狂戦士にもオシゴトを


 名前:レイ=ヴェアトリクス

 年齢:16歳

 職業:狂戦士バーサーカー

 特技:ミナゴロシ 

 状態:破壊衝動(小)


「……」


 実に数十回、状態調査具ステイトルックで彼女を探るが、まったく同じ結果だった。そもそも、狂戦士バーサーカーなんて物騒な職業、聞いたこともない。なに、ミナゴロシって技? 破壊衝動って……怖すぎるんですけど。


「マギさん」


「ヒッ……な、なんだい!?」


 いつの間にいたのだろうか。不覚にも気配すら感じずに背後をとられ、慌てて向きを変える。


「あっ……すいません、つい癖でバックを」


「い、いや、いいよ別に」


 癖!? 癖ってなんだろうか。


「それより……あの人……」


 彼女の指さす先には、アル厨女のニーナが寝ぼけ眼で立っていた。髪の毛には、寝ぐせがつき、下着姿にカーディガンと言う、恥知らず極まりない出で立ち。


「ファー、おはよう……ううっ、頭ガンガンする……風邪かしら」


「二日酔いに決まってるだろ!」


 むしろ、それ以外の理由が思いつくこと自体、驚きだわ。


「そっか……じゃあ」


「おい、貴様、なにをしている?」


 そう言いながら、ワイン樽の栓を開けようとするニーナの腕を掴む。


「えっ? だって二日酔いだし、酔いで吹っ飛ばそうと思って」


「……ああ、そうだな。脳みそまで酔っぱらってんだったな。しかし、もうお前に飲ませる酒はない」


「ふふん……そんなこと言っていいの? ギルドの契約に『酒飲み放題』って契約したでしょう? あなたは、私に生涯酒を提供する義務がある!」


 ビシッと指さすニーナ。


 バシッとぞんざいに指を払いのける俺。


「ククク……それが、必要はないんだな。なぜなら、もう金がない! 昨日、飲ませた酒が俺の全財産だった」


「そ、そんなバカな!」


 ニーナは慌てて、ワイン樽の栓を緩めて、蛇口の下に唇を待機させる。


「ほ、ホントだ!? 全然でない! 一滴すら、出ない!」


「……どうでもいいが、もうちょっと、飲み方あんだろ」


 せめて、女子らしく、飲んでくれ。


「ざ、財産の虚偽申告はギルド廃業の罪に当たるわよ。その事実をもってしても、あなたはお金がないと言い張るわけ!?」


「ない! と言うか、散散お前には通告した」


 夜な夜な。


 泣きながら。


 でも、お前は飲み続けた……それだけの話だ。


「き、記憶がないわ!」


「酔っぱらってたんだよクソアル厨女が!」


「そ、そんな……」


 ニーナは、ガックリと膝を折ってへたり込む……これ以上、自業自得と言う言葉が似あう奴を俺は知らない。そして、膝を折ってへたり込みたいのは、俺の方だとも思う。


「いいか! 酒を飲みたかったら、働け! 働かざる者、飲むべからず」


「ううっ……わかったわよ。ところで、その子は?」


「……異常なほど切り替えが早いクソ女だな。新人だよ。レイ=ヴェアトリクス。いじめるんじゃねーぞ」


 言い合いが怖かったのか、俺の背中に隠れる可愛い子だ。


「……えっ、ヴェアトリクス?」


 ニーナが瞳を丸くする。


「なんだ、知ってるのか?」


「あー、あんた南出身? ヴェアトリクス家は、北の国では超有名よ。超がつくほど優秀な戦闘一族なんだけど、破壊衝動が強すぎて、家の半径100フィート周りには人は愚か、生物すら近づかないって」


「……えっ?」


 ニーナは、そんな俺の言葉を無視し、乱雑に状態調査具ステイトルックを取り上げてレイを眺める。


「うわっ、狂戦士バーサーカーって……マジでヴェアトリクス一族じゃん。特質職とかって、血族じゃなきゃとれないし」


「……」


 職業は、戦士、商人、農民、魔法使いなどの一般職の他、賢者、大魔法使い、魔法戦士などの上級職が存在する。その中で、限られた一族しかなれない職が存在し、それは特質職と呼ばれ非常に希少価値が高い。


 そして、今、背中が凄く怖いです。


「あの……レイです。よろしくお願いします」


 そんな中、彼女が俺の背中からひょっこりと頭を出して、オズオズと頭を下げる。こんなに大人しい子が、本当に狂戦士バーサーカーなんていう物騒な職業なのだろうか。


「よろしくー。まあ、ニーナ姉さまと気軽に呼んでくれればいーよ」


 アホだからだろうか、アル厨女は、何の恐怖も感じずに彼女と接する。


「ところで、マギ。早く仕事紹介してよ。あんたは、それが仕事でしょう?」


「……お前にだけは死んでも言われたくない言葉だが、そうだな」


 そう言って、1枚の書類をバーカウンターに拡げる。


 クエスト:ワ―リガーの捕獲

 場所:セルガスの草原

 条件:生きたまま

 ランク:G


「クエストランクGかぁ。まあ、ワーリガーは、すばしっこいからそんなもんかねぇ」


「今回は、二人でクエストに当たってくれ。報酬は折半」


「ええっ!? 私だけでもやれるのに」


「先輩だろ! 最初のクエストなんだから、優しく教えてやれよ」


「はぁ……しょうがないかぁ」


 渋々、ニーナも了承。まあ、正直全然頼りにならないのだが、いないよりは心強いだろう。


「レイ、なにか質問はあるか?」


「あ……はい。一つだけ」


「うん。なんでもいいよ」


「あの……半殺しはいいの?」



















「「えっ?」」


 俺とニーナは、思わず、聞き返した。



 


 




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