最終話 終了式


「同じクラスで一年、特に何も起きなかったな」

「当たり前だろ、世の中そんなに甘くねーんだよ」


 終了式ということもあり、今は校長先生の長ったらしい話の真っ最中。

 多少前後と話す分には問題もないだろう。


「来未のことを俺は本気で好きだったんだぜ? なのにさ、付き合えないなんてよ」

「諦めろ、顔が悪かったんだ。かっこよければモテる、かっこよくなければモテないんだよ」

「お前はモテるのか?」

「フッ……言ってなかったんだけどな、俺、来未と付き合ってんだぜ」

「はああああ!?」


 驚きのあまり大声を出して立ち上がった。

 すると、


「おい! そこのやつ、うるっさいぞ! 廊下に出て反省してろ!」

「す、すみません」


 校長が自らの話を遮って俺に声を掛けてくる。

 その声でみんなが俺の方を向いた。

 ……公開処刑もいいとこだな。


 ──時間も過ぎ、今はホームルーム。

 これが終われば一年生は終了。

 終わる際には光を殴って締めようか。


「じゃあこれで終了です! 良い春休みを!」


 担任のその言葉で立ち上がり、光の元へ行った。

 理由はもちろん。


「光、殴らせて」

「えっ、嫌だけど」

「お前に拒否権なんてねーんだよっ!」


 俺がそう言って殴ろうと手を振りかぶると、


「待って!」


 一人の女子の声が。

 その声の主はそう──来未である。


「来未ちゃんには分からない、男の事情なんだ! どいててくれ!」

「なんでよっ! その人は私の彼氏なの! 殴られそうになっているのを、見て見ぬ振りするなんて無理だよ!」

「なんで……なんで俺じゃなかったんだ! 光と違って俺はティッシュをあげたり、君に優しくしたのに……! なんで……!」

「顔がタイプじゃない」


 俺の一番言われたくないセリフを言いやがって……!

 しかも好きな女子に。

 かくなる上は、


「ここで死んでもらおうか」

「拓海さ、とうとう頭がいかれたのか? 何でこんな訳の分からない事で死人を出さなければならないんだ」


 俺が本気で光に訴えるも、光は真に受けない。

 椅子を拾い上げ、


「死ねぇぇえええええ!」

「ちっ」

「ぐはっ!」


 舌打ちしながら俺の腹をえぐりこむように殴った光。

 俺は吐血しながら倒れ込む。


「光……。こんなことして済むと思うなよ。人間として、学生として許されるもんじゃねーぞ!!」

「先に仕掛けたのはお前だろ、拓海。まあ死んだら骨だけは拾ってやるよ。フハハハハハハ!」

「てめぇだけは……ガハッ……許さないからな……!」


 最後にそういうと、俺は気を失った。

 お花畑にいる中、何故か人間界から声が聞こえた。


「キモ豚野郎拓海、ティッシュだけは貰ってあげるよ、あっははははは」


 俺はどうやら変なやつを好きになってしまったんだな。

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ティッシュで恋しました。 柊木ウィング @uingu

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