号泣
「あー、あの子、聖戦士フリックじゃない?」「あの迷子の?」「なんか、勇者とはぐれたんだって」「バカじゃん」「こら、そんなこと言っちゃ悪いよぉ」「でも、ちっちゃい子どもじゃないんだから」「まあ、勇者の名前叫んで泣きじゃくりながら探してたって言うし、ダサいことには間違いないよね」「よねー」「よねー」
クスクス。
クスクス。
「……」
隣のフリックさんが泣きそうである。
「だ、大丈夫ですか? なんなら、俺が買い出し行ったのに」
「……いや、居候させてもらっているのに、家事の手伝いくらいは……それに、これだけ大々的に新聞で取り上げてくれたんだ。俺の恥なんか、全然なんとも思っていないさ」
「そうですか。よかった」
「ほんと……全然なんとも思っていない……そうさ、そうだろ、フリック」
「……」
じゃあ、なぜ二度言う。
そして、自分に言い聞かす。
しかし、テレサさんの知り合いが、まさか大陸屈指のジャーナリストだったとは。恐ろしいほどの伝染力で、もはや誰もが聖戦士の迷子を疑わない。
そんな時、一組の親子とすれ違う。
「あー、ママー、迷子の人だ」「しっ、声が大きいわよ」「えー、だって迷子の人でしょ?」「迷子に迷子って言っちゃメッなのよ」「でも、私も迷子になっても泣かないよー、偉い?」「偉い偉い」
「……」
聖戦士フリックがプルプルしてる。
「ねー、迷子になったからって泣いちゃダメだよー」「こ、こらっ、メッ」
そんなやり取りをしながら、親子は去っていた。
「……」
スチャ。
!?
「フリックさん!? なぜ剣を抜くんですか?」
こんな街中で! また、すっぱ抜かれますよ!
「くっ……そうだな。落ち着け……落ち着くんだフリック。お前には魔王を倒すという大きな目的がある。そう、俺は勇者パーティー、俺は勇者パーティー、俺は勇者パーティー」
「……」
かなり、深刻な状態である。
買い出しをしてギルドに戻ると、
記者たちが一斉に群がってきた。
「聖戦士フリックさん! 一言ください」「どういう状況で迷子になったんですか?」「号泣と聞きましたが、悲しかったんですか?」「そんなことで、魔王と戦えますかね?」「勇者との関係を教えてください。実は、恋仲であるとかですか? じゃなきゃ、大の大人が泣きませんよね」
聖騎士フリックさんは、号泣した。
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