序章 2話 セント パトリックデー


可憐はカナダでの環境に慣れつつあった。

学校はほのぼのしている。

もう2年いるけど英語が殆ど話せない ショウ

親に無理矢理お膳立てされた ユウタ

ミス なんとかを目指すヒカリ

韓国からの留学生 テム

初日が同時の和葉、ヒナ

とすっかり打ち解けた。


進学校でもなく、純粋に語学を推進する。

ただし日本国はNGで罰金だった。


学校が終わると大抵5、6人でお茶をする。

誰からともなく言い出し、行かなくてもどうということもない時間だ。

そこで互いのホームステイ先の情報交換

をする。

「もう帰りたくないよー」ユウタが泣き出しそうに言う。

『オレ、楽器弾いて誤魔化してる」ショウ。

学校は分からないことを確認しあえるが、

ホームステイ先こそ『戦場』だ。

分かり合うまで話し聞き言い回しを変える。

「結構、キツイよね。」弱音を吐かない

ヒカリがポロっと言う。


「そういえば、明日セント なんだっけ」

とヒナ

「パトリックデー」皆

「緑のモノって持ってないんだよなー」と

誰かが言う。

「なんでもいいんだよ。」こんな具合だ。


翌日のみ街中のショーウィンドウーは見事な

までに緑のモチーフで彩られた。

「おはよう、カレン。服いいね。」口々に

そう言われた。

クラスメートのステイ先の

ホームパーティーにケーキを持参した。


そして和葉と帰る。

「カレン、今日のワンピースすごく似合って

いるよ、センスいいね。」

「和葉のグリーンアイテムはなに?」

彼は靴紐を指した。

「結構地味に苦労したんだけどな あまり気付いてもらえない」と苦笑した。


2人は近づくも遠い 距離…を保っていた。

互いをステディーとは思っていないけどそう

なりつつあることは予感していたし、周囲の

態度もそうだった。


「イースターどうするの?」不意に和葉が聞く。

「ステイ先のファミリーのところに行く予 定」

「なんだ、そうか」少し肩を落とす。

「和葉は?」

「まぁ考える」


まだ残る桜と新緑に包まれた道を歩く。

スワンレイクの辺りにいつも2人で腰掛ける 芝生 があった。


和葉は少し手を絡めた。

時々そんな風に何気なく互いの感覚を

曖昧には確かめ合う。この日は違っていた。

絡める手に力がこもり、和葉の様子がいつもと違う。初めて見る雄の顔だった。

彼が顔を近づける…そしてその身が私を覆う。

彼は緊張して言う。

「可憐、その…僕たち付き合ってる…でいいんだよね?」和葉とはサラリとスキンシップを交わす

がそれ以上近くなったことはない。

恐る恐る聞く和葉に

「そうと違うの?」と返した。

「それは違うでしょ」と誤解した和葉は

「なんだごめん。」とサッと身を引いた。

「どうして?」と驚く可憐に

「僕、誤解してた」

「えっ、なんでそうなるの?」

「えっ付き合っている でいいの?」困惑と

期待の表情をする。

頷く可憐に和葉は抱きついてくる。

「和葉?」

「ずっとこうして堂々と可憐に触れたかった。」

手のひらに当たる草がくすぐったい。

無防備な姿勢の可憐に和葉は体を重ねる

「いい?」『キスしてもいい』の意味だった。

静かに目を閉じる。

和葉の唇が静かに重なる。


和葉は照れと嬉しさが混ざった顔で何度も

唇を重ね可憐の手を強く握りしめた。


「今日は2人にとって記念日だね。」

和葉のシャツの匂いが残る余韻が胸を

高鳴らせる。


スワンレイクに近いこの場所で可憐の

心が和葉に目覚めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る