その光景を目の当たりにして


 ギルドの管理するフィールドに到着した頃には――ARフィールドが生成される所だった。

しかし、エントリー自体は受付終了していたので次のプレイ待ちである。西雲春南(にしぐも・はるな)は待機待ちの電光掲示板を見るが――キャンセル待ちだった。

アプリの時計を見ると午後1時30分――時間感覚を失う様な事ばかりが連続したのも、理由の一つなのだろうか?

 息を整えつつ、今は座って休める場所を探すのだが――それっぽいスペースを探すほうが一苦労かもしれない。大体が、立ち見で観戦しているからである。

ただし、メットを外す方法がいまいち把握できていないので、メットは被ったままだが――あえて気にしない方向のようだ。

しばらく散策を続けて、1分経過した所でマップ上に休憩所の地図が表示――手間が省けたと言うべきか。

『それにしても――実際に見て見ると、何と言うか――』

 西雲の見た光景、それは数年前にテレビでやっていたスポーツ系バラエティー番組を彷彿とさせる物だった。

ARゲームは安全が確保される事が前提条件でサービスを行う物だが、これはどう考えてもエクストリームスポーツの類と言ってもいい。

ウィキ等で事前に情報を見たとしても、実物を見なければ確認出来ない物もある。

遠方のプレイヤーにとっては動画と言う手段もあるのだが、フィールドが近くにある場合は直接確認も可能だろう。

ただし、それが可能なのも草加市内周辺限定と言うのも――色々な意味で皮肉なのだろうか?

 ランダムフィールド・パルクールはロケテストの行われた時にも、その危険性は指摘されている。

怪我をしたら、タダでは済まないのは――見れば分かるだろう。

バラエティー番組でも怪我人が出たという事で番組が打ち切りになるケースが過去にあり――その意味では反省点を生かしたARゲームとは言える。

しかし、これだけ危険とも言えるエクストリームARゲームを1回200円でプレイしようと言う人間はいるのか?

『あれだけ民度が低いゲームが――覇権ジャンルになれるわけがない』

 ギルドでの出来事やネット上における炎上事件を踏まえ――民度が低いゲームに投資する価値があるのか?

貧乏ゆすりはしないものの、周囲の様子を目で追っている。彼女の視線はARメットで素顔が隠されている関係で他人に見られる事はないだろう。

(しかし、本当に民度が低いのか? それは特定のまとめサイトやメディアがそう認識させているだけなのでは?)

(それこそ――特定勢力の思う壺ではないのか? 自分は何の為に、ここまで来たのか――ただ、ゲームを観戦する為だけなのか?)

 西雲はミカサの動画が100万再生した事実を思い出す。それを踏まえると、ちゃんとしたプレイヤーだっているのではないか?

勝手にオワコンや一部勢力の遊び場等と決めつけてプレイしない方が――逆に失礼なのではないか?

(ARゲームも当時はプレイする為のハードルが高かった。それはVRゲーム等にも言えた事だ)

(特定勢力が炎上させて、それを理由にそのコンテンツをオワコン指定するのは――)

 西雲は徐々に考えを改めてはじめていく。そして、しばらくして周囲の反応を見るのを止めた。

しばらくして、何処でプレイエントリーをする必要があるのか調べ始め――彼女は覚悟を決める。



 午後1時40分、西雲は近くのコンビニにも似たような建物に入っていく。看板にはエントリー受付とある。

『中は無人なのか――?』

 周囲にスタッフがいるような気配はなく、ほぼ無人と言う状態だった。いたとしても順番待ちのプレイヤーが数人いる程度だ。

順番待ちのプレイヤーも西雲に話しかける気配は一切ない。ARバイザーで攻略動画を視聴したり、攻略ウィキを閲覧しているのだろう。

そして、床の矢印に誘導されるかのように受け付け用のセンターモニターを発見する。見た目は銀行のATMやコンビニにあるマルチ端末の部類か?

《ARゲーム用のアカウントを確認します。パスワードを入力してください》

 画面にはパスワードを要求するメッセージがあるが、この状況で第3者に読み取られたりは――と。

しかし、アカウントと言っても思い当たる物が――と思った矢先、西雲は右腕に装着されたハンドコンピュータにも似た端末を画面にかざす。

《パスワード入力を省略しました》

 画面を見て呆気にとられたのは西雲の方である。このガジェットにはARゲームのアカウントも紐付けされているのか――と。

そして、次に表示された画面を見て再びフリーズした。

《このガジェットにはランダムフィールド・パルクールのデータはありません。新規で作成しますか?》

 選択は『Yes』か『No』である。最初からデータがインストールされている物ではなかったのか――と考えても無駄だろう。

考えても仕方がないので、ここは『Yes』の方にタッチしてデータを作成する事にした。プレイヤーネーム等の登録を聞かれなかったのが気になるが。

『後は――何を入力すればいいのか』

 入力するようなデータはある程度入力が終わっている状態だったらしい。唯一の登録する物と言えば、あの時のボードである。

あの大きさのボードを、この場で呼び出すとなると――周囲の広さを考えても他のプレイヤーに迷惑がかかると思った。

しかし、そう言った心配を無視するかのようにインストール作業が始まっている。これには、さすがの西雲も――。

『ウイルスの類じゃない――よね?』

 この状況には心配をしてしまう。過去にARゲームでウイルス騒動があったのかは不明だが、こうした自動ダウンロードにトラウマを持つ者も少なくない。

最終的にインストールしていた物は、あの時のボードをランダムフィールドに出現させる為のプログラムだった。

これで、全ての準備は整ったのである。あとはプレイ順番を待つだけ――。

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