第2話 嫉妬
神様に祈るように手を握り、天を見上げると、クスクス笑い声が聞こえてきた。
俺が訝しむと、手を口に当ててさらに笑いだす。
「ごめんごめん、伊藤君ってば面白くってさ!」
「へあ!? そ、そうなんスか……ですか! それはよかったです!」
話せた喜びと話してくれたという喜びが混じって上擦った声を出す俺。
またも笑い出す来未を見て俺は、なんか胸が高鳴った。
ヤベぇ、超絶可愛いんですけど!?
反則級だろ、この可愛さ!
そんな他愛もない話を続けているうちに、バスがやってきた。
女子二人は駆け足の如く乗っていった。
「俺達も早く乗らないか? ……どうした、なんか呆然としてるぞ?」
「……ん? ああ、俺のことは気にしなくていいよ。それよりお前はさ、何でそんなにも平然としていられるんだ? あんな笑顔見たら、胸がときめくだろ」
「いや、全然」
光はキッパリそう言うと、俺を置いて先にバスへ乗り込んだ。
バスの運転手が早く乗ってくださいと促したので、俺も急いで乗ることにした。
バスの中は一般人が多く、座る場所がなかった。
「吊革掴まないとな。な、光……あれ、どこいったんだ?」
周りには迷惑にならないくらいの声量で、呼び掛ける。
すると、足元から返事が聞こえ……、
「なんで座ってるんだよ! ずるい、変わってくれよ!」
「早く行かなかったお前が悪い」
的確に痛い場所を突かれ、言葉が返せない。
そんな光をジト目で見ながら、隣に座る女子高生に目をやると。
「え……来未……?」
「どうしたの? 顔青ざめて」
このバスには二人用の椅子が二つ並んでいる。
左から来未と仲のいい女子、来未、小さな衝立、光、知らない人といった順で座っていた。
こいつ……席だけでなく俺にとっての憩いの場まで奪う気か!?
初めて出来た友達の光、アイツに俺はイライラしてストレスを溜められたことはない。
が、何故か今は無性にイライラする。
これは、恋というものが邪魔をしているのだろうか。
「あ、君は水谷来未ちゃんかな?」
「そうですよー。えーと、貴方は?」
「俺は岩糸光だ。よろしくな」
どんどん仲良くなろうとする光と来未を見て、何故か凄い焦りが出てきた。
別に来未は今俺と付き合ってるわけではない、なら別に話していても関係ないのでは?
そんな時、一人の女性が話しかけてきた。
「拓海君、なんか顔色悪いし目つき悪いわよ? 病気なんじゃないの?」
「えーと……君は?」
「私は
第一印象は『明るい人』って感じか。
来未と同じ、肩までの髪の長さ、目は大きく二重でとても可愛い。
ま、来未のが可愛いけどな。
それにしても四光高校は、当たりの高校だったのかもしれないな。
可愛い子多いし、まあ多少うるさいのは目を瞑るとして、総合的には当たりだな。
「拓海? おーい、拓海? どうしたの、変な顔しちゃって。何か考え事してたの?」
「え、いやー、何も考えてないよ? うん、決して変なことなんて考えてないから」
あっぶねー、こんな事考えてんのバレたら学校生活即終了だったな。
始まって一日で終わるとか、残りの学校時間つまらなさすぎるからな。
俺が高校に入った理由は、当然親に言われたってのもあるが、主に楽しみたいってのが強い。
友達を作り、恋人を作り、勉学に励んで……って、それじゃ光と変わらないじゃないか!
場所を准の前から光の前に移す。
「おいこら、俺も疲れたからそろそろ代わってくれ」
「何を言っている。折角座れた安らぎの場をやすやすと手放すはずがなかろう」
「私の場所で良ければ代わるよ? 座る?」
「えっ!」
光に言っていたはずが、何故か隣の来未が譲ってくれようとした。
好きな人の席に座れるってなんか嬉しいけど……!
「だ、大丈夫だよ! 俺中学では野球部でさ、体力には多少自信あるんだ」
「そ、そう……なの? じゃあ頑張ってね!」
来未はそう言うと、最高に可愛い笑顔を見せてくれた。
バスは終点に着いた。
二十分くらい掛かるとか、やっぱ遠いよなあ。
俺達四人は同じところで降りるとすぐに信号に捕まった。
そして俺は、気になっていたことを来未に質問する。
「何で同じバスに乗っていたんだ? 今日は石山と話していて、乗るのが遅くなったんだけどさ」
「あーそれね、入ろうと思っていた部活を見に行ってたんだー」
「私は付き添いね」
なるほど、そういう理由だったのか。
とにかくこれは神様が来未と話せる機会を与えてくれたんだな、ありがとうございます!
「じゃ、私達はこっちだから」
「じゃあね拓海。また明日ね」
「おう、じゃあな」
駅で来未とは別れ、光と二人で電車に乗った。
電車の中は人が少なく、余裕で座ることが出来た。
そして今日、というかバスの中で言いたいことがあったんだ、それを今言おう。
「言いたいことがあるんだ、聞いてくれるか?」
「断る」
「なんで?」
「俺にとってメリットが無い気がするからだ」
何て勘のいいヤツ。
だが……。
「お前は来未の事が好きなのか?」
「は? 何を言っているんだ」
ものすごく馬鹿にした目でこっちを見る光。
興味無いのか?
前に恋愛どうこう言っていたくせに。
「恋愛には興味あるが、少し来未ちゃんはタイプとは離れていてな。うむ、あの二人のどっちかと言われれば、やっぱ准ちゃんだな」
「ちゃん付け……だと!?」
「ど、どうした? 少し……いや、ものすごく怖いんだが……」
ギラついた目で光を睨みつけると、少し震えだした。
ちょっとした優越感に浸っていると。
『次は──』
着いた。
もう少し浸りたかったなあ。
俺達は別れ、自転車で五分かけて家に着いた。
「ただいまー。わざわざ出迎えありがとうな
「トイレ行こうとしたら、たまたま兄さんが帰ってきただけだよ。気にしないで」
冷酷な目を向けて、淡々と告げる椿を見て少し恐怖心を覚えてしまった。
これをツンデレで済ますには無理がある気がするが、心の中ではそうあってほしいと思っている。
うん、そうだ、我が妹はツンデレ……なんだよ、きっとな。
「そのポニーテール邪魔にならないか? ゴム買ってあげようか?」
「喋りかけるな、クズ」
それだけを言い残して、椿はトイレへと向かった。
……そう、これは多少度が過ぎたツンデレである。
うん、そう……だよね?
半泣きになりながら二階にある自室へと向かった。
俺の家の作りは普通の一軒家と変わらない。
一階では主にリビングが使われ、二階には父さん、母さん、俺、妹の部屋がある。
自分のベッドにダイブするように飛び込む。
「あー! 光に恋愛感情がなかったとはいえ、あれだけ喋ってるのを見ると、ウザすぎ! これってやっぱり、嫉妬……ってやつなのかな?」
ベッドでじたばたする俺に、下から声が聞こえた。
「あんた明日テストでしょ! さっさと勉強しなさい!」
テスト……そういやそんな行事もありましたね、この学校は!
入学二日目でテストとか腐ってんじゃねーのか?
ブツブツ文句を言いながら、明日の予定が書いてある紙を手にする。
「一限目英語、二限目身だしなみ検査? その次の日に国語と数学……か」
英語と国語には自信ある。
が……昔から数学は何故か全く出来ない。
嫌だなあ数学受けるの、休みたいよ学校を。
なんて言ったらまた親に文句言われ、テスト受けて文句言われの二段構えか。
大人しく勉強するのが吉か。
机に向かい、勉強開始した。
「兄さん、頑張って」
小さくそんな声が聞こえたが、今の俺の耳には入ってこなかった。
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