ARゲームは屋内で?


 1月30日、この日はあいにくの雨である。豪雨ほどではなく、ARゲームにも影響はないと思われた。しかし、雨天では屋外をフィールドとするARゲームでは中止の機種も存在している。こればかりは仕方がないのだが、全天候対応のシステム開発が急がれていた。


 ARゲームの運営、その一つではサーバーの入れ替え作業が行われている。雨天中止と言う事もあり、今の内にメンテをしておこうと言う事らしい。


「最近はメンテが頻繁に起こる事に対して、詫び石と叫ぶようなプレイヤーもいなくなりましたね」


「それはソシャゲの話だ。ARゲームは基本的にクレジットでプレイするゲームだろう?」


「ARゲームでも、稀に起きていますよ。100円1クレジットのような作品では」


「そう言う物か?」


 愚痴の一つもこぼしたいような表情で、男性スタッフはサーバーの入れ替え作業を行う。中には無言で作業を行っている人物もいるので、この二人だけは――と言う事だろうか?


「それにしても、このサーバーって何に使うのでしょうか?」


 サーバーを載せる台車を用意したスタッフは、サーバー入れ替えする理由をスタッフに尋ねた。


「ARゲームのサーバーは情報量が非常に多いという話だ。サーバーに何を使っているのかは不明だが――」


 男性スタッフも詳細を聞いた訳ではないので、詳しくは知らないと言う断りを入れた上で話す。このサーバー自体が魔法の箱という例えに関しては否定的だが、ARゲームの技術自体がデジタルを超えた何かなのかもしれない。


 男性スタッフ達がサーバーの入れ替え作業をしている中で、別の作業をしている人物もいる。サーバーチェック、データの破損チェック、更には動作テスト――ソシャゲ等でもよくある光景だが。


「1つのアカウントで、ここまでのデータが多いのは例がありませんね」


「1ギガはあるのでは――」


「それはないだろう。ARアーマーのデータは一部で共通の物を使っている」


「しかし、ARガジェットに大量のデータを保存できるはずがない。それを踏まえると――」


 別の作業をしているスタッフからも、様々な声が出ている。屋外系ARゲームでは、物によって雨さえも弾く事が確認されているのだが――真相は不明だ。ARゲームとは一体何なのか――スタッフ内でも把握できていないのが現状なのかもしれない。



 谷塚駅から徒歩5分の位置にある5階建てのビル、そこは2階以降がゲームの開発スタジオでもあった。この開発スタジオはオケアノスの中心部と言っても過言ではなく、ここにはサーバールームがない。


 1階にロケテスト会場を兼ねたARゲームのショールームが存在し、そこの別所にサーバールームがあるようだ。屋上は駐車場ではなく、太陽光パネルや雨水タンク、それ以外にも試作ガジェットのテストルームも確認されている。


「なるほど――そう言う事か」


 2階にある開発ルームの一角、そこでは提出されたデータに目を通す背広姿の男性の姿があった。彼はタブレット端末に転送されたデータをチェックし、そこでNGと思われる個所にチェックを入れてデータを該当部署へ転送している。


 ここの制服が背広と言う訳ではなく、一部のスタッフはARゲーム用のインナースーツを着用しているが――その中でも背広姿の彼は目立つ。


 彼の手が、とあるデータを表示した所で止まった。表示されていたのは、ネット上でも噂になっているミカサの姿である。ミカサというネームのプレイヤーは複数いるのだが、このミカサは動画サイトでも有名なので――特定はたやすい。


「この姿には見覚えがあると思ったが――なるほど」


 ミカサの姿を見て、彼は見覚えのあるネットの都市伝説を思い出した。ネット炎上案件には、必ずと言っていいほどに姿を見せる『ミカサ』と言うハンドルネームの人物が。


 しかし、そのミカサと同一人物なのかを確かめる手段はない。それに加えて今の自分では、週刊誌に代表されるマスコミが黙っていないだろう。


「今は泳がせるか――」


 彼の名は長渡天夜(ながと・てんや)、25歳という若さでARゲームシステムの基礎を作り出し、オケアノスや秋葉原等で稼働しているARゲームの生みの親と言っても過言ではない。それ程の人物が、どうして草加市内の開発スタジオにいたのかと言うと――ミカサの出現が理由の一つになっていた。


 しかし、現状では情報が少ないので下手に動けばマスコミが動き出す可能性も高い。仕方がないので、今は様子を見るしか選択肢はないだろう。10分経過した所で、長渡は椅子に掛けていた青色のコートを着用し、コンビニへと出かける事に。



 コンビニに立ち寄った長渡、場所に関してはビルの目の前なので徒歩で1分もかからない。ビルの隣が――コンビニである。駐車場もあり、そこそこの車が駐車しているので混雑具合は――と思ったが、今はお昼時だ。混雑する理由も把握出来るだろう。雨足も弱くなっているので、傘をさす必要性もないのだが、傘をさす客もいる。


「このエリア内では珍しいと言うべきなのか――」


 店内に入る前、長渡の視線に入って来たのはメイド服姿の女性だった。オケアノスでは特に露出度の高い物でない限り、コスプレも認められている。


 実際、インナースーツ姿のARゲームプレイヤーも目撃できるので、当然の対応と言えるかもしれない。


 メイド服の女性は、特に長渡に視線をあわせる事無く店内へと向かってしまう。ナンパをするのが目的ではないので、特にこだわる必要性はないのだが。


 メイド服の女性以上に、彼の視線を釘づけにしたのは――コンビニ前に止めてあった全長2メートル程度のロボットのフレームである。


 フレームだけになっているのは、電源を切っている為にアーマーが展開されていないだけ。電源を入れれば、フレームの周囲にアーマーが装着されるのだが――。


「ARパルクールで使用するタイプとは――若干違うか」


 フレームだけでは何に使用している物かは特定できないが、フレームの形状としてはARパルクールで使用しているタイプとは若干異なる。


 下手に近づけばセキュリティ的な部分で警報を鳴らす事になってしまうので、迂闊に近づこうとはしないのだが。


「これは明らかに屋外用フレームかな?」


 5分後、コンビニから弁当を購入して店外へ出た西雲春南(にしぐも・はるな)は、駐車スペースに止めてあったフレームに視線が合う。


 ARゲームは屋内専用ゲームと思っていただけに、こういう形で屋外用を見る事になるとは――。


 ちなみに、このフレームは別のプレイヤーのレンタル品であり、駐車場に止めても問題はなかったらしい。こうした光景はオケアノス特有の物であり、事情を知らない観光客などが驚くのは無理もないだろう。 

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