第21話 初仕事はおじょーずに?
トニックは、木箱を担いでいた獣人を呼びつけた。牙が大きな豚鼻の猪に似た獣人に、説明してやってくれと頼むと、自身は元の船からの荷降ろしを確認する仕事に戻っていった。責任者なのだろう、朝だというのに色々と忙しげであった。
呼びつけられた猪っぽい獣人はトニックから説明を受けると、鉄製の僕の拳ほどの大きさのコテと、僕が小さく
毛深い牙を持った男はスゥッと息を吸い込むと、良く響く声で僕らに聞いてきた。
「怪我してないか!少しでも血が出てる場所はないか!」
「ありません」
「ないぞ」
「そうか、じゃあこれで船底についてる貝を取ってこい」
ぽんと籠とコテを投げるように渡され、あわてて抱えて受け取ると同時に驚くべきことを言われて、僕は目を白黒とさせた。その横でトーズは僕の反応を楽しむように悪戯っぽく笑っていた。ジェリーはそんなトーズを見てあきれるように頭を抑えている。
「……はい?船掃除って船の人が乗る場所を掃除するんじゃなくて?」
「そんなのオレらでも出来るだろ。お前らが掃除する場所は、甲板じゃなくて、船底。
海に浸かってるままの船底についている貝を取るのが仕事内容だ。このカゴのいっぱいで依頼達成だ」
植物の
「詳しい事はそっちの、トーズだったか?が教えてやれ」
「まかせろ。このコテで船底についている貝をそぎ落として籠に入れるんだ。船を傷つけないようにするのにはちょっとしたコツがいるけど、レオならすぐさ。コテに魔力を這わせて魔力で引っ付いてる貝の間に差し込むんだ」
「ちょっと、その前に……水の中って息はどうするの」
「気合だ」
「……きあい」
「あとサメが来たら頭殴って殺せばいい」
「え?」
「口に手を突っ込むと怪我するからな、頭を殴ればいい。思いっきり殴れば死ぬからな」
何を言っているんだこいつは。
サメといえば、聖女様が教えてくれた。海にいる生き物で、船に乗り上げて人を食べたり、"さーふぁー"という職業についている人が好物の、すごく怖い生き物のはずだ。その恐ろしさを聖女様は語ってくれた。
「水の中でサメと戦うとか気は確かなの?」
「だから金払いがいいんだよ。俺以外の兄貴分は皆死んじまったけどさ……」
小さいながらにその中で生き残ってきたトーズは確かにこの道のエキスパートなのかもしれない。だが命を張る報酬額とは到底思えない金額に寒気がした。
「一人だと流石に死にそうだから最近はやめてたんだぜ。ジェリーに止められたしさ」
「なるほどね」
「お前はまだサメと戦えなさそうだから、貝取りは任せた。サメは俺が全部やっつけてやるよ!」
少し心もとないが、経験者がいるというのは頼もしい。
問題は、僕が海で泳いだことがないってことくらいだろうか。川や海で泳いだ経験は無いが、敷地内にある噴水には、兄に苛められてよく投げ込まれていたので、なんとか泳ぐことは出来るだろう。けれど深いところに潜った経験はないし、海流というものを体感したことはない
「僕、海では泳いだこと無いんだけど」
「最初はみんなそうだ、泳げるようになるぞ」
「泳げなかった人はいないんだね、なら安心だ」
「あぁ、泳げなかった奴らは生き残ってないからな。いないぞ」
トーズの言葉に頭を抱えそうになる。
助け舟を出してもらえるようにジェリーを見れば、トーズの説明にジェリーも呆れ顔だった
「海ではってことは泳いだことはあるのよね?」
「うん噴水で」
「フンスイ? まぁいいさ、それと大体同じだよ、船の底って言ったってそんなに深くないはずだから大丈夫。苦しくなるちょっと前に浮かんできて息継ぎすればいいのよ」
「わかった、とりあえずやってみるよ」
「まぁ俺様が助けてやっから任せろって」
不安でしかない。そもそもトーズは口ぶりからすると教えることが壊滅的に下手くそだ。泥で出来た船に乗るような気分だ。
けれど僕がここで帰ってしまえば、
それに、ここのサメは子供のトーズでも倒せるようなサメらしいし、聖女様が語ったような恐ろしいジョズー伝説のサメではないだろう。なんとかいけるかもしれない。そんなに怖がることもないだろう。
それにサメは魚だ冬に食べるフィッシュパイの友達だ。魚は僕らに食べられる存在だし、好きな食べ物だし怖がる必要なんてない。僕は食べたことはないが、聖女様は魚で作るスッシーという料理が好きだったらしいし、なんならスッシーにして食べてしまえばいい。
そう海に入るまで、思っていた僕を殴りたい。
深い青色が360°広がる水の中、トーズと共にジャバンと音を立てて飛び込めば、僕らを歓迎するように、白い歯をにっと笑顔を浮かべて……
大きなサメが出迎えてくれた。
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いつもお読みいただきありがとう🦈🦈🦈
いいですよねサメ🦈とてもいいカッコイイ🦈
次回:サメ イズ シャーク
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