第1話 友達
「──み。──くみ。──拓海!」
「ひゃっ、ひゃい!」
ずっと来未に見惚れ、棒立ちのままボーッとしている所を先生に指摘された。
ヤバい、初恋ってこんなにも胸が高鳴るのか……!
赤く染まる頬に手を当てながら、自分の席へと戻った。
「お前どうかしたのか? ティッシュ渡してから何か変だぞ」
「い、いやぁ……何にもないよぉ……」
はにかむ顔を隠すように手で覆い、机に突っ伏した。
二次元にしか恋したことない俺が、三次元の女子に恋してしまっていいのだろうか。
好いてしまったことにより、好かれた相手が嫌な思いをしてしまうのでは?
……思考がどんどんネガティブに……。
「おい、大丈夫か?」
光の心配する声を背中で聞き、俺は我に返る。
そうだ、俺は恋をして気分が高まりすぎたんだ。
二次元に恋した時を思い出せ、相手に何か悪いとかそんな感情無しに純粋に好きになっていたじゃないか。
「フッ……ふふふふふ、大丈夫だ光。これは冗談ではなくガチの方で! さ、みんなの自己紹介を聞こうじゃないか」
突然の俺の声に驚きを隠せないのか、目をぱちぱちさせる光。
そんな光を尻目に俺は、引き続きみんなの自己紹介を聞くことにした。
──一通り終えたところで、今日は学校が終わりということになった。
40人のクラスで、先生にさよならを伝えてから掃除がないので椅子を挙げずにそのまま帰って行った。
数人は友達を作ろうと教室に残っている。
よし俺も誰か……!
と、思った時に目が入ったのは、カバン筆記用具等を詰める石山の姿。
これはもう、友達になるしかないでしょ!
「いしざ……」
「よっ、剣闘君……だよね? 俺は岩糸光、今日は俺達仲良くなった記念として、遊びに行かないか?」
「んー、いいよ。僕も今日は午前中で終わって暇だったからね。そっちは電車使うのかな?」
な、なんだよ光の奴……先に俺が友達になろうと思っていたのに、先越しやがって!
目の前で二人が話す光景を目尻にし、俺はその場を去ろうと……、
「拓海も一緒に行くだろ?」
軽くウインクをしながらこっちを見る光。
少し強ばった表情をする剣闘。
行きたい……けど、行っていいのだろうか。
剣闘の立場になって考えてみよう。
まず初日に知らない奴が話し掛けてきて、いきなり遊びに誘われたと思ったら、また知らない人が増えて……。
いや、なにそれ、怖すぎるだろ!
だが、断るのも不自然……一体どうしたらいいんだよ!
頭を抱えて悩み出した俺に、剣闘が優しく話しかけてきた。
「な、なんかごめんね。きっと二人は友達で、その間に割って入ろうとする僕が邪魔なんだよね。僕なんかほっといて、二人で遊んできなよ」
「何言ってんだよ、おい拓海、お前からもなんか言ってやれ。仲良くしたいんだろ?」
「!?」
したいけど、それ本人の前で言っちゃうの!?
なんか剣闘の顔がみるみるうちに驚きに変わってるし!
空気が微妙に悪くなったところで、一つこほんと咳払いをし、剣闘の方を向く。
手をグーにしてから親指をピッと上に立て、
「行きましょう! 遊びに!」
光と剣闘がコクリと頷く。
……あれ、光以外の人と遊ぶのって初めてだな。
楽しみすぎる!
そこで、俺はある疑問を訊く。
「で、どこで遊ぶんだ?」
「「え?」」
場の空気が固まった。
これはあれだ、訊いてはいけない禁断の質問ってヤツだ。
だが、避けて通ることの出来ない事だ。
ここは滋賀県、人気があるのは琵琶湖や彦根城くらいしかパッとは思いつかない。
時間は正午十二時、どっちにも余裕で行けるし、俺は行きたいんだが、剣闘はなんというだろうか……。
静まり返った空気を気まづく感じたのか、均衡を破るように剣闘が口を開く。
「あ、の……僕はどこでもいいよ。いいんだけど、みんなテスト勉強は進んでるの?」
「「んん!?」」
今度は俺と光の声がハモった。
テストって何だよ、入学してまだ一日目だぞ?
高校で一切勉強してない俺が、何の勉強すればいいんだよ。
明らかにさっきより暗い表情になった俺と光を見てか、手をもじもじさせて気まづそうにする剣闘。
もう昼だからか、教室内には俺達以外誰一人いない。
さて、どうしたものか……。
「おーい、早く帰れよー」
いきなりドアを開け、一言そう告げて去って行く丹澤先生。
戸締りする側からすれば俺達は邪魔……か。
──場所を移動して自転車置き場へ。
自転車置き場を真っ直ぐ行くとバス停があり、俺と剣闘が話し合うには丁度いい場所だろう。
「これからどうする気だ? テストがあるなら長居する場所はダメだろうし、手短にコンビニでも行くか?」
「コ、コンビニ……? どこそれ! 行ってみたい!」
さっきまでとは別に、嬉々として目を輝かせる剣闘に対し、少し引き気味になる光。
お前の案が採用されたんだ、もっと喜べばいいのに。
なんて考えてるうちに、一時間に二本しか来ないバスが到着した。
「あ、バスが来た! じゃあ剣闘、三時に学校近くのコンビニに集合な!」
「待って!」
あまりの大声に走り出していた足が止められた。
「なんで三時なの? そんな遅い時間じゃ全然遊べないし、話せないよ? もっと早い時間から行こうよ」
「そう言われてもな、この場所に来るまで一時間半掛かるんだよな……。三時からじゃダメなのか?」
「むむぅ……じゃあ次の土曜日遊ばない? 二日後だし、その間に誰か他にも誘えるかも」
「……だな、そうしよっか」
俺達との話し合いは終わり、バスへ乗ろうと……、
「行っちゃったな」
俺がポツリと呟くと、光はバス停へと走り出し、次のバスの時刻を見た。
「四十分後……だと? 何なんだよこの高校! もっとバス出せないのか!」
「落ち着けよ光。慌てたところで何か出来るわけでもないんだ、携帯持ってるだろ? ゲームでもしてようぜ」
「そうだな」
俺は胸ポケットからスマートフォンを取り出し、ロック画面を解除してアプリを開こうとしたその時。
目の前から香水のようないい香りが漂ってきた。
誰かと思って前を向くと、順番を抜かして並ぶ横顔の女子が二名いた。
チッ、だからバカ校は嫌なんだよ。
こうしてなんの躊躇もなく普通に抜かし、順番を抜かしたとしてもなんとも思わないその無神経さが。
ガンを飛ばしながらそいつを見ていると、その女性はこっちを向く。
「あ……」
イヤホンしながらゲームをしている光の隣で俺は、頬を赤くさせた。
そう、目の前にいるのは俺の三次元での初恋の相手、水谷来未だった。
ど、どうしよう! さっきのガン飛ばしはアウトなのか!? セーフなのか!?
……アウトだよな、横顔だぜ?
また考えがネガティブな方向へいく俺。
すると、
「ハクション!」
来未は俺の顔面めがけて大きなくしゃみをした。
お陰で俺の顔は来未の唾液だら……け。
あれ、これって俺に運がまわってきたって事じゃないのか!?
顔面には好きな女の子の唾液、そして非があるのは来未。
隣の女子は……多分同じクラスだとは思うが、名前が思い出せない以上気にしたら負けだよな。
唾液を舐める……いいのか? 衛生的に、人間的にそんな事をして!
「すみません! 大丈夫ですか!? ……ってあれ、伊藤君?」
「へ?」
素っ頓狂な声を出す俺を笑いながら来未は、ごめんごめんと言ってきた。
普通ならキレる所なのかもしれない。
が、俺には目の前の天使が笑顔になってくれて良かった、という感想しか出てこない。
ありがとう神様、こんな女神と同じ学校にしてくれて。
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