第6話 第6話 だから選手紹介に命を懸けるな!!
「駄目だ。繋がらないわ」
「一ノ条さんですか?」
「ええ。葬儀の関係で、この辺りがもぬけの殻になっている可能性もあるけど、この
確かに……漂流教室では無いが、何か得体の知れない力で、意図的に抉られている気がする……
皆が危険な目にあっていなければ良いが……
僕達は建物内を詮索しながら、自分達が泊まっている宿泊施設に向かって歩き始めた。
「状況が飲み込めないわね」
「そうですね」
「葬儀の方は、私達は関係無いから気にしなくても良いと思うんだけど、葬儀に出席しないような人達も居ないっていうのはどういう事なのかしら……」
「そうですよね。僕達みたいな外部から来た人達すら居ないっていうのは、どういう状態なんだろう?
そうだ!黒川さんに連絡してみますね!」
「そうね。その方が良いとは思うけど、何で
初めてお前呼ばわりされた……
口調こそ優しかったが、明らかに京子先生は怒っている……
嫉妬からくる苛立ちだとは思うが、全く言い訳は通用しなさそうだった。
「い……以前、黒川さんの方から連絡先を交換したいと言われまして、交換させていただきました……。
ほ……報告が遅れてすみませんでした……」
「ふ〜ん……それはいつの話?」
「く……黒川さんが入社して少ししてからです。京子先生が午前中に
「そうなのね〜……。まぁ、信じる気は無いけど、とりあえず桃ちゃんに連絡してみなさいよ」
「わ……分かりました」
怖ぇ〜……
別に京子先生と、まだちゃんと付き合ってる訳じゃないけど、ここまで露骨に嫉妬されると生きた心地がしない……
世の旦那が、浮気を詮索された時の気持ちが良く分かる……
初めて黒川さんに電話するという事もあったが、動揺が隠せずにいた僕は、とりあえず黒川さんに連絡した。
そして意外とあっさり繋がった。
「もしもし黒川さん?今何処にいるの?」
「あっ!柳町さん!柳町さんこそ何処にいるんですか?もうすぐオーディション始まりますよ!」
「オーディション?」
「そうですよ!あまり時間無いですから急いで下さいね!私達は会場で待ってますんで!」
そう言って電話を切られてしまった。
「京子先生。黒川さんがオーディション会場で待ってるんで、急いで下さいって言ってました。とりあえず無事だったみたいで安心したけど、何の事だろう?」
「今日かも!異能力ドラフトの選抜メンバーを選ぶとしたら、大体2週間前だから今日かも知れない!!」
「そうなんですか!?」
「今日の朝まで、ドラフトに参加する気なんてなかったから聞き流してたけど、そういえばいつだったか、サッキーがドラフトのオーディションがあるって言ってたわ!もしかしたらそれが今日かも!」
「ヤバいじゃないですか!場所は何処でやるんですか!?」
「確かエリアEって言ってたから、1番奥ね!あの人が急に死んだとかいうから、すっかり忘れてたわ。詳しい内容は分からないけど、とりあえず会場に向かってむこうで確認しましょう!」
「そうですね!急ぎましょう!」
僕達は急いで会場に向かった!
京子先生は自分で走った方が早いと思ったのか、僕を片手で抱き抱えたまま、もの凄いスピードで走り出した。
胸の膨らみに僕の顔が当たり、微かな喜びを感じながらも、何がなんだか分からない内にエリアEの会場に着いた。
そこは天下一武闘会でも行われそうなバトル会場になっていて、既に多数の参加者でごった返していた。
和気あいあいとした殺伐さがある不思議な空気の会場は、鼻血を出すほど興奮しているギャラリーと、今にもプレッシャーに押し潰されて、倒れてしまいそうな人達がたくさん居た。
京子先生はスマホを取り出し、何やら検索しているようだった。
僕は周りを見渡しながら、黒川さんの姿を探していたら、受付のような所が目に入った。近くに行って覗いてみると、そこには箕さんが座っていた。
「見ない顔だね。何処の子だい?」
「いつも会ってます!柳町 新右衛門です!」
「私は物覚えが悪くてねぇ。円周率も400桁までしか覚えられないんだよ」
「十分です!犬の嗅覚並みに記憶力が良いです!」
【その例え、分かりづらいわ】
「すみません」
京子先生はいつも通り、スケッチブックに文字を書いて会話をし出し、自然と浪花のブラックダイヤモンドモードに入っていた。※ここからは浪花さんで統一致します。
「あんたは浪花さんの連れ子かね?」
【まぁ、そんなようなものよ】
何気に裏の世界では、京子先生より浪花さん方が名が通っている。どういう経緯でそんな事になっているのか分からないが、ちらほらスカウトが来ているという話もしていた。勿論浪花さんは、人の下に付く事など出来ない性分なので、全て断っているようだが、お父様がスカウトに来るぐらいだから、本当の強さを知っていたら、やっぱり引き抜きたくなるのだろう……
「2人共、予選の登録はしていくのかい?時間が無いから、やるならさっさとしちゃいな」
「わ……分かりました」
【ダブルスで登録しなさい】
「ダブルスですか?」
【パートナーを私にしてダブルスで登録しなさい】
「だ……大丈夫なんですか?」
確か浪花さんは、犬飼さんに1戦目のシングルスに出てくれって言われてたけど、良いのかなぁ?
2戦目に勝っても、面太郎君は獲得出来ないのに……まぁ、僕的にはダブルスの方が心強いから良いんですけど……
でも浪花さんは思いつきで言っているようには見えなかった。2重登録は出来ないだろうし、何か理由があるんだろう……
いろいろな疑問が残ったが、とりあえず浪花さんの言う通りダブルスで登録する事にした。登録名を書く用紙には、何故か自分の名前を日本語とローマ字で2つ書く欄が用意されていたが、良く分からなかったのでとりあえず書くだけ書いた。
僕と浪花さんは予選の登録を済ませ、簡単な持ち物検査の後、黒川さんを探す為に会場内を徘徊した。
【首長族の落ちこぼれ】
「浪花さん?」
【新体操部出身のメジャーリーガー】
「な……浪花さん!?」
【2等身のゴールキーパー】
「浪花さん!!見る人見る人に、変なあだ名付けるの止めて下さい!!失礼なの多いから!!それに今はそんな状況じゃないんで、もっと予選会の情報収集しましょうよ!!」
【マスクだと思ったら、口の周りに四角く生クリームがついていただけだった】
「何の話!?そんな人に出会ってないでしょ!?もはや、あだ名なのか何なのかも分からないし!!」
本当にいつも自由だな、この人は……
まぁ裏を返せば、今まで自由に出来なかったって事なのかも知れないが……
「あっ!柳町さんと浪花さん!」
「黒川さん!そして凛ちゃんも!」
会場を歩き回ったけれど、なかなか見つからなかったのでもう一度電話して見ようと思っていた矢先に、やっと黒川さんと合流出来た。何故かくつろいでる風の2人は、会場で買ったと思われるベビーカステラを頬張っていた。
「どうしたんですか、その顔!?柳町さん
「いや……そういう訳じゃないけど、軽い罰ゲームみたいなもんだよ」
実際、このパンダ顔で5日間は軽くはないが……
実は、黒川さんも浪花さんと京子先生が同一人物だという事は知っている。見る人が見ればすぐ分かるとは思うが、気安く話し掛けたら、痛い目に会うという噂の方が広まっている感じがするので、誰も本当の事は確かめられないんでいるんじゃないだろうか。
「柳町さん。私達、あっちの方で既に場所取りしてあるんで、食べたい物を買ったら向こうで一緒に観戦しましょう!」
「観戦?出場するんじゃないの?」
「する訳ないじゃないですか!?
も…もしかしてですけど、出場登録しちゃったりしてます!?」
「してます……」
「す……凄い度胸ですね…………浪花さんはともかく、柳町さんは頑張って下さい……」
「馬鹿なんじゃないか、この身の程知らずは」と言いたげな顔をしていた黒川さんは、戦後最大と思うほどの呆れ顔だった。
「黒川さん。その手に持っているパンフレット見せてもらっても良い?」
「はい」
黒川さんは、今回の異能力ドラフト出場者選考会の内容が書かれているパンフレットを持っていたので、見せてもらった。「まさか、内容も知らずに参加したんじゃねーだろうな」という表情に見えた黒川さんの顔はとりあえず見なかった事にして、異能力ドラフト出場者選考会の内容を確認する事にした。
選考会で選ばれるメンバーは、全部で4人。1戦目は犬飼さんの推薦でほぼ決まっているが、まだ公表されていない浪花さんの予定だろう。一応シードがあるらしく、その推薦者は最終選考の決勝戦から出場するみたいだ。そして2戦目のダブルスと3戦目のシングルスのメンバーも選抜して選ぶというのが、今回の目的らしい。
1次選考、2次選考を勝ち抜くと、最終選考まで残れるようだ。選考内容は当日発表と書かれていて、1次選考で3〜40人程度に絞られる。2次選考はシングルスは5〜10人程度、ダブルスは5組前後が最終選考に進むようだ。
犬飼さんの話だと、京介さんが3戦目のメンバーになるらしいと言ってたけど、予選会には出場するんだろうか……?
浪花さんも僕と一緒にダブルスで登録してたけど、推薦枠でシングルスの決勝戦から出場する予定なんじゃないのかなぁ……?
「出場者の方は登録を済まされたでしょうか?あと3分ほどで登録を締め切らせてもらいますので、まだ登録がお済みでない方はお急ぎください」
会場にアナウンスが流れ、そろそろ始まりそうな雰囲気になってきた。下のフロアーには200人くらいの人が集まっている。観客席も含めると会場には1000人近い人が居るじゃないだろうか。浪花さんと一緒だとはいえ、本当に勝ち残れるのか急に不安になってきた……
「ではここで、出場者の登録を締め切らせてもらいます。10分後、19時30分から1次選考を始めますので、出場者以外の方は観客席の方か会場の外に移動をお願い致します」
アナウンスを聞いた人達がゾロゾロと動き出し、出場者と観戦者に分かれて移動し始めた。
ちょうど時間になると、闘技場に司会者らしき人が上がり進行を始めた。
「レディース、エーン、レディース!!」
「だから、女ばっかりやんけ!!」
良く見ると、司会はお馴染みの瀧崎 太郎丸だった。
「では只今より、異能力ドラフト出場者選考会を行います!今回の参加者は全部で241名。1次予選では50名以下になるまで、
ではまず1次予選ですが、登録名を記入していただく際に、日本語とローマ字の2つで書いていただいたと思うのですが、ローマ字で書けなかった方は退席していただきます」
闘技場に居た人達が移動し始めた。
気付くと残っている人が40人程度だった。
って、バカばっかりじゃん!!
「では、1次予選の通過者は、私の周りに集まってください」
通過者って!!………まだ何もしてないですけど!?
まさか自分の名前をローマ字で書けなかった人が、200人も居るとは……
《満員電車のような密度で瀧崎さんの周りに集まっている挿し絵》
「いや、近いでしょ!!」
「皆さんには、この状態のまま30分ほど私の漫談を聞いてもらいます」
「漫談!?」
「私の漫談に耐えきれず、このセンターサークル内から出てしまった方は脱落とさせていただきます」
「それって聞くに耐えない話って事ですか!?1次予選と2次予選は捨てなの!?どんな漫談だとしても、流石に30分間黙って聞く事くらいは出来ると思うけど……」
「ルールはただ1つ!30分間、私を中心とした、このサークル内から出ない事です!ちなみにこのサークルは特殊な仕組みになっていて、私が移動しても私を中心としたまま着いてくるようになっています。1度サークルから出てしまうと、中に入る事は出来ません。私がどんなに臭かろうが、バットを振り回そうが、とにかく漫談を聞き逃さずサークルから出ない事です!準備はよろしいでしょうか?」
「何だか良く分からんけど、要は何があっても30分間このサークルから出なければ良いのね!漫談はあまり関係ないじゃん!!何故、漫談をメインみたいに言った瀧崎!!」
「では、2次予選を始めます!!よーい、ドン!!」
「動かないけどね!!
あたかも全力疾走しそうな掛け声だったけど、これどっちかというと留まる競技だからね!!瀧崎さんが動かない限り、僕達動きませんよ!!」
瀧崎さんは、ポケットの中からおもむろにクサヤを取り出し、我を忘れたかのようにがむしゃらに食べ出した。
「匂いか!!精神力の戦いって、この臭さに耐えられるかって事か!!」
瀧崎さんの近くに居た人達が、バタバタと倒れていた。
その様子を後ろの方で見ていた1人の若者が、いきなり瀧崎さんに殴りかかった!!
「あぁ〜!!」
臭さのせいか殴られたせいか分からないが、1撃でのされた瀧崎さんの頭を鷲掴みにしたそいつは、以前
「要はこのサークルから出なきゃ良いんだろ?だったらサークルの中心であるこいつをコントロールしちまえば、次に残る奴をこっちで選べるって訳だ」
噂には聞いていたが、やっぱり性格は悪そうだ。
やり方が汚いし、犬飼さんの息子だというだけで、幅を利かせてるのか………実に厄介だ………
京介さんは瀧崎さんを引きずり回しながら、あっちこっちに飛び回って、少しずつ脱落者を出していった。僕は、何とかサークルから出ないように必死について行ったが、浪花さんを含めた数人のメンバーは、余裕で京介さんについて行っていた。
徐々に移動スピードを上げていった京介さんに、ついて行くのがやっとになってきた所で、浪花さんが僕を抱き抱えて移動してくれた。
「あ……ありがとうございます」
「(このお礼は後でたっぷりしてもらうわ)」
小声で僕の耳元に囁いていたが、浪花さんに助けてもらった時の代償はいつもえげつない……。
お礼の事は今考えてもしょうがないと思ったので、とりあえず考えるのをやめて、今は胸の膨らみに頬を寄せて浪花さんに身を任せる事にした。
半数くらいの人達が脱落した辺りで、京介さんは瀧崎さんを投げ捨てて、アナウンス席を睨み付けた。
「え〜………に、2次予選ですが、残りのメンバーが半数くらいになりましたので、ここで終了とさせていただきます。今、残っている方が通過者となりますので、そのままで待機をお願い致します」
「こ……ここは何処じゃ?」
瀧崎さんが目を覚ました。
僕は瀧崎さんに駆け寄り、肩を貸して起き上がらせた。
「おぉ、ナギマチか。どうしたんじゃその顔は?今日からパンダマンにでもなるのか?」
「ちょっと、浪花さんにイタズラされただけです。それより瀧崎さんは大丈夫なんですか?かなりの勢いで京介さんに殴られていましたけど」
「そうじゃ!京介の奴、いきなり殴りやがって、びっくりしたぞ!」
「び、びっくりしただけですか?」
「あぁ、アイスコーヒーかと思って飲んだら、コーラだった時くらいびっくりしたぞ」
「大した事ないじゃん!」
心配して損した……
「ナギマチと浪花さんもやっぱり出場してたんじゃな。当然だと思うがダブルスでのエントリーか?」
「そうです。一応、浪花さんの指示ですけど」
「そうじゃ!最終選考はシングルスとダブルスに分けなくちゃいかんから、残ったメンバーを選定しておかないといかん」
そう言うと瀧崎さんはアナウンス席の人達と相談し、残ったメンバーをシングルスとダブルスに分け始めた。
ダブルスはコンビが分かるようにする為か分からないが、ペアルックのトレーナーを着るように渡された。ちなみに僕達のトレーナーは、ラオウの偽物のようなデザインのプリントが入っていた。
シングルスは5名、ダブルスは僕達を含めて4組8名が残った。
「先にシングルスの選考を行いますので、シングルス登録で勝ち残った選手のみ、闘技場に上がってください。簡単な選手紹介をした後、本番同様のバトルロイヤルで戦ってもらいます。1位通過の選手が1戦目の選手に、2位通過の選手が3戦目の出場選手として決まります」
アナウンスを聞いた通過者達で、ダブルス登録の人達だけが闘技場から降りて行った。
瀧崎さんは改めて司会兼レフェリー役を行うようで、闘技場に上がり、勝ち残った出場者を紹介するようだ。
会場の上部にある大型モニターにも選手の顔が映し出され、格闘技イベントさながらの演出がされていた。
「それではこれより、最終選考に残った選手達を紹介致します!
まず1人目は、エントリーナンバー31番、ヘアバンド 菊地選手です!」
何かリングネームみたいなの付けてるけど、みんな本名じゃないのかな?まぁ、こういう裏社会のイベントだから、逆に本名を出している人の方が少ないのか……
「ヘアバンド選手は……」
「いや!そこは菊地選手で良いでしょ!!略す所、もう少し考えましょうよ!!」
「すみません、間違えました。
「そこは言い直さなくて良いから!!」
「幼い頃からヘアーバンドが大嫌いで……」
「そうだよね!!どう見てもヘアーバンドしてないものね!!むしろ何でそんなリングネーム付けたんでしょうね!!」
「楽器が出来ないけど、何とかバンドを組みたかったらしいです」
「それ、
「現在、32歳の独身男性で、花嫁募集中だそうです。好きなサイドバックは長友選手で、趣味は人の誕生日を覚える事だそうです」
「何か、どうでも良い情報多いぞ!!」
「続きまして、2人目の選手はエントリーナンバー32番、コメンテーター 田森選手です」
「戦う気あります、その人!?見るからに7:3分けのサラリーマン風の人だし、絶対見てるだけの人でしょ!?」
「コメンテーター選手は……」
「だから、田森選手で良いじゃん!!分かりづらいから!!」
「とにかく無口な選手ですが……」
「絶対、向かないでしょ!!無口なコメンテーターいらないから!!」
「洞察力や分析力に長けている選手だと、松竹梅小学校では噂になっているそうです」
「どういう事!?小学校の噂情報ってコメントしづらい!!コメンテーターのプロフィールのコメント、コメントしづらい!!」
「続きまして、3人目の選手はエントリーナンバー33番、トップ通過 二位さんです!」
「もっと分かりづらいの出て来た!!トップ通過なのに二位なの!?しかもそれが名前なの!?」
「トップ通過さんは、どちらかというと
「じゃ、
「前回予選では三位通過の選手です」
「トップ通過 二位さんは前回は三位通過なのね!それでいて姐さんなのね!!もう、いちいち人の名前を説明させないで!!」
「そして4人目の選手はエントリーナンバー34番、野上 敦選手です」
「普通なの出て来た!!逆に新鮮過ぎてつっこみづらい!!」
「野上選手はブレイブハウンドの下部組織から上がってきた選手で、将来の幹部候補として名前が挙がっているほどの選手です」
【まとも過ぎるわね】
「そうですね。変な人ばっかりだったのでどうなる事かと思いましたけど、良い意味で期待を裏切ってくれましたね」
【面白味に欠けるから、ニワトリの物まねでもやって欲しいものね】
「コケコッコー野上選手は……」
「瀧崎さん!勝手にリングネーム付けちゃだめ!!やっと来たまともな人、イメージ崩れるから!!」
「失礼しました。野上選手は現在でもブレイブハウンド内で活躍し、バリバリの原液……いや現役選手です。今回の選考会でも1、2を争う優勝候補でしょう!」
変な選手がいっぱい居たけど、予選での動きを見ている限り、全員強いであろう事は確かだった。
その中でも、この野上選手は僕の目にも明らかに強い事は分かっていた。
「そして、5人目の選手はエントリーナンバー35番……」
「ちょっと気になったけど、エントリーナンバー30番代、最終選考に残る率ハンパないんですけど!!つっこみとして弱いのは分かっていたからいちいち言わなかったけど、流石にここまで来ると黙っていられなくてすみません!!」
「皆さんご存知の犬飼 京介選手です。今は亡き犬飼 治五郎氏の御子息で、ブレイブハウンドの幹部も努めている将来の有望株です」
犬飼さんには悪いが、正直こいつにだけは勝って欲しくないと思ってしまう……
「京介選手は現在23歳。ブレイブハウンドの2代目こそ一ノ条様がお継ぎになられましたが、3代目はこの京介選手が継ぐであろうと言われている、純血のサラブレッドです。間違いなく優勝候補筆頭でしょう!天下無双の私が1撃でのされたのも、当然と言っちゃあ当然なんです!」
何故、自分がやられた事の言い訳をそこで入れた瀧崎!
純粋に弱くてやられた事を認めなさい!
「そして最後の6人目の選手は、今は亡き犬飼 治五郎氏の推薦で出場する事になったこの人……、フィレオフィッシュ 牛尾選手です!!」
「誰!?名前も去ることながら誰!?機内食じゃないけど、肉か魚かハッキリして!!」
「牛尾選手は……」
「さっきまで面倒くさい方で呼んでたんだから、ここはあえてフィレオフィッシュ選手で行きましょうよ!!そこは許しますから、逆に面倒くさがっちゃ駄目!!」
「生前、犬飼氏が直々にスカウトし、何としても今回のドラフトに参加させたいと申し出た逸材だそうです!詳しい情報は分かりませんが、一ノ条様からも推薦されているようです!」
「浪花さん以外にもスカウトしてた人が居たんですね」
【そのようね】
浪花さんは、たいして動揺している訳でも無く普通に受け入れていた。
「浪花さん。あの牛尾さんという選手、知ってますか?」
【知っていると言えば知っているけど、今は黙って見てなさい】
何か浪花さんの対応は不思議な感じだった。
牛尾という選手、見た目は20代後半といった感じで、陸上競技でもやっていそうな、いかにも体が利くといったアスリート体型の男性だった。
どこか落ち着いた雰囲気を持ち、場馴れしているオーラを醸し出していた。
「以上の6名が、最終選考に残った選手達です。タッグを組んで戦うも良し。改めてルールを決めて戦うも良し。とにかく勝ち残った2人が出場権を得られるサバイバルゲームです!」
周りの空気が一変して、いよいよ始まる決勝戦に皆の注目が集まった。
「制限時間は無制限!皆さん準備はよろしいでしょうか!」
さっきまで、飲み食いしながら見ていた観客達も、たたずを飲み込んで見守っいる。
「では、始めます!!第14回 異能力ドラフト出場者選考会、シングルス決勝戦です!!
レディー、ファイティング!!」
遂に始まった異能力ドラフト出場者選考会のシングル決勝戦。
誰が勝ち残るのか全く分からないこの状況を、会場中全ての人達が闘技場の舞台に注目していた。
「浪花さんは、誰が勝つと思いますか?」
【1位はフィレオフィッシュ 牛尾。2位は犬飼 京介かコケコッコー 野上って所かしらね】
フルネームで答えてもらう必要はなかったが、とりあえずここはつっこまずに流そうと思った。敢えてつっこむのであれば、コケコッコー 野上さんは瀧崎さんが勝手につけた名前で、登録名は野上 敦だという事くらいだ。
選手紹介はあったものの、実力に関する有力な情報が全く無いに等しかったので、戦況が読みづらい事は確かだった。
僕的には1位が野上さん。2位が京介さんか牛尾さんかなぁ……
大穴で田森さんというのもある気がするが……
いつの間にか有馬記念並みの予想をしている自分に罪悪感を感じ、決勝戦に集中する事にした。
6人のにらみ合いが続いている中、先に動いたのは野上さん、牛尾さん、京介さんの3人だった!
【当然こうなるわよね】
「どういう事ですか?」
【優勝候補として目をつけられている人達は、手を組まれて挑んで来られる方が厄介でしょ?】
「そうか!だから手を組まれる前に、1対1で先に潰しにかかるんですね!」
【そういう事ね】
野上さんは田森さんと、牛尾さんは菊地さんと、京介さんは二位さんと対峙する事になった。
野上さんは明らかに身体能力が高く、無口なコメンテーターとしての田森さんは、まともに戦っては歯が立たない事は目に見えていた。
それを既に悟っていたのか、田森さんは出し惜しみする事無く、いきなり自分の異能力を発動させた!!
「『
そう発した田森さんの口元が異能力オーラを纏った!!
「ワンワンワンワンワン!!」
田森さんの叫んだ犬の鳴き声は、驚く事に
普段無口で居るのは、言葉を物体化する事が出来るからなのか!?
「ニャ〜ニャ〜ニャ〜!!」
「ホーホケキョ!!」
「クックドゥードゥルドゥー!!」
彼の戦い方を見る限り、動物の鳴き声しか物体化出来ないのかも知れない……(もしかして彼もB級なのか!?)
※ちなみにクックドゥードゥルドゥーは、英語版ニワトリの鳴き声です。
多少の制限はあるようだが、飛び道具という能力を持っているのはかなり有利だ。現に野上さんは攻めあぐねていて、攻撃を避けるだけになっている。物体化した声の質量は声の大きさに比例するようで、大きい声で発すれば大きくなり、小さい声で発すれば小さく物体化するようだ。
なかなか近づく事が出来ない野上さんは、防戦一方のままだったが、まだ異能力を発動する様子も無く、ただただ避けているだけだった。
一方、闘技場の別の場所では、牛尾さんと菊地さんの戦いが行われていて、既に勝負がついているようだった。何が起こっていたのか分からないが、菊地さんは仰向けに倒れていてピクリとも動かなかった。
会場のモニターにリプレイ映像が流れた瞬間、会場中がざわめいた……
スロー映像でも追えないほどのスピードだったが、牛尾さんが放ったのはただのデコピンだった!!バク宙のように8回転した菊地さんの体は、大車輪のごとく転がって行き、闘技場の後方で大の字に倒れ込んだ!!
犬飼さんが推薦する意味が分かった……
異能力なのかどうかは分からないが、ただのデコピンがこれほどとは……
この映像を見て会場中の誰もが、牛尾さんの実力が本物だという事を確信したんではないだろうか。
一撃で勝負のついた牛尾さんは、京介さんと二位さんの戦いに参戦しようとしていた。
卑劣な手口の京介さんは、女性である二位さんを弄び、チャイナドレス風の服を少しずつ破るようにして、肌を露出させようとしていた。
それを見かねた牛尾さんが、二位さんに手を貸すような形で戦いに割って入って行った。
「何だ?
オヤジの推薦だか何だか知らねーが、女の前で良い格好しようとしてんじゃねーよ!!まぁ、俺に楯突く奴は、どんな奴だろうがただじゃおかねーけどな!!」
「二位さん。アンタはとりあえず下がってなさい。ここは私が京介の相手をする」
「………?」
「1位の出場権は私が頂く!私は手加減しないから、あなたも本気で来なさい!」
「フン!俺もお遊びに飽きてきた所だ。ちょっとは張り合いがありそうだから、少し本気で相手してやるよ!」
そう言った京介さんは、おもむろに殺気を出して臨戦態勢に入った。
「『
異能力を発動した京介さんは、右手を振りかざしながら牛尾さんに飛びかかった!!
牛尾さんは余裕のあるバックステップでかわし、京介さんの顔に軽くジャブを返した。綺麗にかわされたせいで、京介さんの異能力がどんなものなのか分からなかったが、牛尾さんは京介さんの動きを見切っているようだった。
「お前……俺の能力を知っているのか!?」
「………」
「どっかで会った事があるのか……?」
「………」
「返事をしないって事は、そうだと受け取るぜ!!」
今度は、さっきの倍以上のスピードで牛尾さんに飛びかかって行った!!
会場中の誰もが、目で追うのがやっとなほどの攻防戦を繰り広げていたが、牛尾さんはそれでも余裕があり、ヒラリヒラリと闘牛士のように攻撃をかわしていた。
確かに京介さんの言う通り、牛尾さんは京介さんの能力を知っているような戦い方だった。
会場中が沸いている中、今までかわす事ばかりしていた牛尾さんが、一転して攻撃体制に入った!!
バトルフィールドとして使用されている、闘技場の足場のプレートを、片手で1枚剥がしてしまったのだ!!
なんていう腕力なんだ!!
縦も横も3m以上はありそうな石のプレートを、片手で軽々と持ち上げるなんて!!
牛尾さんはそのプレートを、京介さんに向かってフリスビーのように投げた!!
ギリギリでかわした京介さんを通り越し、プレートは会場の壁に突き刺さったが、京介さんの真後ろには既に牛尾さんが回り込んでいた!
京介さんの後頭部を鷲掴みにした牛尾さんは、そのまま地面に顔を叩きつけ、京介さんを力で抑え込んでしまった!
顔面をモロに打ちつけた京介さんは、頭を抑えつけられたままで身動きがとれず、怒りの表情を浮かべたまま、横目で牛尾さんを睨み付ける事しか出来なかった。
「頭を抑えつけられただけで、完全に動けなくなってる!!」
早く降参しろと言わんばかりの圧力で抑えつけている牛尾さんに、二位さんが近寄って来た。
「牛尾さん。手を離して下さい。この人の相手は私がやります」
京介さんの攻撃で服が破れたままの二位さんは、片手で胸元を隠しながら、牛尾さんに歩み寄った。
二位さんの言葉を聞いた牛尾さんは、抑えつけていた手を緩めて京介さんを解放した。
京介さんは飛び退いて距離をとる瞬間、牛尾さんに一撃入れようとして、逆水平チョップのように腕を振り回したが、牛尾さんはそれすらも軽々とかわしてしまった。
「アンタの手に負えるのかい?」
「私は自分の力を試したいの。実力社会のこの世界で、自分が今、どの位置に居るの知って、もっと強くなりたいのよ」
「アンタじゃ勝てんと思うが、やるだけやってみるんだな」
牛尾さんは二位さんを置いて野上さん達の方に向かった。
野上さんを相手にしていた田森さんは、さっきまで異能力である『
持久戦に持ち込まれたせいで、田森さんは打つ手が無くなっているようだった。
身体能力でも異能力でも勝てない上に、戦闘慣れしている相手となると、田森さんに勝機はないだろう……。
ここまで力の差があるとは思っていなかったような田森さんは、悔しがりながら降参した。
「お前が野上か。噂通りなかなかやるじゃないか」
牛尾さんが野上さんの後ろから話し掛けた。
「牛尾さん。アンタ、スカウト組らしいが名前は聞いた事が無いな。只者じゃないのは一目で分かるが、一体何者なんだ?」
「お前が勝ったら教えてやっても良いぞ」
野上さんは「だったら簡単なもんだ」と言いたげな態度で苦笑いし、牛尾さんに肉弾戦を挑んだ!
野上さんの攻撃は、さっきの京介さんの動きよりも早く、人の動きでは無いくらいのスピードだった!!
しかし、それでも牛尾さんには攻撃が当たらず、野上さんの一歩上を行っているような余裕が感じられた。
野上さんの乱打中に、牛尾さんが繰り出した1発のカウンターパンチが野上さんの頬をかすめた瞬間、野上さんの目が本気になり突然異能力を発動させた!!
「『
そう叫んで牛尾さんに手をかざした瞬間、牛尾さんの首周りにメガホンのような物が現れた!!
それは、犬や猫が治療した後に顔をかかないようにする為の道具で、エリマキトカゲのような形をした首に巻く器具だった!!
突然現れたエリザベスカラーに気をとられた牛尾さんの一瞬の隙を見逃さず、野上さんが牛尾さんの土手っ腹にトラースキックを叩き込んだ!!
初めて片膝をついた牛尾さんはニヤリと笑い、エリザベスカラーを両手で潰して破壊した!!
すぐさま『
「俺の能力『
「それがどうした」
確かに!
牛尾さんに発動させても、簡単に破壊してしまうから一瞬の隙しか作れない!それに1度見ているから、今度は奇襲としても使えないし、説明するだけ自分が不利になるんじゃ……
エリザベスカラーに全く動じない牛尾さんは、そのままの格好で野上さんに襲いかかった!!
しかし次の瞬間、牛尾さんはいきなり
「話は最後まで聞くもんだぜ。俺のエリザベスカラーはもう1つ特徴があって、1個につき100㎏まで重くする事が出来るんだ」
100㎏!?
【1つで100㎏だったら、5つで200㎏ね】
「どういう計算!?浪花さん、ちょこちょこ計算おかしいですけど、算数弱いんですか!?」
【毎日、うんこドリルはやっているわ】
「やらなくて良いです、その歳で!!っていうか、やってる割にはです!!」
この人、本当に計算出来るのかなぁ……!?
独立して相談所をやっているくらいだから大丈夫だと思っていたけど、僕の給料と言い、こういう計算と言い、算数に関しては僕より下なんじゃないかと思う事が多々ある。
まぁ、そんな事を考えてもしょうがないので、今はとりあえず決勝戦に集中しよう。
野上さんは牛尾さんの両手両足にも、エリザベスカラーを発動させた!!そして全て100㎏の重さにしているようだった!!
身動きのとれない牛尾さんに攻撃を仕掛けようとした瞬間、牛尾さんは全身に力を入れてエリザベスカラーを全て破壊してしまった!!
牛尾さんの姿は倍以上に膨れ上がり、ドラゴ○ボールの亀○人が本気を出した時のような肉体美だった!!
そして、まだまだ余裕のありそうな牛尾さんは、野上さんとの距離を縮めながら威圧してきた。
「お前の技はそこまでか?まだ奥の手があるなら、今のうちに見せてみろ」
たじろぐ野上さんがモニターに映し出された瞬間、会場中がざわつき出した。
良く見ると牛尾さんの姿にざわついた訳では無く、二位さんと京介さんの戦いに動きがあったようだった。
闘技場の端では、さっきよりセクシーに服を破かれてしまった二位さんと、それを
「な……何があったんですか?」
【モンハンやっていて見ていなかったわ】
「今やんないで下さい!!もっとリアルな戦いに集中しましょうよ!!」
良く見てみると、京介さんの足下に水溜まりのようなものが出来ていた。
ふらつき気味の京介さんは、少しずつ前のめりになり
会場のモニターに映し出された京介さんは、何故か痩せ細っていて、それはもうサムゲタンだった。
「も……もしかすると、足下の水って……」
【京介の涎なんじゃ!!?】
尋常じゃない量の涎を出していた京介さんは、既に脱水症状を起こしていて、もはや戦える状態ではなかった!
体中、アザだらけになって弄ばれていた二位さんは、どこかのタイミングで異能力を発動したらしく、ボロボロになりながらも京介さんを倒してしまった!
闘技場に堂々と立ち尽くしている牛尾さんとその強さに戦意を喪失してしまった野上さん。そして、もはや戦える状態ではない二位さんを見て、誰もがこの戦いに決着がついた事を悟った。
タンカで運ばれた京介さんと二位さんが居なくなり、負けを認めた野上さんを確認すると、場内にアナウンスが流れた。
「今回のシングルス戦!!勝者はフィレオフィッシュ 牛尾選手です!!そして、牛尾選手に負けを認めてしまったものの、ここまで選抜選手として相応しい戦いをしてくれた野上選手が2位となり、異能力ドラフト3戦目の出場者として選ばれます!!皆さん、お2人に盛大な拍手をお願い致します!!」
会場中が拍手で包まれた後、闘技場の壊れた床を直す為に整備の時間が設けられた。
「凄い戦いでしたね」
【終わってみればフィレオフィッシュの独壇場だったわね】
「そう言えばさっき、牛尾さんの事知ってる風でしたけど、あの人は一体何者なんですか?」
【多分だけどあの男は………】
「(犬飼 治五郎だと思うわ)」
「え~っ!!」
浪花さんは周囲にバレないように小声で教えてくれた。
「(あれがお父様ですか!?)」
【さっき出場登録をする前に、あの人から連絡があったのよ】
「そう言えば、急にダブルスに変更しましたよね!」
【詳しい事は聞かなかったけど、私はあの瞬間、あの人も出るんだと解釈したわ】
「そういう事か」
【結局は目立ちたがりなのよ】
そこは親譲りって訳ですね……
それにしても……
「あの姿は一体どういう事なんですかね?あれがあの人の異能力なんですか?」
【違うはずよ。噂でしか聞いた事はないけれど、あの人は怪力をウリにしてたはずだから】
確かに、さっきの怪力はハンパじゃなかった!全然本気を出してる感じもしなかったし、正直強さの底が見えない……
【おそらく誰かの能力で、姿を変えているんだと思うわ】
そうだとしても凄い……
そんな能力を持っている人が居るなんて、本当に世の中が広いと感じてしまう……
僕なんかまだまだヒヨッコ同然だからな……
しばらくすると闘技場の整備が終わり、今度はダブルスの出場者が上がるように指示された。
【いよいよ私の出番ね】
「そうですね。出来るだけ浪花さんの足を引っ張らないように頑張ります!」
【新右衛門君も戦う気なの?】
「えっ!?勿論、ダブルスなんでやる気でいますけど……」
【出場登録はお願いしたけど、私は1人でやるつもりだから邪魔しないでね】
そ……そうだったんだ……
確かに僕は居ない方が戦いやすいかも知れない……
【とりあえず闘技場には上がりなさい。その後は私の後ろで、金魚のフンみたいにくっついていれば良いわ】
「か〜しこまりました〜!!」
ダブルスの出場者が、続々と闘技場に集まり出した。
4組8名で行われるこの戦い。メンバーが全員揃った所で、出場者の紹介がアナウンスされた。
「それではこれより、ダブルス戦の選手紹介を行います!
まずは1組目はエントリーナンバー36番、南国育ちの暴れ馬コンビ レイチェルとグレイチェルです!!」
「ヤダ!!何かヤダその名前!!言いたくなるけど何かヤダ!!」
「レイチェルとグレイチェルは、ロシアでは有名なブーメラン使いです!!この決勝戦では、果たしてどんな戦いを見せてくれるのでしょうか!!実に楽しみな2人です!!」
「育ちは南国だけど、ロシアで有名な人達なの!?それに武器の使用は禁止されているからブーメランは使えないけど大丈夫なの!?」
「レイチェルとグレイチェルは凄く仲の良いコンビですが、実は兄弟でもなんでもないそうです」
「そ……そうなんですね」
「仲が良いって言っても、時には喧嘩をする事もあります」
「そ……そりゃ人間だもの」
「先日も横浜中華街を2人で仲良く食べ歩きをしていた時に、つまらない事で喧嘩をしてしまったそうです」
「ちょ……ちょっと瀧崎さん……その話、長くなります?戦いに関係無い情報だったら、出来れば控えて欲しいんですけど……」
【私は聞きたいわ】
僕は何故か会場中からのブーイングを浴び、レイチェルとグレイチェルの「横浜中華街ぶらり旅」の話を聞かされる事になった。
「その日、レイチェルとグレイチェルは大学のラグビー部の練習を終えた後、ご飯を食べる為にとりあえず渋谷で待ち合わせをしたそうです」
「アイツオソイナー」
「ちょ……ちょっと待って!!もしかしてですけど、こっからミニコント風に始まるんですか!?」
「ボクはココにイマスですよ」
「イマスですって何!?っていうかどっちがレイチェルでどっちがグレイチェル?」
「あの~すみません。ちょっと道を教えて欲しいんですが……」
「渋谷で会った2人の前に、レイチェルとグレイチェルが道を尋ねてきた」
「道を尋ねたのがレイチェルとグレイチェルなの!?じゃ、先に待ち合わせしてたの誰だよ!!」
【真田 哲臣と桜岡 新吉よ】
「だから誰ですか!?そのゴリゴリの日本人!!そもそも何で浪花さんがその事知ってるんですか!?」
【私は昔、横浜中華街でバイトをしてた事があるの】
「にしても、場面はまだ渋谷だからあり得ないでしょ!!」
【真田 哲臣と桜岡 新吉が待ち合わせで待っていたのは私だもの】
「そ……そうなんですか!?」
【この後3人でスポッチャに行って、お腹を空かせてから横浜中華街に行く所よ】
「お腹を空かせてからバイトに行くんですか!?大丈夫なんですか!?っていうか何で横浜中華街行くのに、渋谷で待ち合わせ!?もしかして時間は5時じゃないでしょうね!?」
「……そして殴り合いの喧嘩をした後、2人は仲直りしてセブンイレブンの肉まんを食べたそうです」
「僕のボケはスルーですか!?っていうかいつの間に話進行してたの!?何か大事な所聞き逃したけど!!結局、横浜中華街に行ったのに、セブンイレブンの肉まんに落ち着いちゃったし!!もっと良い物食べれば良いのに!!」
僕だったら、豚まん、エビチリ、小籠包は必ず食べる!!
「続いて2組目は、エントリーナンバー37番、横浜中華街でバイトするのが大好き、真田 哲臣さんと桜岡 新吉さんです!」
「まさかの2人!!」
【久しぶりね】
「(浪花さん、今は柊 京子じゃないけど大丈夫なんですか?)」
【大丈夫よ。浪花のブラックダイヤモンドというキャラは、中学時代から既に確立しているんだもの】
「中学時代からですか!?結構、息の長いキャラなんですね!てっきりファルセット内だけのキャラだと思ってました。っていうか、途中からちょこちょこ相田みつをが入ってるのが気になるんですけど」
【それはしょうがないわよ、人間だもの】
「そこも入れます!?」
「おっとここで、真田 哲臣さんと桜岡 新吉さんから申告がありまして、お2人は決勝戦を辞退するそうです!何でもお2人は決勝戦に残られた浪花さんのお知り合いらしく、彼女と戦って勝てる自身が無いとの事です!」
【賢明な判断ね。他の人達も怪我したくなかったら辞退した方が身の為よ。だもの】
「だもの、無理やり入れんな!!だものの詰め放題か!!」
「そして3組目はエントリーナンバー38番、優勝候補筆頭のこの人達、高柳 スーザン時男選手と西田 モンゴメリー翔子選手です!」
「何か、こっちも凄い名前のが出て来たよ!!」
【噂の奴らね】
「奴らは去年から一気に頭角を現し、コンビで戦わせたら右に出る者は居ないとまで言われた奴らです!!」
「名前が面倒くさいからって、奴らで統一すな!!」
「高柳 スーザン 時男選手は、元々アメリカンフットボールの選手でしたが、ルールが分からずに近所のスーパーに就職したそうです」
「どういう経緯!?百歩譲ってルールが分からずに辞めたとしても、近所のスーパーに就職した経緯は、はしょりすぎでしょ!!全然分からん!!」
「西田 モンゴメリー 翔子選手は、どういう訳か夜になるとしゃっくりが止まらなくなり、大爆笑してしまうそうです!」
「それこそ何の話!?皆ぶっ飛んでんのか!?頭おかしいにも程があるぞ!!」
つっこみで飛ばし過ぎた僕は、戦う前から既にクタクタだった。
そして、いよいよというかやっとというか、僕達の紹介の番が回ってきた。
「最後はこの人達、エントリーナンバー39番……」
「やっぱり30番代!!」
「言わずと知れた関西の寝起きの黒豹こと、浪花のブラックダイヤモンドさんです!!」
観客席の一角だけ異常な盛り上がりを見せていたが、どうやら浪花さんの隠れファンが陣取っていたらしい。
覆面を被っているとはいえ、やっぱり見る人が見れば美形なのは一目瞭然。それに加えてこのスタイルだったら、多少の変人気質は男だったら書き消されてしまうだろう。
「そして、浪花さんのお供に指名されたこの人、B級の中のB級能力者、蔑まされる為に生まれて来た男、ガヤ芸人の成れの果て、使えない召使いのキングオブキング、路上に落ちてるゴミ袋、枕の中のパウダービーズ……」
「肩書きが長い!!僕を罵るのは良いけど、最後の方訳分かんないから!!枕の中のパウダービーズって良いのか悪いのか例えとして分からんわ!!」
「失礼しました。最後は、ナギマチです」
「面倒くさがるな!!」
「柳町さん頑張ってー!!」
何処からともなく、僕を応援する声が聞こえた。ふと振り向くと黒川さんが凛ちゃんと一緒に手を振っていた。
僕がそれに応えようと手を振ろうとした瞬間、浪花さんのコークスクリューアッパーが僕のアゴを綺麗に捉えて、身伸のまま4回転で宙に舞った僕の体は綺麗な弧を描いていた。
それはまさに、ロケット風船が飛ぶかのごとくの見事な舞いだったそうだ。(黒川さんの後日談)
「言わずと知れた浪花のブラックダイヤモンドさんは、ファルセットのJr.ユースからの生え抜き選手で、ドラフト選抜に出場する事こそ今回が初めてですが、この業界では誰もが認める強者であります。そして何より、あの有名な犬飼三羽烏の1人と称されております」
「犬飼三羽烏!?」
「そうです!!あの西荻窪で有名な犬飼三羽烏です!!」
「西荻窪どうでも良い!!」
「犬飼三羽烏と言えば、タキシード烏丸さん(烏丸 悟)、浪花のブラックダイヤモンドさん、そして最後の1人があのアベンジャーズです!!」
「多い!!最後多いよ!!せめてアイアンマンだけとかにして!!」
「失礼しました。最後の1人は田中 健太君です」
「あっさりした普通っぽい人出て来た!!」
「田中 健太君は………」
「いや!誰だか気にはなるけど、出場選手じゃない人の紹介はとりあえずいいんじゃないでしょうか!?」
またもや僕は会場中のブーイングを浴びてしまい、完全にヒール扱いになってしまった。
【私も気になるから、田中 健太君の事は知りたいわ】
何故いつも、僕だけが間違っているような扱いを受けてしまうのだろう………
僕がおかしいのか!!?
「田中 健太君は現在、逃走中で行方不明となっています」
「逃走中!?そいつ悪い奴なの!?」
「健太君は現在3歳で……」
「3歳!?」
「人で言うと28歳くらいです」
「人じゃないの!?」
「そうです。田中さんは人ではなく、異能力を持っている黒い色をしたミニチュアダックスフンドです」
「(小太郎〜さん!!?)」
人年齢では僕より歳上の28歳なので、さん付けさせてもらいましたが、まさかの小太郎さんが犬飼三羽烏だったとは……
浪花さんも初耳だったらしく、マスクの下の表情は明らかに驚いていた。
「浪花さんは犬飼三羽烏としてだけではなく、闇アイドル業界で異例の100万ダウンロードを記録したミステリアスデュオ『ブラックorホワイト』の黒担当としても有名です!!」
「浪花さん、闇アイドルもやってるんですか!!?」
【良かったら今度、私の活動と一緒に相方も紹介するわ】
まさか浪花さんがアイドル活動してるなんて……
休日に何をやっているのか気にはなっていたけど、本当に普段から幅広い事をやる人だなぁ……
何かブラックorホワイトの事が気になって、戦いに集中出来なくなりそうだ……
「そしてお供である柳町 新右衛門さんは、浪花さんの従順な
「別に隠しているつもりはないですけど、誰にも興味を持たれていないだけです」
「ただ、我々の情報網をなめてはいけません!彼の情報として分かった事が、7つほどありましたのでここで紹介致します!」
7つって微妙だなぁ~……
「①男性である。
②パンダではなく人である。
③ネスカフェよりジョージア派である。
④フランスには行った事がない。
⑤女性ではない。
⑥クジラでもない。
⑦どうでもいい。
⑧早く引っ込んで欲しい。
⑨顔が気持ち悪い。
⑩つっこみとかマジうざい。
⑪マジ卍………」
「ちょ、ちょ、ちょっとー!!!何言ってるんですかー!!?
7つじゃないし!!情報も訳分かんないし!!最後の方、ただの悪口じゃないですか!!?」
【そのつっこみが、うざいって言われてるのよ】
「わ……分かってますけど」
浪花さんが、つっこみ頑張れって言うから日々頑張ってんのに、ヒドイわ〜!!
僕にはもう、黒川さんくらいしか味方は居ないのか……
ぞんざいな扱いに涙をこらえながら黒川さんの方を見ると、何故か黒川さんは周りの人達にサインをねだられていた。
既に黒川さんと凛ちゃんにも、隠れファンが出来たようだった。
「それでは、急遽3組で行われる事になりましたダブルスの決勝戦を行いたいと思います!皆さん準備はよろしいでしょうか!」
レイチェルとグレイチェル、高柳 スーザン時男さんと西田 モンゴメリー翔子さん、そして僕達2人は三角形に対峙し、戦闘の構えをとって開始の合図を待っていた。
「異能力ドラフト出場者選考会、ダブルスの決勝戦。この戦いが、選考会最後の戦いとなりますので、皆さん是非注目してご覧下さい!!
では、始めます!!レディー、ファイティング!!」
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