第42話 レオナルドの趣味
「言わなくちゃいけないことがあるんだ」そう言われたジェリーとトーズは小さく頷いて、次の言葉を待っている。僕はゴクリと生唾を飲み込んでから言った。
「実は僕……聖女様のことが大好きで」
「「あ、うん知ってる」」
何を
「ええ? 知ってたの?」
「いやお前、聖女のこと好きか嫌いか聞いて、嫌いつったら殺すだろ」
「そんなことしてないよ!」
「いやしてんだろ」とトーズは口に出さずとも目で言ってくる。
とんだ言いがかりだ。確かに僕は時々聖女様のことを好きか嫌いかを聞く。でもそれで殺すなんてことはしてない。はずだ。
僕はベッドから痛む身体を気にすることなく立ちあがる。
壁に立てかけられている黒板を急いで取りに行き、その黒板のタイトルを指さした。
「これは好感度調査!」
どうだ! 見ろ!! と指さした場所には【聖女様:好感度調査表】と書かれている。
ジェリーとトーズついでにタニザさんに、今まで僕が聞いた聖女様の調査を見せつけた。
黒い板に白いチョークの線で三つに区切られていて、聖女様のことが[好き][どちらとも言えない][嫌い]に分かれている。その下には今まで答えた人間の名前が書かれていた。
[嫌い]の欄には父のファザリス、兄のブロルドの名前があり。
[どちらとも言えない]の欄には御者とジェリーとトーズの名前が書かれている。
「ええっとなに、聖女様が好きな人たち? 図書館の女の子、ララリィ……だれさララリィって!」
なぜかジェリーが頬を膨らませて聞いてくる。海にいるフグみたいでちょっとかわいい。
「ララリィは兄の使用人だよ。王都からここまで送ってくれた人」
「なるほどね、なら……いいや」
ついでに言うと僕を殺そうとした人、とは言わなかった。別に言うような事じゃないし、兄が僕を殺そうとしているなんて、ちょっと言いづらい。
フグのように膨らませた頬はしぼみ、いつものジェリーに戻っていた。
「ふぅん、なぁレオ俺も聖女を好きってとこに入れといてくれ。お前がそんなに大切に思う人なら、きっと好きになるだろうから」
「あたしも、レオが好きになる人ってことは、よほど素敵な人だったんでしょ?」
まるで雪が急激に溶けて春になり花が一斉に咲いたような、そんな気持ちになった。
うれしい、すごくうれしい。聖女様が好意的に見てもらえるとすごくうれしい。ふにゃふにゃと破顔をしながら、僕は聖女様のことが、【好き】の欄にジェリーとトーズの名前を書き込んでゆく。
書き終えた後に変な視線を感じて、目を上げれば、頬をぴくぴくと引きつらせているトーズと、顔をリンゴの様に真っ赤にしているジェリーと、あんぐりと口を開けているタニザさんがいた。
「おま、おまえ、笑うのか」
「今までも笑ってたろ? なんだよ変な顔して」
「いや、今までと違うだろ、そんな……その」
もごもごと言いずらそうにしているトーズはチラリと顔が赤いジェリーを見た。なんだこいつらと思いながら、大きなステーキ肉でも食べるくらいに口を開けているタニザさんににっこりと笑顔を向ける。ぜひ聖女様が好きに一票貰いたい。
「タニザさん」
「やだよ、普通だよふつう! 会った事のない人間を好きとか言わないからね!?」
「えぇー……まぁ嫌いじゃないならいいや」
聖女様が好きな人が増えたら幸せなのになぁ、と思っていたので少ししょげる。
微笑みが解けるといつもの僕の表情になり安心したのか、トーズが話しかけてきた。
「聖女の事が"好き"って欄にゲススの名前があるじゃねぇか、たしかに聖女が好きって答えても、関係なく殺してるんだな」
「殺してないよ!」
何か盛大な勘違いをしているっぽいトーズに対し焦りながら言う。
「は? だってゲスス俺を仕留めそこなった後レオんとこに来ただろ? 勝てるとか思って……んでお前は絶対ゲススにゃぁ負けねぇからボコって殺した」
「してないよ! 途中まであってるけど、殺してはないよ。
本当は言うつもりなかったんだけど、仕方ないね……
たしかにゲススはトーズに負けたあと、僕になら勝てるだろうってやってきた。それで好感度調査の後にゲススをやっつけた。そしたら……」
ごくりとジェリーとトーズが生唾を飲む、なんだか
「ゲススが泣き出したんだ」
「はァ?」
「え?」
「ただ泣いたんじゃない。号泣だよ。
もうびっくりしたよ、大人の男の人があんなに泣くところ初めて見たしね。
嗚咽あげながら、俺は冒険者向いてないんだって泣くんだ。
なんかこう、見ていられなくて、慰めたよ……二時間」
「にじかん」
ぽかんと口を開けたトーズが言葉を覚えたての赤ん坊のように口にする。ジェリーもぽかんとしているし、タニザさんは苦笑いしている。
「そんなことないよ、運が悪かっただけだよって言っても余計に泣くし、
"お前らみたいな子供にボコボコにされてもう俺は生きていけねぇ"なんて言われるし、僕は必死にゲススのいいところを探した。慰めるためにね。
でも突然殴りかかってくる初対面の相手のいいところなんて分からないだろ?
だから、古い服やナイフを使ってるから、"物持ちがいいよね!"って褒めたんだ」
「それ褒めてねぇだろ、金がねぇだけだぞ」
「でもこれが意外と大当たりでね、ナイフの絵は手作りで木工が趣味なんだ…って、もう夜だったし、僕も帰りたいし、だから転職を進めたんだ。
すごいよ! プロになれるよ! 大工なんてどうかな? 僕今ちょうど部屋に机なくて困ってて、なんならお客になるよ! って……
そして出来たものがこちらです。」
僕は手の指同士をそろえて、家具の方に向けた。
そこには大工見習であるゲススが作り上げた小さな僕の勉強机と、本棚、そして茶飲みテーブルが置かれている。テーブルに至ってはゲススは元々木彫が好きだったらしく、レリーフまで彫られている。
「え、すごい」
「これって大工なり立て半年の奴が作ったのかい? そりゃぁ凄いじゃないかい」
「まじかよ、あのゲススが……ええ……俺はてっきり」
言いずらそうに口ごもったので「てっきり?」と聞き返した。
「俺はてっきりレオが、ゲススを殺した後、死体を引きずって海に捨てて、サメに食わせて証拠が残らないようにしたんだとばかり……」
「してないよ! なんだよその完全犯罪!」
友達にずっと殺人犯だと思われていたとはびっくりだ。
いや思い起こせば、だからトーズは東の森に行く前に「ゲスス最近見ないな」なんてわざわざ声をかけてきたのだろう。
僕がトーズに言わなかったのは単純にゲススに口止めされていただけに過ぎない。
「ゲススがトーズに笑われるのが嫌だって言うから黙ってただけだよ」
「別に笑わねぇよ、人が何してようが」
「ちなみにトーズが破壊した手押し車はゲスス作だよ。壊した時ちょっと泣いてたよ」
「まじかよ!!」
ケラケラと楽しそうにトーズは笑い出したトーズを「笑ってんじゃん」とジェリーが軽く肘で突いていた。
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次回:夢を語る子供たち
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