走り出す前に


 西雲春南(にしぐも・はるな)は時間まで待つのは退屈と考え、別の場所にあったモニターでレースを観戦する事にした。

ランダムフィールド・パルクール、ARガジェットを使う個所以外はパルクールと同じような物――とウィキにはざっくり書かれている物もある。

しかし、その説明で理解できるような人間は少ないだろう。一から十までとは言わないが、ある程度の順番に沿って説明する事が必要かもしれない。

『マニュアルを読んだだけで――クリアできるとは到底思えないが』

 ゲームをプレイするのに説明書も読まずにプレイするプレイヤーもいれば、説明書を読んでからプレイするプレイヤーもいる。

シリーズものだと、前作をプレイ済みと言う事で続編も似たような感覚と考えて、そのままプレイするケースだってあるほどだ。

しかし、西雲はARパルクールの動画もいくつかチェック済みな一方で、別の何か――引っかかる物を感じている。

(ナビに忠実に従うべきか、それとも――)

 ARバイザーには最適なルートを計算するナビが実装されているゲームもあるのだが、マニュアルを見た限りでは――見当たらなかった。

しかし、危険なルートを通過しないように誘導をする事はある。ゲーム中で危険と判定されたルートを進むのは、失格となる。

この辺りはレースゲームで言う無理なショートカットに似ているのかもしれないが――。

『どちらを選択するにしても、コースアウトをすれば失格と覚えれば分かりやすいかも――』

 再び周囲の様子を見るが、数人のプレイヤーが待機している位で変化と言う物は見られない。

一部のプレイヤーがセンターモニターを見ているようだが、二台のモニターで違う場所のレースを中継しているようである。

西雲が受け取った整理券は2番とガジェットには表示されていた。それを踏まえると、あの2番のセンターモニターを見るのが良いのかもしれない。

『何もチェックしないよりは、気休めにもなるかな』

 マニュアルを読んだだけで1位を取れれば、そこまで苦労はしないだろう――慢心をする事こそ、逆にフラグを立てかねない。

そう考えた西雲は、相手プレイヤーが誰になるのか分からない状況で、他のレースを観戦して様子を見る事にした。



 西雲の目の前にあるモニターでは、既に数人がベンチに座って中継を観戦している。中にはプレイを終えた人物も混ざっているようだ。

その数人もインナースーツ姿であるが――逆にインナースーツ以外の人間を探すのは困難かもしれない。

『普通に走っているだけだが?』

「そう見えるようでは、まだまだ甘いな」

『ARパルクールと言っても、パルクールにARガジェット要素を足しただけか?』

「似たような事を行って挑んだアスリートが玉砕した話題は知っているだろう? 世の中、そう上手くは行かないのさ」

 西雲の隣で会話していたのは男性プレイヤー二人のようだ。もう一人は既にプレイを終えたらしく、メットは脱いでいる。

それを考えると、ゲームを終えるとガジェットが解除されるのか――と西雲は考え始めた。

しかし、レースを終えてもメットを解除しないプレイヤーもいるので、やはり違うのかもしれない。

【どう考えても――あのガジェットは反則では?】

【ランダムフィールドでは、変形型ガジェットの使用は反則ではない】

【パルクール・ガジェットは――ランダムフィールド特有の物。アレがなければゲームは成立しないだろう】

【ゲーム? どういう事だ? パルクールはスポーツ的な物ではないのか】

【色々とあるかもしれないが、パルクールの由来はゲームではない。それは――】

 中継の映像に流れるコメントでは、パルクールに関する説明が流れている。

それによると、元々は心身を鍛える為のスポーツと言う位置づけらしい。ARパルクールも、そう言う位置づけなのかは不明だが。

一方で、危険なアクロバットはパルクールとは認めていないと言う。ARゲームでも危険なアクロバットを禁止しているのも、似たような事情だろうか?

中継映像を見る限りでは、心身を鍛える的な意味合いはないように感じられる。確かにプレイヤー同士の真剣バトルは見て分かるが――。

(あの動きは、ミカサのソレとは大きく異なる。あまりにも派手に立ち回り過ぎている)

 西雲はミカサの動きを把握した訳ではないが、現在プレイしているプレイヤーの動きを観察していた。

動き方は派手、まるでアイドルのように目立とうとしている、慣れていないので転倒も多い――他のプレイヤーの動きも一通り見たが、ゲームに集中できていない証拠だろうか?

このレースはハズレと言うべきなのかもしれない。ミカサの様なプレイヤーは滅多に現れる物ではない――ともネット上で言及されているので仕方のない事なのだろう。

『この動きを見ていると、フラッシュモブ等を思い出す――』

 ふと、思っていた事がそのまま口に出てしまった。迂闊な一言はネット炎上の原因となる――それは自分が一番分かっているはずなのに。

しかし、それに反応するプレイヤーは全くいない。爆音で音楽でも聞いているかのように、誰も振り向かないのは逆に不気味と感じる。

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