クエスト
クエストは、公募クエストと個人クエストが存在する。公募は特別とは異なり、年五度別に料金表が存在する。依頼者はギルド協会に申告し、職員たちが難易度、報酬を精査し、それをランク付けする。やがて、それは各ギルドへと分配される。公募者を募る。
今回はまさしく公募クエストであり、問い合わせは必然的にギルド協会本部になってくる。
「はぁ!? 半殺しなんていいわけないでしょう」
ですよね、すいません。
町の中心にあるギルド協会本部。セミサストーリの町がギルド冒険者で経済が潤っていることから、その権力は果てしなく強い。必然的に、受付のお姉さんまでもが強気一辺倒である。
トボトボと待合室に戻り、レイとニーナの元へ。
「レイ……半殺しはダメみたい」
「……はい」
シュン。
――じゃねぇよ!
可愛い顔で「あーぁ、半殺しすらダメなのか」じゃねぇよ!
「マギ……お酒ない?」
「うるさい」
お前は、一生、黙っていろ。
「さあ、頑張ってこい」
「「?」」
俺の励ましに、二人が疑問符をあげる。
「な、なんだよ?」
「一緒に行かないの?」
ニーナが不満げな視線を俺に向ける。
「……なんでギルドマスターがギルド員のクエストに同行しなきゃいけないんだ? ふざけんな、クソ酔っ払い女」
しかもGランクのクエストで。
「……ついてきて……くれないの?」
レイが、背中の裾を引っ張ってつぶやく。
か、可愛い。
なんだ、この可愛すぎる生き物は。
「……まあ、今回はしょうがないかな」
初めてだし。
天使だし。
「……なんか待遇に差を感じるんですけど」
アル厨女が不満げに愚痴る。
「貴様は一刻も早く退職してくれ」
俺の切なる願いだ。
*
セルガスの草原は町から数フィート離れた草原だ。基本的に生息するのは、草食動物のみで、ワ―リガーもその一種だ。甲殻類の動物で、ペットとして飼う物好きも少ないとは思うが、捕獲の目的など知ったことではない。
草原に足を踏み入れると、速攻でワーリガーを発見。Gランクのクエストだけあって、なんと見つけやすいことでしょう。
「さあ、捕まえてきてくれ」
そう言うが、二人とも動かない。
「……おい、どうした? 早く」
「私、甲殻類とか、ちょっと気持ち悪くて、ダメなんですけど」
「……お前の趣味嗜好など聞いてない」
何様だお前は。
ドンだけ性根の腐った美人だお前は。
「マギさん……」
「レイ、こんな奴は放っておいて、早くワーリガーの捕獲を――」
「腕だけでも……ダメ?」
・・・
なにが――――――!?
「四本あるんだし……一本ぐらいへし折っても……」
「無傷! 絶対に無傷で捕獲しなさい」
「……ごめんなさい、自信ない……です」
ペコリ。
――じゃねぇよ。
な、なんという役立たずっぷり。
「お前ら……そんなこと言っておいて……今日のご飯はいいんだな?」
「うっ……」
その脅しにニーナが反応を示す。
「お前は、おつまみのチーズは愚か、今日飲むワインすら口にすることはできないわけだが、本当にそれでいいんだな?」
「ワ、ワインを人質にとるとは……なんたる暴虐」
アホだ……アホアル厨だこの女。
「さあ、行ってこい! そこのワーリガーを早く捕まえて、今夜のご飯代を稼いでくるがよい」
「わ、わかったわよ悪魔」
泣き叫ぶように言い残して。ニーナはジリジリとワーリガーの方に近づく。
「……えいっ、はぁっ……えいっ……はぁっ……」
しばらく、ワーリガーに飛びついては躱され、飛びついては躱され、
「はぁ…はぁ……ちょっと、タイム」
トボトボと、戻ってきた。
「どうした?」
「はぁ……はぁ……あの……非常に言いづらいんですけど」
「……言ってみろ」
多分怒ると思うけど。
「あの……無理っす」
「ふざけんな―――――――――――!」
「ひいいいいいいいっ」
「お前の流れるような動きはどうした!? 風に舞う柳のようにしなやかな動きは!?」
唯一、お前の剣技だけは、俺が認めていたものなんだぞ!
「……ほらっ、多分一年中飲んだくれてたから」
「ぜ、全部自業自得じゃねぇか」
これぞ、才能の持ち腐れ。
「あの……マギさん。私、やってみようと思います」
レイがおずおずと前に出る。
「そ、そっか。やってくれるか?」
「なんとか……殺さないように……頑張ってみます」
「……そ、そう」
そんなに難しいようには思わないが、まあ、やる気になってくれるんだったらいいや。
レイはワーリガーまで数歩と言うところまで歩き出す。
瞬時。
目にもとまらぬ速さで、ワーリガーの後ろに回り込んで、胴体を掴んだ。
鳥肌が立つほどの衝撃的速さ……Gクラスの動物どころか、Dクラスまでなら問答無用で捕まえられるレベルではないだろうか。それに、動物に気配を悟られることなく後ろへ移動する技術。未熟な点も多いが、将来が末恐ろしい。
「レイ、よくやった! これで、クエスト達成だな」
心配など杞憂だった。傷つけるどころか、無傷で捕獲できるなんて。
「……」
「ん……どうしたの? そのワーリガーがどうした――」
ドグチャァ!
この後、ワーリガーは、美味しく頂きました。
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