愉しかった一日が終わる

 クラスメイトに会ってしまった俺は、咄嗟に彩菜と手を繋いでいるのを離した。彩菜は悲しそうな目で俺を見てきたが、今回ばかりはどうしようもない。


 「なぁ、なんでお前がこんなところにいるんだ?家から出てないイメージなんだけどな」


 クラスメイトの山中俊也(やまなかしゅんや)はそう言った。少し笑っていたが、いつもいじめていた奴等とは少し違っていたため、少しほっとした。


 「ああ、妹が来たいって言ったから来てるんだよ。まぁ、楽しいから来て正解だったけどな」


 「そうだったんだな。ーー俺、親と来てるからそろそろいかないと、じゃあな」


 「お、おう」


 山中は親の元へ行った。ふぅ、一安心だぜ。会ったときは冷や汗もんだったぜ。


 「彩菜、次はどこ行く?」


 「お兄ちゃん!さっきの人は友達なの?」


 目を輝かせながら聞いてきた。


 「いや、ただのクラスメイトだぞ?決して友達じゃないからな」


 俺の話を聞いていないのか、


 「あのお兄ちゃんにも、ついに友達が出来たのか。嬉しいなぁ。あ、でも友達ができちゃったら私のこと構ってくれなくなっちゃう。そんなの嫌だな」


 一人でぶつぶつと言っていたが、俺には全部聞こえていた。俺のこと、そんなに思ってくれていたなんてな。ほんと、彩菜には感謝してもしきれないな。


 「ありがとな、彩菜。でもな、俺に友達が出来るなんてほとんどの確率であり得ないからな。だから、これからも俺に甘えてくれてもいいんからな?」


 「ほんとに?!やった!嬉しいなぁ。これからもうんと甘えるね!」


 「おう!でも、お手柔らかに頼むわ」


 俺たちはまた手を繋いでいた。その後も色々なところを周り、そろそろ帰らないといけない時間になった。


 「次でラストだな。何に乗る?」


 「乗るものじゃなくてね、パレードを見たいな。それでもいいかな?」


 「全然いいぞ。丁度俺もパレードを見たかったところだったんだよな」


 全然そう思っていなかったが、妹のためを思えばこのくらいなんてことない。


 「一時間位見たら帰るぞ」


 「わかった!」


 最初はあんまり面白くないだろうと思っていたが、案外面白いもんだな。夜のパレードはイルミネーションが凄く綺麗だ。それだけで観る価値があっただろう。


 「お兄ちゃん、綺麗だね」


 「そうだな。以外といいもんだな」


 俺たちは無言でパレードを観ていた。そろそろ時間になったため、俺たちは名残惜しかったが、その場を後にした。


 電車に乗り、東京に戻る。


 「楽しかったね、お兄ちゃん。また一緒に行こうね!」


 「そうだな。また一緒に行くか」


 俺が答えるが彩菜からの返事はなかった。無視かよ、と思ったが隣で寝ているのが見えたため、納得した。


 「今日、あんなにはしゃいでたもんな。ありがとな彩菜。俺もリフレッシュすることが出来たよ」


 俺は、そう言いながら彩菜の頭を撫でていた。何分たっただろうか。そろそろつくと思うし、起こすか。


 「なあ、彩菜、起きろ。そろそろつくぞ」


 「ふぇっ?そういえば、私寝ちゃってたんだね。起こしてくれてありがとね!」


 俺たちは電車を降りて次はバスに乗った。バスの移動時間は短いため、寝ずにすむだろう。バスに揺られなから十五分、やっとついた。長かったな。でも、ここから歩かないといけないんだよな。


 「ほら、早く帰るぞ、彩菜。もう少しで家だぞ」


 「うん!」


 頑張って歩き、やっと家についた。俺と彩菜は疲れているため、ご飯を食べ風呂に入ってすぐ寝ることにした。寝ようとして、俺は自分の部屋に行った。少しすると、枕を持ってきた彩菜がいた。


 「お兄ちゃん、一緒に寝よ?」


 「いや、それはあれがあれでだめだろ」


 「お願い、お兄ちゃん」


 目に涙をため、今にも泣き出しそうだった。そんな妹を断ることは出来るはずもなく、承諾した。


 「いいぞ、一緒に寝るか」


 「ありがとね、お兄ちゃん」


 そう言って俺の布団に入ってくる。二人だと少し狭いため、密着しないといけない。その為彩菜は俺に抱きついていた。数分たつと、隣から寝息が聞こえてきたため、俺は抜け出そうとした。


 「ーーお兄ちゃん、私、寂しかったよ......」


 彩菜は少し震えながら、寝言でそう言っていたのを聞いてしまったため、俺は、抜け出すのをやめ、彩菜を抱きしめなおした。


 「ごめんな。彩菜に寂しい思いをさせてたなんてお兄ちゃん失格だよな」


 彩菜の頭を撫でてやる。そうすると安心したのか震えていたのがおさまった。


 俺は、絶対に彩菜の悲しむようなことはしないと心に誓った。

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