ママ


……聞き違いだろう。


「あの……今、なんて?」


「あっ、私ったらごめんなさい。忘れてください」


「……」


 えっと、これは一体、どう考えればいいのだろうか。どうやら、聞き違いではなかったらしい。


 ……はっ!


 まだ、早い⇒いずれ、ママと呼ぶことになる⇒いずれ結婚する⇒夫婦になって子ども産む⇒ママと子どもと一緒に仲良く暮らしましょう……だとぉ!


「さ、流石にそれは早いんじゃないですか!?」


 まだ、親も紹介してもらってないし。まぁ……全然構いませんが! 寧ろ、願ったり叶ったりですが!


「そうですよね……まだ、早いですよね」


 言い聞かせるように、ブツブツとつぶやく聖母。


「じゃあ……テレサさん、と呼ばせていただきます。!」


「ええ、楽しみにしておりますわ」


「ハハ、ハハハハハハハハ」


「フフ……フフフフフフフ」


二人の笑い声が部屋中に響き渡った。


 と言うことで、聖母テレサさんがギルドに入ることになった。


 まあ、急にクエストが増えるわけでは、もちろん、ない。が、テレサさんが教会に頼んでくれて、お金を借りてきてくれた。解消のない将来のダーリンだが、どうか許して欲しいと思う。


「……ぷはぁ、やっぱりワインは最高ですわー」


 ニーナ……お前は、安定のクズだな。


 しかし、バーカウンターに用意された料理は確かに食べたことのないほどウマい。レイも一心不乱に自らが葬ったワイバーのレバー焼きにがっついている。


「フフフ、お気に召したようで、よかった」


 テレサさんは、嬉しそうに。いそいそとギルド内の掃除をしてくれている。料理上手で、働き者で、優しくて、何より美しい、もはや、今まで出会った中で最高の女性だと言っていい。


「まあ、ちょっとぐらい甲斐甲斐しく働いたからって。肝心なのは、ギルド員としての実力だよ。ねえ、テレサ。そこんところどうなの?」


 なぜ……ギルド員として全く活躍をしないお前がそれを口にする。


 しかし、イチイチ偉そうなキチガイアル厨残念女の言うことも一理ある。彼女は、俺の妻としてこのギルドに来たわけではない(いずれ、そうなるが)。ギルド員として、この『運命の道』に来たというのなら、ギルド長としては、それ相応に役に立ってもらわなければいけない。


「私ですか? 残念ながら戦う能力は持ち合わせていませんが、支援魔法、治癒魔法には自信がありますわ」


 そう言って、テレサさんはお洒落なカード入れから、称号証明書を取り出す。


 名前:テレサ=マーサ

 職業:シスター

 称号:大聖女


「だ、大聖女って……」


 称号証明書は、状態調査具ステイトルックで見られる称号を印字したものだ。もちろん、偽造なんてできない。大聖女はシスターの最高ランクで、死者の蘇生までもできる超有能な能力である。


「そ、それは凄いね……二日酔い治せる?」


「……テレサさん。こいつの腐った人格は治せないですかね?」


「そ、それはちょっと……」


 だ、ダメか。


 とは言え、死者の蘇生までもできるのならば、レイがテヘへ的に殺しちゃったとしても、テレサさん蘇生させてくれれば。なんと言う有能。


 本格的に我がギルドにも風が吹いてきた。


「フフ……フフフフフ……今日は、俺も飲もうかな」


「若い時からお酒なんて飲んでるとバカになるよ」


 ……そーだな、ニーナ。お前みたいにならない程度に飲むとするよ。


             ・・・


 と言いつつ、すっかり、飲み明かして夜が明けた。起きて、あたりを見渡すとギルド内が見違えるほど綺麗になっていた。地面に転がっていたワインのグラスや瓶もない。床には埃一つなく、棚は本の題名別に整頓されている。


「あっ、マー君。おはようございます」


「テレサさん……ずっと起きて掃除を?」


「エヘヘ……つい、力が入っちゃいました」


「……」


 結婚だ。もう、結婚するしかない。


「さあ、朝ご飯も出来ていますので早く着替えてきてくださいな」


「は、はい」


 あんな聖母をお待たせしてはいけない。


 すぐに、自分の部屋に入って――

















 机に、隠していたエロ本が、置かれていた。

 

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