ランナーとギャラリーと


 ランダムフィールド・パルクールのフィールドは、基本的に車の通行や道路の渋滞等のデータを参考にして生成されている。


 完全ランダムと言う訳ではなく、ある程度の法則をベースにして作られていた。そうでもしないと、事故が起きるのは否定できない事情もある。


 ARゲームは一部ジャンルによってはエクストリームスポーツとも呼ばれており、それに運営側が懸念を抱き――ARガジェットの様な存在が生まれたのかもしれない。


 どのような経緯であれ、安全にプレイ出来るゲームを提供したいと言うメーカー側の意向が――あった。


「しかし、ARゲームはエクストリームスポーツと認識されていた時は、18歳未満のプレイを禁止していた時期もある」


「ソシャゲの廃課金問題やコンプガチャ、そう言った炎上要素を削ろうと考えた自衛策――としては、かなり雑だった気配もしないでもない」


「18歳未満プレイ禁止と言えば、アダルトゲームを思い浮かべる。それを踏まえると、そう言った要素がないARゲームは――」


「しかし、ARゲームの一部は本気で危険なアクション等も存在する。年齢制限は遊園地のアトラクションにもある以上、普通と考えているが」


「ARゲーム自体が万人受けではないのは認める。しかし、硬い考え方で物事を見続けるのは感心しない」


「そのARゲームで、地域振興を考えている草加市は何を――」


 VIP席にも似たような場所でレースを観戦している男性二人、その目の前には蒼い光となって走り抜けたランナーと思わしき姿が見えた。


 言葉を失っているのを踏まえると、その光景を信じたくはないようだが――。


【あの瞬発力は、どうやって?】


【あれがヒューマノイドモードだ】


【元々人型のARアーマーもあるのでは?】


【その場合は別形態へ変形するタイプである事が多い】


【マッハのスピードが出ると言う話もあるが?】


【それこそネタの領域だ。空想科学じゃあるまいし――】


 高速で移動するランナーを見て、驚くギャラリーがコメントを拡散すると――そのコメントにレスを付けていき、次第に大きくなっていく。


 更にはまとめサイトが取り上げていき、アフィリエイトでもうけようと言う人間が現れる。しかし、ARゲームではタダ乗り便乗宣伝等は禁止されていた。


 超有名アイドルによるコンテンツバブル崩壊とも言える事案があり、それが理由とも考えられていた。これもネタにマジレス――と言う部類なのかは明らかになっていない。



 ある意味でも暴れ馬に乗っているような気分で――西雲春南(にしぐも・はるな)はヒューマノイドモードをコントロールしようとしている。


 しかし、そのスピードは時速20キロ――ランナーの速度とは思えない。さすがに時速50キロと言う速度を出していたら、スピード違反で捕まるだろう。


 カートやバイクを使うARゲームでも、そこまでの速度が出ないようにコントロールされている。実際、ARガジェットを使うには一種のライセンスが必要だからだ。


『こっちとしては、これだけの速度が出るなんて――想像できていなかったのに』


 ランナーの速度は平均で時速10キロから15キロ位が出るとされている。瞬間的な物ではなく、継続的な物だ。


 ARガジェットを使用するランナーが箱根や出雲と言った有名な駅伝に出たらどうなるか――それこそ、ある意味でバランスブレイカーを象徴する。


 それを踏まえると、ネット上で言われているネタも本当になってしまうのでは――そう疑われてもおかしくはない。


【これは噂のレベルであって週刊誌でも切り捨てられる話題だが、ARゲーマーを世界的なスポーツ大会でメダリストに仕様と言う話があるらしい】


【厳密にはARゲーマーではなく、芸能事務所のアイドルを――】


 これこそネタにマジレスと言うレベルかもしれない。ARガジェットには特殊なシステムが組み込まれているのは分かる。それらのシステムが公開されれば、こうした疑問は浮かばないだろう。


 特撮の様な技術で演出しているだけ――と言う様な人間が挑み、無謀な選択の末に玉砕した事例は指折り数えるほどのレベルではなくなっている。


(しかし、それを利用して世界のスポーツ競技でメダルを総なめにするなんて、何処かの俺TUEEEE小説の世界だろう?)


 この発言はARゲームに関して調べ始めた際に発見した物だが、あまりにも話が飛躍しすぎていて信じる気にもならなかった。


 信じたくない理由には、ネットが大炎上した案件――それもあったからかもしれない。


 詳細は不明だが、ネタにマジレスをした事で怪我人が出たという――誰も触れたがらない案件。あの事件である。


『これを使いこなせれば――何とかして勝利する事も出来るかもしれない!』


 そして、西雲はナビゲーションの指示に従うようにして矢印通りにコースを進んでいく。無茶にショートカットしようとして、コントロールを失ってしまっては――元も子もない。


《ヒューマノイドモード、システム解除まで残り4分》


 既に1キロは走っただろうか? 残り4分と言うリミットは彼女にとって長いのか――定かではない。


 しかし、1キロ走ったのに――5着のランナーは、西雲の目の前にまだ見えてこなかった。ARバイザーによる順位表では、5位はシクラメンと表示されている。


 厳密にはシクラメンの10メートル先にはランスロットがいる状態。何故、ランスロットがトップではないのかは不明だが、向こうにも油断があったと言うべきだろう。



 トップは途中で入れ替わり、2キロ地点の段階でレーヴァテインが首位に変わっている。ランスロットも油断をしていた訳ではない。


 単純な話、ナビゲーションのルートとは別のショートカットをレーヴァテインが使用した事――それが一番影響していた。


「なるほど――そう言うルート取りも可能なのね」


 コートの袖を通さず、肩にかけてセンターモニターを視聴していたのはビスマルクだった。帽子の方は深くかぶっており、周囲に彼女の視線は見えない。


 彼女が見ていた映像はレーヴァテインを追跡したカメラ映像との事だが――個別のプレイヤーをカメラマンが追跡できるかと言うと難しいだろう。


 中継に使用されているのは、無数の無人ドローンである。しかも、ある程度の距離を進むとドローンは自動的に太陽光等を使用した充電スポットに自動帰還する仕組みだ


 その為、稀に追跡できないケースもあるのでは――と思われるが、そこは近場の無人ドローンが中継を引き継ぐ形になっているので、心配はないらしい。


 無人ドローンは軽犯罪者の取り締まり等でも活用されている為、ある意味でも監視社会とも言えなくもないのだが、草加市民は平和な生活が守られるのであれば――という意見が多かった。


「しかし、あまりにもご都合主義過ぎるシステムが――」


 ビスマルクはつぶやくが、迂闊な事を言うとフラグになると思って途中でキャンセルした。無人ドローンが複数飛んでいるという事は、こうした発言も誰かが拾っている可能性もあったからである。

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