些細なコメントが、炎上の引き金となる


 動画の視聴者数が1万人を超えた辺り、それはクライマックスが近い事を意味している。

駅伝でもスタートと中間地点とゴールだけ見れば充分的な物なのだろうか? それではランダムフィールド・パルクールを楽しめない。

【時計を見たら、まさか3分経過していない位とは――】

【??】

【訳が分からない。そんなにスピード決着するのか?】

【ARガジェットの性能的な意味で、スピード決着の傾向が高いだろうな】

【試しに200メートル走をアスリートとARガジェットで対決したら、圧倒的な実力差が出たらしい】

【一体、ARゲーム運営は何をするつもりなのか?】

 中継映像に流れてくるコメントは、途中から視聴した人間が明らかにいるようなコメントも混ざっている。

炎上させる意図ではなく、おそらくは普通に途中入場なのだろう。

【ここまでのスピードレースだったとは、誰が予想した?】

【しかし、ブーストシステムが実装されている段階で――察するのは出来るだろう?】

【どう考えても、あのシステムはご都合主義を加速させる】

【本当に、それを本気で考えているのであれば――最下位スタートから逆転首位になった展開が、どれだけあった?】

【あのシステムは5分間しか使えない。それに、冷却タイムも設定されている以上――連続使用は事実上の不可能に近いだろう】

 動画のコメントでは、早速の対立煽りにも似たような構図が展開されている。

まるで――このレースが出来レースと言わんばかりに。



 先ほどまで首位だったレーヴァテインは、7キロ地点で首位を奪われる。

当初、彼はシクラメンがブーストをしかけたので首位になったのはシクラメンと思いこんでいたのだが――。

『馬鹿な――あの距離を逆転したと言うのか?』

 冷静に分析したとしても、あり得ないような展開が起こった。まるでご都合主義のテンプレと言うべきだろう。

『一体、何が起きたのか――』

 あるいは主人公補正なのか? この展開はレースを観戦していた大半の視聴者が呆気にとられる結果になった。

レーヴァテインも、抜かれた事は分かっていた物の――それが誰なのかまでは把握できなかったのである。

抜かれた直後に順位表をチェックするまでは。

 しかし、こうした展開を最初から確信していた人物も存在している。

それが――谷塚駅に設置されたモニターで中継を見ていた人物だ。黒のコートにそでを通さず、肩から掛けて――。

「まさか、あのシステムを解析している勢力がいたとは――」

 長渡天夜(ながと・てんや)、彼は西雲の使用しているガジェットのシステムに覚えがあった。

試作型ガジェットの半数は表に出る前の段階で、別の場所に封印されていたりするケースが稀にある。

もしかすると、それが持ち去られた可能性も考えていたのだ。こうしたガジェット流出はARゲーム技術の発展と言う目的もあって、全ての事例で違法と認識された訳ではない。

「だが、これではっきりした事がある。ギルドは、明らかに何かを敵視して対抗策として――アレを使用した」

 長渡は思う部分はあるのだが、ここで逆切れしてネットを炎上させても全く得をしない事を知っている。

それこそ――ARゲームプレイヤーからは誰得と言われる可能性があり、そこから芸能事務所に有利な状況を生み出しかねなかった。

「こちらも本格的に動き出す必要性を――感じた瞬間と言うべきか」

 そして、何かを思った長渡は時計を確認して、そのまま近くのコンビニへと入っていく。



 残り時間は1分――と言っても、自分が起動させたヒューマノイドモードの事だが。

『ゴールまで残り2キロ――間に合うのか?』

 西雲春南(にしぐも・はるな)は何とかヒューマノイドモードのコントロールが出来るようになった。

しかし、残り1分になるまでの間にはナビのルート通りに進んでいただけで、これと言った操作は行っていない。

それまでにどのようなアクションで他のプレイヤーを抜いたのかも、西雲の記憶にはないだろう。

【あの動き方、パルクールとは思えない】

【まるで、走っているだけにも――?】

【違うな。途中でロープアクションを使っていた】

【ロープ? ターザンの様なアレでは?】

【しかし、シクラメンも空中ブランコを思わせるアクションを披露していた】

【ヒューマノイドモードでは、ああいうアクションも可能なのか?】

 単純に『凄い』や『信じられない』と言うコメントも流れているが――それ程にパルクール・ガジェットの凄さを見せつけられる結果となる。

この常識が通じないようなパフォーマンスを見せられては、パルクールプレイヤーの株は下がるばかり――。

【いや、まだ分からないぞ。首位争いが――】

 このコメントを見た事でビスマルクは、アンテナショップへ向かう足を止めた。

歩きスマホを見られれば、明らかにネット炎上されかねない状況だったのもあるが。

(パルクールのチームがARパルクールを認めていなかった理由は――)

 ビスマルクは、パルクールの普及組織等の考えが古いのではなく――あのガジェットに危険性があると考えているという説に辿り着いた。

ARゲームは、確かにガジェットを使用する安全が約束されたゲームと言ってもいい。しかし、ロケテストでは小規模の事故もあった話がネット上に流れている。

ソレが真実なのかどうかは問題ではない。あれほどのARガジェットが欠点なしの完璧なシステムではないのは――。

【ランスロットがリタイヤしたらしい】

【おい!? どういう事だ?】

【ランスロットのガジェットが止まった?】

【まさかのリタイヤか?】

【サレンダーとか、そう言った概念はランダムフィールドにあったのか?】

【しかし、ランスロットがリタイヤになったのは事実らしい】

 動画上ではランスロットのリタイヤを告げるコメントが流れ、そこから連鎖的に様々なコメントが投稿されていく。

まるで、ネット炎上を思わせるような展開であり――ARゲームがネット炎上と言う問題に巻き込まれるのではないか、そう言った懸念が拡散していった。


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