鉄血のビスマルク


 午後1時10分、空の雲行きが若干変化したように感じられた。他のプレイヤーが空を見て、ひと雨あるかも――とつぶやいたのである。

ARゲームの場合は防水フィールドも探せばあると思うが、ランダムフィールド・パルクールには未実装だ。

精密機械が水に弱いのは――ゲーム機に限った話ではないという証拠だろう。背中のバックパックも腕のガジェット端末も――水に弱い。

ジュースの水分やちょっとの水滴でアウトではないのだが、水中に入れた途端に壊れるのは目に見えている。ARガジェットの防水機能は、その程度でしかなかった。

人は汗をかくので、ARゲーム用のインナースーツは耐水要素が高めであり――下手をすればダイバースーツに転用できるレベルの技術があるのに――ここで弱点が露呈した形である。

「雨の中でパルクールと言うのも――」

 雨や台風、大雪と言った天候でコースを走るのは――怪我の原因にもなりかねない。雪の場合には道路が凍結したり、あるいはホワイトアウト現象等で目の前が――と言う危険もある。

それこそ下手をすれば――病院行きなのは、ネット上で突っ込まれるまでもなく分かるだろう。

「しかし、ARパルクールは――」

 ビスマルクは、先ほどの自分のプレイをセンターモニターで見て――色々と思う部分があった。

彼女の動きは『さすがプロ』と明らかに煽られるであろう物であり、圧倒的だった一方で考えさせられる部分がある。

「どちらにしても――」

 ビスマルクの左手には、途中のコンビニで購入したスポーツドリンクが――。

さすがにゲームだとしても運動後の炭酸飲料は、腹にダメージが入る事を知っているかのような展開だった。



 同刻、谷塚駅ではミカサとヴェルダンディのにらみ合いが…回がされていたが――途中からはビスマルクのプレイ動画が出回ったので、ギャラリーは取られた気配だ。

しかし、その方が逆に都合がよかったのは両者とも同じである。下手にオケアノスを炎上させて風評被害を拡散するのは、お互いに本意ではなかったから。

最終的には必要な言葉を交わす事無く、お互いにすれ違ったのだが――ヴェルダンディの行く先は本屋だったらしい。

『そう言えば、ビスマルクのレースがどうのこうの――そんな事が聞こえていたな』

 ミカサがARバイザーのSNSモードを起動させると、メッセージでソレらしい情報があった事に気付く。

今更気づいても――レースの方は既に終わっていた。動画の方は出回っているが、アクセスが集中していて接続できそうにない。

『バイザー経由で見られないのであれば――』

 次に考えたのは、近辺のセンターモニターやアンテナショップで見る方法だ。

マップで検索をかけたが――こちらも考える事は誰もが一緒で――視聴できないオチになる。

『一体、どのような結果が――?』

 動画は後回しにして、結果だけを伝えているSNSまとめを検索したのだが――それもハズレだった。

大抵のまとめサイトがビスマルク圧勝を伝えているのみで、それを利用して他の芸能ニュース等を宣伝している物ばかりだったのである。

 結論としてはビスマルク勝利だけは分かった。しかし、他の情報が意図的に書かれていない。

その後、ミカサが今回の動画を確認出来たのは午後3時頃になってからであり、そこで初めて対戦したのが誰だったのかを知った。



 午後1時20分、西雲春南(にしぐも・はるな)も2度目のパルクールに挑む。

マッチングのプレイヤーはレベル10~20位で突出したメンバーはいない。前回の詳細は覚えていないが、油断しなければ勝てる――と思っていた。

 しかし、現実は非情であった。西雲は――マッチングしたプレイヤーのネームをチェックし忘れていたのである。

その結果が――今回の2位に終わる結果を呼んだと言ってもいい。相手が悪かったのだ。

『結局、貴女も他のプレイヤーと同じその他大勢――』

 ARアーマーを解除し、メットのバイザーも解除したビスマルクは断言したのである。

『結局はガジェットの能力に依存しているだけのプレイヤーだったと――』

 ビスマルクはパルクールで鍛え上げられたスタミナとスキル――それが全てと言ってもいい。

一方で西雲は現状でARガジェットの能力で偶然勝てたような物であり、まだ実力は――未熟と言うべきか。

「ガジェットに依存しているだけ――? じゃあ、貴女はガジェットを使いこなせていると?」

『ARガジェットの使用は必須なのは認める。しかし、ARパルクールも実際のパルクールも基本は変わらない。だからこそ、この差が生まれた』

 自分でも気付かない内に毛嫌いしていた理由が、どうでもよくなっていた。今のビスマルクにとっては、圧倒的実力差で勝利したという事実だけが重要と言ってもいい。

しかし、この展開は――ネット炎上勢力にとっては格好の餌になっていたのは――言うまでもなかったのである。

 後に彼女をWEB小説の登場人物と同じ名前を持っていた事から『鉄血のビスマルク』とネット上では持ち上げられる事となった。

この状況に対して、西雲はミカサとは別に越えるべき壁に直面していたと――改めて知る事となる。

ARゲームでは誰もが通る道なのだが、西雲にとっては早く来ただけの事だった。

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