが、10キロのコースを完走するか――という単純明快なレース! 果たして、勝利者は誰なのか!?』

 物凄いテンションで喋るのは――バーチャル動画投稿者かと思ったら、違う人だった。実況者タイプの女性型と言うべきか?

あの時のアイドル型は番組マスコットポジションかもしれない。まずは様子見する事にした

「ランナーズカップ――そう言う事か」

 長渡天夜(ながと・てんや)は、ミカサが隠していた物を何となく察した。

バーチャル動画投稿者が関係しているのは想定外だったかもしれないが、ミカサにとっては今回のランナーズカップが本命だろう。

 レースの内容に関しては普通に実況を付けただけのランダムフィールド・パルクールであり、この手のパターンであれば動画投稿者が既に作っているだろう。

しかし、生中継と言う事で注目を浴びているのは事実かもしれない。それは長渡も認めざるを得なかった。

盛り上がり方は内輪向けではなく、ちゃんとノウハウを持っているのは評価できるし――ネット炎上しそうな箇所を排除しているのも大きい。

ネット炎上しそうな編集方法を禁止したのは自分なので、当然と言えば当然なのだが。

「これだけの物を事前準備なしで出来るとは到底思えないが――」

 長渡は最初からランダムフィールドのロケテストをしていた段階で、様々なメディア展開を想定した物に方針転換されていた――と。

しかし、そうだとしても誰かが話を持ってくるくらいの事はしてもおかしくはないだろう。もしかすると、この計画自体が極秘裏に進められていた可能性も否定できない。

 番組自体は1時間で組まれているので、次のレースも視聴する。こちらも特に目立ったようなプレイヤーがいない。

彼らの動きをみる限りでは、テレビで放送されているからと言って悪目立ちするプレイヤーはいなかった。下手に手を緩めれば事故が起こるのは――容易に予想できる。

番組の放送後には『彼らは特殊な訓練を受けています。決して真似をしないでください』ともテロップが表示される。

あくまで生中継はするが、ARゲームの技術自体は特撮で再現した物――と言いたいのだろうか?

それで隠し通せるような技術ではないが、中には本気で魔術の類とも信じる地方はあるかもしれない。

「しばらくは泳がせておいて、正体を暴く為に調査をするべきだな」

 長渡も番組を見て不審な個所があるのを把握しているが、それをすぐに公表すれば逆にまとめサイトや週刊誌に情報を提供してしまう。

これだけは絶対に回避しなくてはいけなかった。一歩間違えると――自分の手で炎上マーケティングをやってしまう危険性があった為である。



 午前12時、中継対象外の新設されたばかりのフィールドでランダムフィールドをプレイしていたのはウルズだった。

彼女のARアーマーは、体格がアマゾネスがインナースーツとは反対とも言えるパワードスーツ仕様だったのである。

『悪くはない――。しかし、ガジェットのデータを反映させるにもデータが足りないか』

 手を少し動かしながら、今回のレース結果に若干の不満があるような――そんな仕草を見せる。

『危険なアトラクションが禁止されている以上――そこまで動かせないと言うのも皮肉な話だな』

 他のARゲームでは派手なアクションを売りにしており、対戦格闘ベースのARゲームでは派手なアクションも目玉にしていた。

しかし、パルクールの場合は道路の使用許可取り消しを受けてはいけない為に、ある程度の成約が存在している。

ARゲームの場合はギャラリー席には特殊フィールドが展開されたり、ARアーマーの強度も高く設定されている等の対応をしていた。

 それでも――アクロバットを禁止しているのは、何故なのか?

ミカサの時代には怪我をしないような派手なアクションもある程度は許容されていたはず。

『こちらも、新型ガジェットのテストを含めて――?』

 ウルズが周囲を見回していると、ARバイザーのマップに反応が出ていた。

そこを振り向くと、見た事もないようなARアーマーを装備している人物が姿を見せている。

ウルズも見た事無いようなバックパックやブースターユニット、更にはアーマーも自分が使用しているのとは若干意匠が違う物が使われていた。

おそらく、アレがアカシックレコードから発見したARアーマーと言う事なのだろうか?

『新型ガジェットと言うのは、これの事か?』

 ガジェットの使用者はフレスヴェルク、これは彼がアカシックレコードをアクセスして手に入れた新型ガジェットでもある。

そして、これが初使用でもあった――。


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