パルクール
2月12日、祝日の翌日と言う事もあって観光客の姿は確認出来るが、大規模ではない。昨日のビスマルクの一件は瞬く間に拡散し、気が付くと複数のまとめサイトが取り上げる展開となった。
その一方で、ビスマルクとは別の話題も同じようなタイミングで拡散している。それは、ネット上で都市伝説となっている例のメッセージに関する事だった。
『コンテンツ流通にネット炎上は不要であること、その意味を――彼らは知る』
このメッセージをサイトに掲載したとされる人物が草加駅に姿を見せたのである。しかし、その姿は、周囲と同化し過ぎて分かる人間以外には分からないとネット上には書かれていた。
【あのメッセージを発信した人物が来ているらしい】
【しかし、本物と保証はできないのだろう?】
【確かに――メッセージを発信した人物名は書かれていなかったという話もある】
【どうせ、アフィリエイト系サイトに載せてもらおうという考えを持った釣りじゃないのか?】
【目撃証言がある以上は――虚構記事と切り捨てるのは無理があるのでは?】
つぶやきサイトでも情報が偽物と考えている人物が何人がいる為、本当に姿を見せたのか――と疑問を持つ人物もいる。
「しかし、そう簡単に真実を語る人間が――表に出るのもおかしな話だ。もしかすると、売名行為かもしれない」
ネット炎上案件と考え、この人物を気付かれないようにマークしていたのはフレスヴェルクだったのだが――彼の外見では、目立つ可能性もあった。
サングラスで素顔を見せないような工夫をしたとしても、アロハシャツを着ていては明らかに目立つのは誰が見ても分かる。
実際、1分もたたない辺りで気付かれてしまい――姿を消してしまった。これにはフレスヴェルクも困惑をしているが、周囲のギャラリーはそっとしておこう――と言わんばかりに何も言う気配がなかったのである。
「危うく、向こうに目的が知られる所――」
オケアノスに該当するエリアのパチンコ店方面に逃亡した男性だったが、一安心した所で――唐突とも言える周囲の景色が変化した事に驚いた。
『こちらとしては、承認欲求やネット上での悪目立ち、炎上宣伝に悪用されるのは――放置できないのでね』
周囲の景色はCGのオブジェクトが展開されたかのように変化、その後に背後から出現したのは――ファンタジーの黒騎士を連想する人物だったのである。
アーマーはCGの演出が確認出来るので、コスプレではなく本物のARアーマーだ。
しかし、ここはARゲームフィールドなのか――そう考えていた男性にとって、既に遅いと言ってもいいだろう。
彼が逃げ込んだ場所、それはAR対戦格闘のフィールドだったのである。丁度、ここではバトルが行われると言う事でギャラリーも集まりだした。
『ジャンル違いなのはさておき、こちらとしてもグレーゾンとは言え――違法行為に対しては制裁を持って対応する』
この発言をした黒騎士は、30秒足らずで男性を気絶させた。一般人であれば黒騎士の方が問答無用に逮捕されてもおかしくないが、この男性はARガジェットを持っていたのでARゲームをプレイしていたと判断される。
さすがの警察もARゲーム関係には手を出せない為、ネット上でも一種の無法地帯と揶揄されるのは――この為かもしれない。
同日午前10時、一連のまとめサイトを自宅で確認していたのは西雲春南(にしぐも・はるな)である。
「ビスマルク――あの強さは、何処から来ているのか? それに、同じ名前のプレイヤーは別のARゲームでも――?」
ネット上で注目されているビスマルク、彼女は昨日の敗戦を受けて、様々な動画サイトを検索していた。しかし、ビスマルクと言うプレイヤー名が多すぎて絞れない問題に直面している。それでも、ランダムフィールド・パルクールに絞り込めば――該当者を二名に絞り込めた。
「この人物も始めたばかりなのか――。しかし、それにしては何かがおかしい」
西雲はビスマルクの機敏とも言える動きを見て、違和感を持つ。それだけの動きを――何故、彼女は出来たのか?
『ARガジェットの使用は必須なのは認める。しかし、ARパルクールも実際のパルクールも基本は変わらない。だからこそ、この差が生まれた』
そして、昨日の発言を思い出した。彼女もパルクールと言うスポーツの出身者だとすれば――納得できる個所もある。
一方でアスリート出身のARゲーマーが、一種のかませ犬のようになっていく現象も存在している為に、疑問も残るのは事実だ。
その後、西雲はビスマルクの言うパルクールに関して調べ始める。ネットによると、移動という動作を基本にして心身の強さを獲得する方法――と記載されていた。
スポーツと言うには動画サイトを見ても、ビルとビルの間を飛び越えるような危険なプレイの動画も見かける。しかし、こうした危険なアクションをパルクールの団体はアクロバットとして認めていない。その一方で――。
『ARゲームのような、安全性を強調して本来のパルクールとは違う物もパルクールに含めようとするのも――』
団体側はARパルクールもパルクールとは認めないと言う趣旨の発言を行っていた。危険なアクロバットは行うべきではないのは当然だが、逆に安全性を強調して――それこそテレビゲームと同じ感覚で出来ると誤認させるのも違うと考えているらしい。
安全な場所で行われるのを前提としても、ARアーマー等を使用したARパルクールはパルクールとは違うスポーツであると――。
こうした発言に対し、これは単純に団体側の総意ではない――と言った趣旨の考えをしていたのが、あのビスマルクである。
だが、あの時のビスマルクは、ARゲーム初心者にありがちな症状に陥っているようにも西雲は感じていた。
「ARガジェット酔い――」
ARゲームプレイヤーあるあるをネットスラングとしてひとまとめにしたのが――ARガジェット酔いである。これに関しては症状を発症しないプレイヤーもいる為、個人差があるのは間違いない。
しかし、これがひとたび発症すれば――ネット炎上不可避という展開になる為、まとめサイト管理人などもネタを探してはARガジェット酔いの仕業としたがる。
超有名アイドル商法、炎上マーケティングも――民度の低いプレイヤー等によるSNSテロと明言している人物もいるだろう。これらをWEB小説の出来事であり、ノンフィクションではないと発言する人物だっている。
午前10時30分、ビスマルク無双とも言える展開は続く。彼女のレベルは、気が付くとパルクールレベル30に該当する高クラスプレイヤーにまで到達している。他の低レベルプレイヤーでは歯が立たないほどにまで短期間で実力を上げていたのだ。
しかし、ビスマルクのプレイ動画は10万再生は超える物が多いのだが――コメントは荒れている。異世界転移や異世界転生物でチートスキルで暴れまわるような主人公、それに例えられているのも理由の一つだろう。
炎上を助長するようなコメントは運営判断で非表示にされるのだが、それが追い付かないような状態になっているのも荒れている原因かもしれない。
その一方で、セクシーなコスプレイヤーによるランダムフィールド・パルクールの動画は、瞬間的に5万再生は余裕な程に人気がある。強すぎるプレイヤーの動画もワンパターン過ぎて見放す――と言う事なのかもしれないが。
「そろそろ――頃合いか」
一連の動画を見て、アンテナショップへ向かう人物がいた。それは、先日の反省を生かして地味な服をチョイスしたヴェルダンディだったのである。
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