戦い


 聖騎士フリックさんからの熱い視線を完全に無視して、傍観者を決め込む。隣で狂戦士レイが戦いたくてウズウズしているのも、この際、見ないようにして。


「……くそぉ! 万全ならば……万全ならば、貴様などに遅れは取らないのに!」


 悔しそうに、地団駄を踏む聖戦士。


「あの……」


「な、なんだ!? なにかいい手が――「できれば外に出てやってもらえると」


「……そんな場合かああああああああああっ!」


 で、ですよね、すいません。


「なんだ? そいつらお前の仲間か?」


 ブルーオークが獰猛な表情を浮かべながら、俺たちの方を見る。


「いえ……まったく無関係です」


 キッパリと。


 サッパリと答える。


 魔王軍とか、勇者とか、ハッキリ言って、一番関わりたくない部類である。日銭を稼ぐのに目いっぱいの俺たちにとって、彼らのやっていることは限りなく遠い


「争いごとはよくないですよ。そうだ……朝ご飯食べます?」


 て、テレサさん!?


「ちょ、危ない! なに無防備に近づい――「……ほう、旨そうなご馳走だな」


 !?


 意外にもブルーオークの好意的な反応。


 グルルルルルル。


 どうやら、かなりお腹が減っていたらしく、テレサから数種類の皿を受け取ったブルーオークの腹音が大きく鳴った。


 ムシャムシャ。


 ムシャムシャ。


「う……旨いな」


「フフ……嬉しい」


 聖母のように笑いかけるテレサさんに、警戒心を解いたのか、食卓に向かって、他の皿の料理も食べだす。


「ま、魔王軍の手下に飯を食わすとは……君たちには、人類の敵か!?」


 聖戦士フリックが叫ぶ。


「あなたも食べませんか?」


 ニッコリ。


「ふ、ふざけるな!」


 そう言って、叫ぶ。


 しかし、ブルーオークは旨そうに用意された朝ご飯を食べている。それは、異様な光景だった。


 ……勇者だ、魔王だと争いのではなく。


 どんな者にでも慈愛を持って接する。


 そんなテレサさんの覚悟を感じた。


 不覚にも、彼女の異常な行動に、少し感動してしまった。


                ・・・


 数分後。


「ふぅ……旨かった」


 ひとしきり料理を食べ終えたブルーオークは、満足げにお腹を撫でおろす。


「よかったです。今日の朝ご飯は自信があるんです」


「……」


 ブルーオークは、すっかり、毒気を抜かれている。


「グリーンサラダに、シネレレズラザニア。特に、豚と牛のあいびきハンバーグの目玉焼き乗せは凄く自信がありました!」


 !?


「お、お前……今、なんと言った!?」


 ブルーオークが震えながら尋ねる。


「えっ? グリーンサラダに、シネレレズラザニアーー」


「その後だ!」


「す、すいません! 自信があったなんて調子に乗ってました」


「その前!」


「え……豚と牛のあいびきハンバーグの目玉焼き乗せ……」


「き、貴様は俺に……を喰わせたのか?」


 ブルーオークは鬼の形相を浮かべる。


「あ、あいびきじゃない方がよかったですか?」


「豚が問題なんだよ!」


「す、すいません! もしや、どこかの宗教関係者の方ですか? 戒律とか……」


「俺は豚との獣人だ! この風貌見てれば、だいたいわかるだろ!」


「それは……気づきませんで。本当に申し訳ありませんでした」


 深々と。


 テレサさんは謝る。


「ふ、ふざけるな……謝ってすむ問題か……殺す!」


 ブルーオークは、戦闘態勢をとる。
















 こうして、めでたく、巻き込まれることになった。



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