第8話 図書館へGO
儀式を潰した日から、一年が経っていた
バジャーっと勢いよく音を立て、僕の目の前には一瞬の滝が出来る。
人目のない敷地内の隅で、全裸になり、頭からバケツによりお湯を被せられる。これは僕が図書館に行く前に毎回行われる。2週間に一度の正式な湯あみだった。
無言で使用人の男にタワシと、頑張って安物の石鹸を渡される。
毎日身体を動かしているのだから、本当は前みたいに湯舟に浸かりたかったが、今の状況で贅沢なことは出来ない。
せめて毎日、聖女様の作られたお湯が雨のように降り注いでくれるシャワーで泡と、頑張って揉めば泡が出る草で身体を洗うことしかできない。
毎日汗だくの訓練をしていて、泡の出る草はほとんど使いものにならないので、安物だとしても石鹸がとてもありがたく、全身の汚れをしっかりと落とすことの出来るこの水浴びの時間が好きだった。
使用人の男は口を利くなと命じられているのか、僕とは一切喋らない。
結局僕も聖女様と同じ部屋に移ってからというもの、口を利く相手は、暇なのかたまにやってくる剣術を教えるゾーダ先生しかいなくなってしまった。
けれど今日は2週間に1度の素敵な日だ。
王立の図書館に通う日だけ、僕は身ぎれいにするため身体を洗い、ちゃんとした貴族の服を着て、御者に連れられ王立図書館へと向かう。
貴族としての
「今日も夜まで街で遊んできていいよ、僕は図書館から出ないし」
無言で御者は頷いたが、その表情は嬉しそうであった。外でひたすら待機というのは暇なのだろう。どこかに家の者が出かけるときには、御者はいつでも対応できるように、何時間でも立って主人を待っていなくてはならない。
そんな中で決められた時間に行き、決められた帰宅時間まで自由に過ごしていい図書館までの送り迎えは、御者たちの間で結構人気らしい。
そんなことを以前、自由時間の間に酒を飲んだのか、上機嫌になった今日担当の御者が教えてくれた。
もっとも今の僕の立場だから、格式ばって待機しなくてもいいという意識があってのことだろうが、僕の行動を監視され逐一報告されるより、自由にしていてくれたほうが遥かにマシであった。
僕を図書館前に降ろすと、この後予定でもあるのか、うきうき気分で馬車と共に走り去っていく御者を見送り、僕は図書館の門番の前に立ち、許可証である木で彫られた証文を見せた。
「レオナルド・モリスだ」
「二週間ぶりですね、どうぞ。坊ちゃんは勉強熱心でございますね」
「まぁね」
すでに顔見知りになった門番は、子供だということもあってか気さくに話しかけてくれる。
家の外の人間は、何があったのかを知らない。家の中での地位が無に等しくなっていることも、腫れ物扱いされていることも、なにもかも。
もっとも外に出るときは、身奇麗にして貴族
図書館に入って上を見上げれば、天井の彩色が豊かな絵画が僕を出迎えてくれる。
高いアーチ型の天井に、鏡のように映すピカピカの床、2階は1階から吹き抜けになっており、天井にまでぎっしりと詰め込まれた本棚が、壁の模様のように存在している。
息を吸えばインクの香りと、ほのかに獣の匂いが残る羊皮紙の香りが
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