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「私と
京太郎がまず話し出したのは、そんな事実だった。
「今は仲良くないの?」
カナタが素朴な疑問を口にする。すると京太郎は一度頷いてから口角を上げて続けた。
「私の父は貴族だったが、地上に残った変わり者と称されていた。父は彩という地上都市が本当に好きでこちらに住んでいただけだったのに。色式士協会を創ったのは私の父だ。会長の任を退いてはいるが、今でも最終的な決定権は父にあることを、頭に入れておいてほしい。私は現在、色式士協会の会長であり色式士養成学校の理事長だ。そうなる以前は私と啓生と柊の三人は、養成学校で学ぶ友人だった。たまたま同じ学年でたまたま席が近くて、話すようになった。そんななんてことない学友だったんだ」
予想外の真実だらけで、どこから話を飲み込めばよいのかシノグにはわからなかった。
つまり京太郎は貴族でありながら色式士協会と色式士養成学校のトップを務めているらしく、そんな立場にいながら色式研究者であるヒイラギ博士とあげは会のトップである啓生と共に色式士養成学校で学んでいたというのだ。仲の良かった三人がどうして、今のこの関係性になってしまったのか。気になることだらけで頭を抱えたくなった。
「私たちの関係が崩れてしまったのは、卒業間近というところだった。それぞれの進路については、当時は私と啓生が色式士。柊は色式の研究者としてそのまま学校に残ることを選択していた。しかし、そんなときに事件が起きた」
「事件?」
シノグは顔をしかめた。
「協会では、幾つか禁止色式が存在している。その理由も幾つかあって、人体への負荷や色の力の暴走などがあげられる。当時、それらは規制すらされていなかったために、怪我人や酷い時で死人がでた。だから協会で規則を厳しくするようになったんだ。それで、反発する輩が出てきた。今のあげは会が発足される前の事だ。あげは会の前身とでもいうのか。そのときは小さな集団だったんだ。その集団がある日、学校に侵入して騒ぎを起こした。生徒達を人質に取ったんだ」
「何だと?」
それまで黙って話を聞いていた吉之が、ついに声を出して反応した。
京太郎が吉之に向かって尋ねる。
「どうやって、侵入したと思う?」
「その聞き方から察するに、正面からってわけではなさそうだな」
「――いや。それがそうでもないんだ」
京太郎は意外にも、首を横に振った。
正面から入ったのならば侵入という言い方は、どこかおかしさを感じるのだが違う様子だった。シノグは首を傾げて尋ねた。
「では、正面から入っても不自然ではない学校関係者が、その集団のひとりだったわけですか」
「それも違う」
首を振って否定された。
では一体、どうやって侵入したのだろう。それ以上の回答は浮かばなかった。
「先ほど、私は禁止色式の話をしたね。そのうちのひとつに、精神を操ることができる無彩色式というものがある」
「無彩色式?」
当然シノグとカナタにはその言葉に聞き覚えはなく疑問を持つばかりだったが、横を見ると心当たりがあったのか、吉之が目を丸くしていた。
「まさか。無彩色式で学校関係者の精神を操って、正面から入ったってのか。確かにそれなら可能だ。誰にも疑問を持たれずに侵入できる。でも、そうしたら。そんなのが使えるぐらいの色式士って……」
「一言で表現するのなら、やばい奴だね。誰も疑問に思わなかったんだ。誰も、知らない奴が学校内にいるなんて思わなかった。何せ学校内の生徒先生全員の精神を操って、自分はこの学校の生徒だってみんなに思わせていたからね」
京太郎の説明に、シノグもやっと事の重大さを理解して驚愕した。
「そんなことが、可能なのですか」
身を乗り出す勢いで、シノグは京太郎に尋ねた。
「実際にあったことだから、可能なのだろうね。彼には。驚きなのは彼が元々ここの生徒で、卒業せずに中退していたという事実だね。そのことにも誰も気づかなかったんだよ」
信じられない気持ちで、シノグは京太郎を見つめていた。目が合うと、京太郎は肩をすくめる。シノグには何かが引っかかっていた。これまでの話を踏まえても、その事件がどう三人の関係に繋がるのか。その事件で何があったのか、話の続きが気になって仕方がなかった。
「なんか怖いね。それ。その人」
右隣に座っていたカナタが不安そうな顔で言う。
「もしかして――」
左隣に座っている吉之が呟く。彼は神妙な面持ちで、何かをぶつぶつ言っている。全ては聴き取れなかった。シノグは視線を吉之のほうへ向け、「どうしたのですか」と尋ねようと思った時だった。
京太郎の口から、もっと信じられない言葉が発せられた。
「吉之くんのお察しの通り。その人物の名前は下田啓生。私と柊の、学友だった男だよ」
はまらなかったパズルのピースが、やっとはまったと感じた。要するに騙されていたのだと思う。この場にいる全員が。色々な意味で。
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