青葉との帰宅

 まだまだ会議は続いた。今度は競技のルール説明の内容を考えなければならなかった。ていうか、説明をしないといけない競技なんかあったっけ?教科書通りのこと喋ってればいいだろ。だから早く会議を終わらせてくれ! そんなことを思っていた俺だが、無惨にもそうさせてもらえない。

 またもめているみたいだった。どうにかしてくれよまったく。なんでルールの説明でもめなきゃいかんのかね、この人たちは。そもそも、先生が説明してくれるんじゃないのかよ。


 「質問いいっすか? そんな説明にもめてるみたいですけど、ルール説明って先生がしてくれるんじゃないんですか?なので生徒が考えなくてもいいと思うんですけど」

 

 俺は思っていたことをそのまま言った。嫌われているから無視されると思っていたが、きちんと聞いてくれてたみたいで少し安心した。無視されたら悲しすぎるしな。


 「大体の競技は先生が説明してくれるんだが、委員会で決めた競技は俺たちが説明しないといけないんだ。今はその説明を考えているところだよ」


 「ちなみに、なんていう競技ですか?」


 「棒倒しだよ」


 「棒倒しって、定番の競技じゃないですか。ていうか、説明簡単じゃないっすか」


 「それはそうなんだが......」


 「それなら、早く決めちゃってくださいよ。俺、帰りたいんですけど」


 「なら、野雫目くんだけ先に帰ってもいいから。お疲れさん」


 さっきまでと全然違う態度の委員長に、少し嫌悪感を覚えたが、先に帰ってもいいとのことなので、俺は帰ることにした。


 「失礼しました」


 扉を開け部屋を出た俺は、帰らずに扉の前で中の話を聞いていた。

 俺が出た後すぐに、委員長の言葉が聞こえてきた。


 「もう二度とあいつが来なければいいのに」


 はっきりとそう聞こえた。まぁ、俺が部屋を出た理由も周りが俺を見る目が殺気だっていたこともあった。なので委員長が言った言葉も、予想していた通りだった。


 「私も、先に帰らせてもらっていいですか? 少し体調がよくないので」


 「そういうことならいいよ。体調には気をつけてくれよ」


 「わかりました。失礼します」


 そう言って出てきたのは、青葉だった。なんで出てきたのかは謎だが、俺には関係ない。


 「野雫目くん、一緒に帰らない? 」


 最初、何を言われたかわからなかった。思考が停止していたが、我にかえり返事した。


 「いや、このあとあれがあれして忙しいから一緒に帰れないわ。またな」


 俺は、そう言って歩き出す。それをみて慌てた様子で青葉は追いかけてくる。意地でも一緒に帰りたいみたいだ。俺、もててるんですかね。いやー困っちゃうな。これがモテ期ってやつなのか?! ......そんなわけないよね。なにか怒ってらっしゃるね、はい。


 「ナンパされてたとき、助けてくれてありがとね。改めてお礼を言わないとだめだと思ってさ」


怒られると思っていた俺は、お礼を言われた事に少しきょとんとしていた。


 「その事はもういいって。俺も悪かったしな。その、助ける時に強引に腕組んじまって。好きでもない相手と、密着して嫌な思いさせちまってた」


 「いえいえ、困ってたところを助けてもらってるんですから、感謝しかないです。なので野雫目くんは謝らなくていいです」


 にかっと笑った青葉は、とても可愛かった。ずっと眺めていたい、と思うほどに可愛かった。


 「それはそうと、なんで自分が悪いってことにしたの?」


 「それは、青葉には関係無い。前も言ったが、俺がしたくてしただけだ」


 「今はそういうことにしておくよ。いつか、私に教えてね?」


 「お、おう」


 青葉の上目づかいに、俺は思わずうなずいてしまった。反則だろ。上目づかいでお願いしてきたら誰だってオッケーしちゃうわ。しかも、めちゃくちゃ可愛いんだしよ。それで断れる男がいるなら見てみたいものだ。話しているうちに青葉の家が近くなったため、俺たちは別れた。

 別れ際、青葉が口を開いた。

 

 「体育祭、頑張ろうね」


 「俺は、頑張らない。なぜなら働きたくないんでな」


 「なにそれ」


 あはは、と青葉は笑っていた。それを見て俺も笑いだす。


 「じゃあ、また明日ね!」


 「おう、また明日」


 会うことはもうないと思っていたが、委員会が同じで、しかも一緒に帰るなんてな。ふと、最後に話していたことが頭を横切った。

 ーーまぁ俺は体育祭、頑張ってみてもいいかな。そう思いながら帰ったのだった。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る