接近してくるもの
ギルド内部では、まさかの人物が姿を見せた事に驚きの声が上がる。
その人物とは――あのミカサだったのだ。ミカサを知らない人間は周囲の驚きに疑問視するのだが、ここにいるほとんどのプレイヤーはミカサを知っている。
「ミカサ? あの伝説の――」
「そちらではない。来ているのは、動画再生数が数日で100万再生に突破した記録を持つ方だ」
「どっちも同じではないのか?」
「向こうの三笠は女性プレイヤーだ。あちらは――正体不明ときている」
「正体不明? 匿名プレイヤーはARゲームが出来ないのでは?」
「対戦格闘で覆面プレイヤーが問題ないのと同じだ。ARパルクールでも覆面プレイヤーは認められている」
「覆面レスラーのような物か?」
周囲のプレイヤーはミカサの登場に驚きの声を――と言う人物もいる。しかし、ミカサを知っていても盛り上がっている理由に疑問を持つ人物も少なくない。
一方のミカサは周囲を見回しているのだが――特に何かを仕掛けようと言う様子は見られなかった。ギルドスタッフも向こうから仕掛けてこない限りは静観する方向だが、向こうが攻撃を仕掛けるのであれば――容赦はしない。
ミカサの来店から5分が経過し、その頃にはインナースーツ姿の西雲春南(にしぐも・はるな)が姿を見せる。
「メットの方は解除できたけど、こっちの方が――」
ARメットは戻る際に脱いだが、スーツの方はそのままだ。どうやら解除方法が分からないらしい。脱いだメットに関しては手元にはなく、別の場所に転送されたような形だ。
(それにしても、柄の悪いプレイヤーが多いように思えるし――)
周囲を見回して改めて思うが、本当にギルドなのか――と思いたくもなる。
彼らの様子を見ていると、ネット炎上を考えているような自己主張や悪目立ちをしそうな雰囲気さえ感じ取れた。
それを踏まえて、西雲はギルドの民度が低いのでは――とも疑い出す。しかし、それを言い出せばコンテンツ流通自体が――。
『貴様――ARゲーマーだな?』
ある男性プレイヤーが、西雲に近寄ってくる。ARメットを被っており、自分の顔がばれないと思っているのだろうか?
右手には拳銃を思わせるようなARウェポンを持っており、それで西雲を撃とうとしている可能性も高い。
「ARウェポンは、ARゲーム以外で使用できないはず――」
『その通りだ。貴様は何も知らないのか? このギルド自体がARゲームのフィールドだと言う事に!』
西雲が拳銃に反応するよりも先に、男性プレイヤーが拳銃を撃つのが早かった。
引き金を引き――放たれた銃弾はCG独特なノイズ等があるものの、一目ではCGとは見破れない。
ARゲームのCG技術は、据え置き型ゲームの数歩先を行っていたのである。
その光景を見たミカサは、新たなプレイヤーが出現したと感じ――現場へと急ぐ。何故、急ごうと思ったのか――そこに新たなプレイヤーがいる為という一言で説明が付くだろうか。
「あなたは――ミカサさん?」
西雲が駆け寄ってきたミカサの姿を見て、声をかけた。男性プレイヤーの方は、それにも気付かずに2発目を撃とうと銃を構えている。
『ミカサ――?』
「姉(あね)さん! もしかして――」
ミカサは唐突に拳銃を持った男性プレイヤーとは別の声がした方角を振り向き、それ以上言うな――と無言で黙らせる。
その男性プレイヤーは事情を知らなかったという訳ではなく、どうやら何かの情報を発見しようと言うフラッシュモブ的な存在だったのかもしれないが。
拳銃を構えている方はフラッシュモブとは無関係であり、2発目のターゲットをミカサに変えた。
しかし、その拳銃が火を吹く事はなかった。ミカサは瞬時にして右手を開いて――何かのコマンドを右腕のジャケットに入力し、拳銃を消滅させたのである。
ここまで――わずか1分足らず。西雲には何が起こったのか見当もつかないような反応速度だった。
男性プレイヤーの方は、ガーディアンが駆けつけた事で逮捕される流れとなった。
ギルドでトラブルを起こす事は入口の注意書きにも明記されており、それを破った事で彼はライセンス凍結と出入り禁止となる。
ARゲームではトラブルを起こすとライセンス凍結は当然の如く起きるのだが、それ以上に怪我人を出すとライセンスはく奪も――あり得た。
しかし、ギルドでトラブルを起こした場合は、ギルドに設置されたARゲームはギルドでしかプレイできないので――お察しである。
『今のは忘れてくれ』
ボイスチェンジャーの声は明らかに男性なので、あのプレイヤーの言う事が嘘と言う事――と言っていいのか?
そう言う認識で――と言わんばかりにミカサが対応しているのは、西雲にとって若干以上に引っ掛かった。
しかし、西雲が何かを聞こうとしたタイミングで、ミカサは何処かへと姿を消してしまったので――答えはお預けとなる。
「一体、ミカサは何を隠しているのか――」
動画再生数でも、この人物以上に再生数が上のプレイヤーは明らかにプロゲーマーか有名実況者のみである。
近年ではバーチャル動画投稿者と言うジャンルも出ているが、そこまでミリオン再生を瞬時に出せるのはごく稀だ。
本来の目的であるランダムフィールド・パルクールの場所も教えてもらったので、西雲はダウンロードした地図を参考にして指定された場所へ向かう。
ギルドの外を出て、パチンコ店やコンビニ、それ以外にも建物があるような商店街――そこを通り過ぎて徒歩1分、ギルドの管理するフィールドを示す看板を発見する。
《ランダムフィールド・パルクール1号フィールド》
電光掲示板なので、気付かなければ――それまでかもしれない。ARゲームは様々なジャンルがあるので、電光掲示板では他ジャンルの宣伝もしている。
ランダムフィールドだけを宣伝する訳にもいかないのだろう。この辺りは大人の事情か。
そして、西雲がフィールドに到着したタイミングで、ランダムフィールドが生成される場面に遭遇する。
テクスチャーの様な物が展開される演出でコースが生成されるが、基本的に周囲の光景が劇的に変わったりはしない。
【現実の光景が、突如としてファンタジーになったら――】
【さすがにWEB小説のテンプレみたいな異世界転移は、ARゲームで扱う事はないだろう?】
【ARアクションだといくつか存在するが、屋内フィールドが多い印象だ】
【屋外だと大雨や大雪などの天気に弱い。事故防止とはいえ、過敏になり過ぎ】
【しかし、重傷者がARゲームで出たら一大事だ。それに、ARゲームはWEB小説にあるようなデスゲームではない】
【下手にデスゲームと認識されたら――芸能事務所がARゲームを鶴の一声で消しかねないだろう】
西雲がフィールドに入ったと同時にARメットが装着され、つぶやきサイトの様なSNSコメントが表示されたが――。
『これをミュートする方法も聞けばよかったかな』
インナースーツがそのままなのは半分あきらめたが、つぶやきサイト等のSNSには西雲も若干のトラウマを持つ。
ネット炎上に関わったのが原因で、彼女は今までの性格を捨てなくてはいけなくなった――と言うよりも、即座に捨てると言う選択しか出来なくなっていたのである。
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