新たな刺客の出現


 午後1時5分、ミカサはバハムートらしき人物を見かけたが――声をかける事はなかった。

正確にはバハムートがすぐに姿を消したのが正しいと言うべきか。あの混雑状況では、再び探そうにも時間がかかるので断念する。

谷塚駅からは数十人規模で観光客も姿を見せるので――自体がややこしくなりそうな可能性も考えた。

『しかし、彼があの場所に来た理由が分からない。一体、何が――』

 ミカサを目撃し、周囲のギャラリーはざわつき始めている。当然だが、この状況をミカサは把握済みだ。

ミカサはネット上でも100万再生の動画を生み出しているプレイヤーであり、知名度のレベルは頂点と言っていい。

おそらく、ランダムフィールド・パルクールのプレイヤーの中で最強議論が展開されるとしたら、ミカサの名前が出ない事はないと断言出来るだろう。

【ミカサが谷塚に現れたらしい】

【草加かと思っていたら、そっちだったのか】

【草加駅でも何人かの有名プレイヤーがいた。再生数10万超えのプレイヤーもいた】

【しかし、ミカサのプレイは直接見たかったな】

【だが、谷塚と草加以外でアーケードリバースの設置場所はないに等しい。オケアノスの周囲限定と言う事らしいが】

 つぶやきサイトでは、ミカサの目撃コメントが拡散された事でそちらへ客足が流れるのでは――と思われた。

しかし、そう言った事は一切なかったのである。草加駅の方には、ミカサではなく――別のプレイヤーが盛り上げている。

『こちらへ足を運んだのは失敗だったのか――?』

 バハムート位しか見所がなかったのでは、逆に草加駅へ向かった方がよかったのではないか――ARメットで表情を確認出来ないが、何となくは周囲も察した。

いずれは大物プレイヤーが現れるだろう――そう考えていたギャラリーもいる一方で、ミカサ自身がプレイすればよいのでは――と考えるギャラリーもいる。

しかし、その状況下でミカサはアルプレイヤーの姿を目撃する。プレイヤーと言うよりはファンタジーで出てきそうな外見も気になるが。

「あれは――ミカサ?」

 青色のツインテールと言う髪型の女性は――駅から降りた所でミカサを発見した事に驚いている。

彼女自身は貧乳なのだが、さりげない巨乳アピールの服装をしている事に対し――ミカサも視線を向けたくない。

それを踏まえても、一部のギャラリーが彼女の姿をスマホで撮影しようと構えている。それが無駄だと言うのは――実戦しないと分からないのだろうか?

「おいおい、お前があんな事を言うから――大物が来たではないか」

「大物? あのコスプレイヤーが?」

「バカヤロウ! 彼女はコスプレイヤーではない。彼女こそ、プロゲーマーの――」

 ギャラリーの声を聞いたと思われるミカサも、視線を本来は向けたくないが――止む得ず彼女に視線を向けた。

いくらコスプレイヤーでも、露出度に関しては限度があるだろう。それなのに、アマゾネスを連想するような水着姿は――。

『まさか、貴女が姿を見せるとは』

 ミカサも彼女の知名度が高いのは知っているし、最近のまとめサイトでも取り上げられ方が異常という特徴もある。

こうした人物に限って、特定勢力が祭り上げて炎上――と言うパターンになるのではないか、と。

「人の事を言える立場なのか――ミカサ」

『こちらも自分が今までやった事を棚に上げる気は全くないが――お前のやり方には、納得できる訳ではない。ヴェルダンディ――』

 オケアノスの現状を変えようと立ちあがった女性、彼女の名はヴェルダンディと言うが――本名ではないのは明白だ。

それに加えて、彼女はプロゲーマーと言う肩書も持っているのがミカサとは大きな違いだろう。



 同時刻、草加駅近くのオケアノスエリア内では、多くのギャラリーに囲まれている中でレースが展開されていた。

そのレースでは、ビスマルクが楽々と他のプレイヤーをあっさり抜き去り、圧倒的な首位でゴールしていたのである。

「信じられない!」

「プロパルクールプレイヤーと言う話だが――」

「しかし、元アスリートは負けると言う法則があったはずだ? それなのに、ARゲーマーの方が負けるなんて」

 周囲のギャラリーは開いた口がふさがらない状態になっている。ネット上でもビスマルクは失速すると書き込まれ、プチ炎上をしていたからだ。

それが――2度目のプレイで首位になっていた。最初のプレイは苦戦したという話もあるが、ネット上では本気ではなかったと言及するまとめ記事もあった程。

【元アスリートはARゲームでは、基本的にかませ犬ポジションなのに――】

【彼女の場合は元ではない。現役プレイヤーだ】

【現役!? 尚更、負けたら炎上は決定的じゃないのか?】

【それが勝った。どういう事か、分かるな】

【アスリートはかませ犬の代名詞ではない事が証明された事か?】

【それは印象操作に過ぎない。ビスマルクは――その法則は一種のネタに過ぎないと証明したのだ】

 つぶやきサイトでは、様々な意見が飛び交う。

中には感情的になったユーザーによる批判や中傷と言った物もあったが――そうしたコメントは非表示になっていたのである。

何故、このような処置がオケアノス限定で起きるのかは不明であり、これも都市伝説の一つとしてカウントされていた。



 レース終了後、ビスマルクはガジェットに表示されたARメットのバイザー解除ボタンにタッチし、バイザーを一時的にオープンにする。

オープンと言ってもバイクのメットとは違い、バイザー部分がCG演出でそのまま消滅するタイプだ。ARアーマーの消滅と同じ原理だろう。

「慣れてみれば――何て事はないか」

 彼女は汗の一つもかいていない。プロアスリートにとっては朝飯前だった訳でもないだろう。

距離は10キロコースを全力で走ったのに――スタミナの消耗はリアルで走った時よりも押さえられているのも大きい。

「一体、ARパルクールの何を――」

 ビスマルクの目的はARパルクールと実際のパルクールの違いを知ると言うのもあるかもしれない。

何を毛嫌いするのか? ARゲームなのか? それともイースポーツなのか? それとも、更に別な理由なのか――。


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