衝動


 要するに本能らしい。掌に、壊せるものがあると、身体が勝手に壊す方向に動く。さすがに、同族の人間に対しては幾分抑える訓練をしているらしいが、その分食用の動植物に関しては容赦できない性質たちであるということ。


 ワーリガーの肉を下ごしらえしながら、申し訳なさそうに申告する。


「……はぐっ、はぐっ。レイ、この肉いけるよ。これにシトラスビールがあれば最高なんだけどなぁ」


 アル厨女がそんなことを漏らしながら、がっつく。


「そ、そうですか。どんどん食べてくださいね」


 ああ、37匹もあるからな!


 ――と、言いたいのをグッとこらえる。


 あれから、何度も何度もトライした。しかし、捕まえるたびに、ワーリガーをドグチャアッってして、鮮血飛び散る光景に微笑む狂戦士美少女。もう、これ以上はワーリガーが可哀そう過ぎて、見てられなかった。


「はぁ……残った分は干し肉にでもするとして。クエストは失敗だな」


「……ごめんなさい」


 シュン。


 か、可愛い――けど、しょげる内容が全然可愛くない。


「まあ、最初は失敗するものだから。そんなに気を落とさないで」


「ほーほー。ほんあおおううほ」


「ニーナ……貴様は黙っていろ」


 口に物を入れながらしゃべるな。


 とりあえず、セミサストーリの町へ戻ってギルド協会本部に寄った。


「……はぁ!? Gランクのクエストを失敗したんですかぁ!」


 受付姉さんの怒号が響く。


「さすがは『運命の道』。弱小ギルド過ぎるだろう」「あそこはロクな人材がいないからなぁ」「しかし、Gランクのクエストもまともにできないとは」「もう、あのギルドは終わりだね」


 声が大きいので情報は筒抜け。周りのギルド職員たちからヒソヒソと浴びせられる嘲笑と侮蔑。しかし、なんだろう。全部本当のこと過ぎて、何の反論もできない。


「マギ……」


「ニーナ、レイ、気にするな。お前たちのせいじゃない。全部、俺の不徳の致すところだ」


 カッコつて自尊心を保たないと、きっと泣いてしまう。


「お酒飲まして」


「……黙れクソ女」


 頼むから、守りたいって、思わせてくれ。


「マギ……私、頑張る」


「レイ……」


 なんて可愛い奴なんだお前は。


「だから、殺す系の仕事……ちょうだい」


「……」


 モジモジ、頬を赤らめながら言うことでもないだろうに。


 しかし、本格的に金がない。あの様子じゃ、受付姉さんもクエストを回してもらえるとは思えんし。


 その時、


「おう、マギじゃねぇか。どうした?」


 振り向くと、一人のドワーフが立っていた。


 ガド=ランスル。『岩窟の鍛冶場ロックスミス』のギルドマスターであり、西方ドワーフの長でもあるこの屈強な戦士は、屈託のない笑顔を浮かべる。ガドは、5年前に起きた『ガルダズ大戦』の功労者の一人であり、その戦闘力は竜を単記で駆れるほどと言われている。


「仕事が……ない」


 役立たずどものせいで。


「ほぉ、それは難儀だな。一つクエストがあるんだが斡旋してやろうか?」


「ほ、本当か……ありがたい」


 持つべきものは男前の友人だ。


「あの……ついでにお酒を下さると嬉しいのですが。オ・ジ・サ・マ♡」


「もう帰れアル厨女がぁ!」


 二度と俺の元に戻ってくるな。


「はっはっ、嬢ちゃん。俺たちゃギルド員は、仕事をやってその報酬で旨い酒を飲む。そうやって、楽しく生きていくのが俺たちの誇りさ。タダ酒飲まして欲しいなんざ、ギルドをやめた方がいいんじゃないか?」


「うぐっ……」


 なにを心に刺さった真似を。


 夜な夜な言っていたことじゃないか。


「はっはっはっ! お嬢ちゃん、もっと勉強しないとな。とりあえず、これが仕事だ。まあ、マギのことだから成功してくれると思うが。じゃあな」


 豪快に笑い飛ばし、ガドは去って行った。


「マギ……今まで、ごめん」


 ドワーフ戦士の説教が、さすがに応えたようで申し訳なさそうに謝ってくる。


「……俺たちギルド員は、言葉では誠意は伝わらない。お前が反省をするってのを見せるのは、これからの行動だろう?」


 ふっ……決まった。


「あっ、ちょっとなに言ってるのかよくわかんないんですけど」


「マジでぶん殴ってやろうか!?」


 なんなんだよこの女……最悪だよ。


「とりあえず、転職して踊り子目指します」


「……ん?」


「今まで、お酒ってタダって思ってたけど、そうじゃないって今回よくわかった。で、ちゃんと働いてお酒を飲むなら、酒場で働けるような職業がいいでしょう? だから、私、踊り子になる!」


「……」


 さっきの説教を、どう解釈したら、そんな風になるのだろうか。


 もう、好きにしてくれ。


 そんなことより、早速クエストを確認してみる。


 クエスト:ジュボーグの捕獲

 場所:シンガス鉱山

 条件:生きたまま

 ランク:D














 い、生きたまま……


 膝から崩れ落ちた。




 

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