聖母
翌日。『運命の道』の前。
タンタンタン。
「マ、マギ……」
「……」
タンタンタン。
「お、落ち着いてよ」
「……」
タンタンタン。
「ちょっと、話聞きなさいって!」
「離せクソアル厨女――――!? もうたくさんだよ! 廃業だ廃業――――――――――――――!」
ギルドのかんばん下ろして、稼業をつぐんだ。
「そ、そんな! 私たちはどうするってのよ!?」
「どっかで飲んだくれて勝手に野垂れ死んでくれ! レイは、師匠の元へ帰りなさい。俺には君は、扱いきれない」
ちなみに、リドラー……全治2か月だってよ。
「そ、そんな勝手な」
「ニーナ……お前だけには死んでも言われたくない!」
「レイ! 羽交い絞めよ! 羽交い絞めして止めるのよ!」
「はい!」
「うおおおおおおお! はーなーせ――――――!」
そんな風にわちゃわちゃしている時、
「あの……」
「んだこっちは取り込み――」
言いかけた途端、言葉が止まった。
憂いを帯び、潤んだ瞳。悠然と張った胸に引き締まったくびれは大人の女性の魅力を艶美に漂わせている。そのシスター服でもわかる抜群のスタイルは柔らかい感じの魔性の雰囲気をより一層際立たせていた。優雅に流れる甘栗色の髪は淫靡かつ妖絶にも関わらず、いやらしさを全く感じないどころか、爽やかで神々しいたたずまいは、まさしく、聖母そのものだった。
「申し訳ありません、ここはギルド『運命の道』にお間違いありませんか?」
柔らかく、優しい口調で、彼女は問いかける。
「ま、間違いございません」
「あの……私をここで雇って頂けないでしょうか?」
「雇います!」
即決。考える時間は0.1秒すら、ない。
「ちょ、ちょっと! 雇うだけのお金持ってるの? そんなお金があるなら、私にお酒――「そーだったテメーのせいで金がねーんだよこの疫病神がぁ」
お前を殺して俺も死ぬ―――――!
「け、頸動脈っ……頸動脈イッてます……」
「や、やめてください! お金は結構です。ここの事情は、神官のハスラー様からお聞きしました」
「「「ハスラー?」」」
だ、誰だろう。俺、レイ、ニーナと顔を見渡すが誰も知らない。
「……昨日、ニーナさんの職種変更しましたよね。あの、神官様です」
「「「あー」」」
あいつか。
「聞くところによると、経済的にも人材的にもかなり困っておられるとか。もし、差し支えないのなら微力ながらお手伝いできないかと思いまして」
な、なんて優しい女性なんだ。まさしく、聖母の生まれ変わり。
「怪しいわね……なんの見返りもなく、こんな寂れて今にも潰れそうなギルドに手を貸そうというの!? ハッキリ言って最低よここは!」
ニーナ……貴様だけには言われたくないが、正論ではある。
「神は恵まれない者にも慈悲を施す者です。神に仕える者として、聖職者のはしくれとして、お困りになっている方に尽くすのは、私の天命だと思っています」
……惚れた。
「あの……お名前を聞かせてください」
「申し遅れました、テレサ=マザーです」
ニコっと朗らかに笑顔を浮かべる聖母。
「改めて、ぜひ、このギルドに入ってください」
なんなら、死んでも、一緒のお墓に入ってください。
「はい、もちろん」
よっしゃ―――――――!
「おっと、こっちも自己紹介しなきゃいけませんね。こいつが、ニーナ。で、この子がレイ」
「ちーっす」「……ます」
相変わらず、まともな挨拶すらできない奴らだ。
「ニーナちゃん、レイちゃん、よろしくね」
そう言って、二人をナデナデ。
……羨ましい。
「で、俺がギルド長のマギ=ワイズと言います」
キリッ。
「はい、マー君。よろしくね」
ナデナデ。
……もう、結婚するしかない(確信)
「よろしくお願いします。あっ、テレサさんはなんて呼んだらいいですか?」
テレサさん……マーサさん……テレサちゃん……いや、テレサ……テレサ……テーレサッ……なーんちゃって。テレ―ー
「ママって呼んでください」
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