体育祭当日

 朝、俺はいつものように起きた。当日だからといって、そわそわしていた訳でもなく、また楽しみにしていたわけでもない俺は、いつも通りだった。嬉しいことといえば、妹の彩菜が体育祭を観に来てくれるというのだ。それだけで俺は頑張れる。そんなことを思っていると、咲久野が起きてしまった。


 「玉入れ、頑張るぞぉ~」


 起きたばかりで寝ぼけていたのかそんなことを言っていた。そんな咲久野を見て、俺は笑っていた。


 「咲久野、早く着替えろ。もう学校にいく時間だぞ」


 本当はまだ時間には全然余裕があったのだが、少しからかいたくなったため、俺は咲久野を急がせた。

 咲久野も慌てていたのか、着替えるだけなのにかなり手間取っていた。なんで入らないの~。などと言っていたのを聞いて、俺はまた笑いだす。朝から面白いものを見れたな。

 着替え終わった咲久野は、俺の格好を見て何かに気づいたみたいだった。


 「なんでまだ着替えてないの?」


 「なんでって言われても、まだ時間に余裕があるからな。そんな急いで着替える必要なかったんだよ」


 「騙された。酷いよ光太」


 顔を真っ赤にして、今にも怒りだしそうだったため、

 

 「ごめんごめん」


 と一応謝っておいた。それと同時に、寝起きの咲久野を怒らせてはいけないと心に誓った。

 誓っているとき、思いっきり扉が開かれた。何事か、と思い見てみると、そこには綺羅星先輩がいた。


 「野雫目くん、なんて清々しい朝なんだ。これから宇宙の果てまでさあ行こう!」


 「何を言っているんですか、先輩」


 ここは日本であって、宇宙じゃないんだよ、まったく。今まで意味不明だと思っていたが、今回はさらに酷い。


 「私は今日、ヒロインになるんだ~。そして、地球を救ってみせる」


 「はいはい、そうですか~。頑張ってください」


 この人の相手するのかなり疲れるわ。なんでそんなに張り切ってるんですかね、この人は。咲久野にいたっては、その場で口を開いてぽかんとしてるからな。

 ーーそういえば、今日体育祭だったな。だからこんなに張り切ってるんだなと思った。ヒロインになるってことは活躍するってことで、地球を救ってみせるってのはクラスを優勝させてみせるっていう意味だったらしい。それでも、まだ意味不明だけどな。


 「おはよう野雫目。きちんと寝れたか?」


 ダイニングに行くと、国見先輩にそう言われた俺は、


 「まあ、寝れた方ですかね」


 と曖昧に答えた。それでも、国見先輩は納得したみたいどった。


 「それより、朝綺羅星が野雫目の部屋に行っただろ?注意したんだが言うこと聞いてくれなくてさ。ほんと困った奴だよな、あいつは」


 「ほんとですよ、まったく。勝手に部屋に入ってはゲームしていくし、俺たちを巻き込むし、散々ですよ」


 「まぁ、そんな奴だよ、あいつは」


 国見先輩は、ははっと苦笑いをしていた。国見先輩も相当困っているのだろうなと思うと、少し同情してきた。


 「国見先輩も大変ですね」


 そこまで言えば、何が大変なのかわかってしまう。国見先輩と俺は、同時にため息をしていた。


 俺たちは学校に行き、それぞれのクラスに向かった。周りも体育祭のことで盛り上がっていた。


 「私、今日楽しみにしてたんだ」


 「私も!早く体育祭やりたい!」


 「っべーわ。楽しみすぎて、まじべーわ」


 そこ、なに言ってるか、まったくわからなかったんだけど。

 まあ、皆楽しみにしていることは確かだった。朝のホームルームが始まり、そこでクラスの色のハチマキを渡された。

 ホームルームが終わったあと、すぐに俺はハチマキをつけた。これから体育祭が始まろうとしていた。


 ーー体育祭はまずは行進から始まる。なぜかグラウンドを一周もしないといけないため、とてもめんどい。また、男子が前で女子が後ろのため、しっかりとやらないと怒られてしまう。これってなんて詰みゲーなんだろうな。と思いながな俺は行進していた。

 行進が終わり、それぞれ各競技に移った。俺は、玉入れだけなため、見ているだけだ。まあ、見ているといっても、ほとんど集中はしていないんだがな。今日の夜飯はなにかや、早く寮に帰りたいなどと思っていた。

 そうこう考えていると、咲久野が出る競技になった。確か、綱引きに出るって言ってたからな。まあ、あんな身体じゃ弱々しくて、すぐ引っ張られると思うがな。などと思いながら見ていると、以外と頑張っていた。なんと、咲久野のクラスが綱引きは勝っていた。有り得ないだろ。こんな身体でどこにそんな力を隠し持ってたというんだ。なんなら俺と一対一やっても、俺が負ける自信があるね。


 「光太、どうだった?私もなかなかやるよね?」


 「なかなかどころじゃねぇよ。余裕で凄かったわ。なんなら今、俺と勝負してみるか?多分俺が負けると思うけど」


 「それはないない」


 俺たちは、敵同士だがそんなことを忘れて楽しく話していた。

 俺たちが話しているときに、咲久野の隣で一人もじもじしている人がいた。髪は黒髪でショート。身長も低く、小柄な体型で胸もまったくない。なんだろう、守ってあげたくなるような感じの人だ。


 「そうだ!丁度いいし、ここで私の友達紹介するね! この子はーー」


 咲久野が言おうとした瞬間に、アナウンスがかかった。


 「次の種目に出るかたは、準備してください」


 咲久野とその友達は慌てて準備しにいく。


 「昼休みに、友達紹介するね!」


 唐突にそう言われた俺は、


 「お、おう」


 と返事するしかなかった。まぁ、かなり前からの約束だったし、紹介してもらえることにこしたことはないだろう。咲久野とその友達が出る競技を見守った。因みに騎馬戦に出ていた。騎馬戦では、咲久野の友達が上に乗っていた。女子同士が本気でやると、意外と怖いんだよな、これが。なんなら男子の騎馬戦よりも怖いぞ。咲久野の友達は大丈夫なのか?俺は心配しながら見ていた。なんとか終わり、俺はほっとしていた。引っ掻きあいにならなくてよかった。騎馬戦にはなんと、綺羅星先輩が出ていた。勿論、綺羅星先輩は上に乗っていた。


 「いざ、出陣じゃー!!」


 あの人はまた意味不明なこと言っているのか。困ったものだ、まったく。味方の人たちもぽかんとしてるじゃないか。あの人、絶対クラスに迷惑かけてるでしょ。そう思ったが意外と綺羅星先輩は活躍していた。運動能力はあるんだなと思った俺であった。

 昼休みになり、皆仲良く食べているが、俺はその中に入れない。まぁ、いつも通り一人で食べますかね。はたから見ると可哀想な奴だな、なんて思われているが別に気にしない。食べていると、咲久野と咲久野の友達が俺のところにきた。


 「一緒にご飯食べようよ」


 「おう、別にいいぞ。てか、友達紹介してくれるって約束してたしな」


 「この子は水瀬梨花みなせりかっていうんだ。編入して最初に学校行った時に仲良くなったんだよ」


 「よろしくお願いします。野雫目くんだよね?話は聞いています」


 「ああ、俺は野雫目光太っていうんだ。よろしく」


 自己紹介が終わったあと、俺たちは三人で昼食を食べていた。


 「そういえば、水瀬さんも綱引きに出てたよね? 凄かったよ」


 そう言いながら、自然に水瀬さんの頭を撫でていた。その事に気づいた俺は、咄嗟に、


 「わるい、いつも妹にやっている癖が出てしまった」


 と謝っていた。水瀬も顔を赤くして、


 「だ、大丈夫です。少し驚いただけですから」


 と言っていた。それでも、まだ顔が赤かった。それを見て、俺はこんなに顔を赤くして怒ってるんだな。そこまで怒んなくてもいいじゃないか、と思いながら落ち込んでいた。


 「そういえば、野雫目くんは何の種目にでるの? 」


 水瀬が話を変えてそう言ってきたため、俺は素直に感謝しながら答えた。


 「俺か? 俺は玉入れにしかでないぞ」


 「そうだったんだ。私も玉入れにでるから、頑張ろうね!」


 めちゃくちゃいい笑顔でそう言われたため、俺もほっこりする。なんだ、この癒しオーラは。やばすぎるだろ。


 「毎日、俺に味噌汁を作ってくれ」


 などと意味不明なことを俺は言っていた。咄嗟に口を押さえるが、意味がなかった。

 みるみるうちに水瀬の顔が赤くなり、


 「まずは付き合ってからだよ」


 などと満更でもないことを言ってきた。というか、俺の好感度高くね? いったい咲久野は俺のこと、なんて教えたんだろう。少し不安になった。

 もしかしたら冗談だってわかった上でのってきているのかもしれない。

 

 「光太と梨花って付き合ってたの?知らなかった」


 咲久野はまだ冗談だとは気づいておらず、信じていた。

 なので俺は、


 「冗談だよ」

 

 と言った。すると咲久野はえ?そうだったの?みたいな感じて目を見開いていた。また、水瀬も咲久野と同じ顔をしていた。

 そのあとも、水瀬と楽しく話をすることができた。案外、俺と水瀬の相性はいいみたいで、話が弾んだ。咲久野は円のなかに入れず、俺たちの話を聞いているだけだった。

 こんな昼休みもたまに悪くないか、と思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る