ほんとーの事を話した俺は

「ーー光太、起きて。起きてよ~!」


 何度も肩を揺すられ、嫌々目を覚ました俺は、なぜここに咲久野がいるんだ?と思った。ていうか、せっかく人が気持ちよく寝ていたのに、起こすなよ!と少し苛立っていたが、外を見るともう太陽が沈んでいて夜になっていた。それを見て、苛立っていたのがおさまった。


 「起こしてくれてサンキューな。それじゃ、夕食食べに行くか」


 俺は、重い腰を上げて咲久野と一緒にリビングに向かった。リビングにつくと、いきなり綺羅星先輩が話しかけてきた。


 「野雫目くん!朝あったこと、もうひろまってたよー!何があったんだい?お姉さんに言ってみなー!!」


 「そうだぞ、野雫目。上級生のところまでその噂が流れていたから、なんかあったんだろ?話してみろよ。少しは楽になるだろ」


 綺羅星先輩も国見先輩も俺の事を心配してくれている。いつもは変な先輩なんだがな。と思いながら、俺は、この人たちにならほんとーの事を話しても分かってくれるんじゃないかと思った。


 「わかりました。咲久野に教える約束してましたから、ついでに先輩方にも教えますよ」


 「なら早く教えてー!」


 綺羅星先輩が急かすので、俺は急いで話すことにした。


 「昨日の帰りに、俺は一人で本屋に行こうとしました。するとそこにナンパされていた女子がいたので、その女子を助けることにしたんです。ちょっと強引に腕をくんでその場を後にしたんですが、それを同じ学校の人に見られてて、朝その事について言われたんですよ。俺だけならまだよかったんですが、女子の悪口まで言っていたので、少し腹がたって噂になった事を言ったんですよ」


 「そんなことがあったのか。大変だったんだな」


 国見先輩は俺の話を聞いた後、俺の頭を撫でてくれた。それがとても嬉しかった。


 「野雫目くんは全然悪くないじゃないか!」


 綺羅星先輩のいつも変なこと言っている先輩の姿はそこにはなく、少し他の人に怒りを覚えているような口調だった。


 「光太はナンパされていた人を助けただけじゃん!」


 咲久野も少し怒っているみたいだった。

 俺の事を本気で心配してくれる先輩方や咲久野に、俺は嬉しくなった。


 「学校ではこの事は誰にも言わないでください。お願いします」


 俺は頭を下げた。


 「なんで?光太は全然悪くないんだよ?いった方が光太がいじめられることないじゃん」


 「それでもだ。言わないでくれると助かる。そもそも、クラスでも最低ぞこの俺の事を、先輩方や咲久野がなにを言っても意味ないですから」


 俺の事を庇うと、逆に先輩方や咲久野がいじめの対象になる。と思った俺は絶対に言わないように促した。先輩方もわかってくれたのか、言わない!と約束してくれた。


 「ほんとーにそれでいいの?」


 咲久野はいまだに心配してくれているが、俺は大丈夫、とだけ返した。

 その話をしたことで皆暗くなったため、夕食も喉を通らなかった俺は、自分の部屋に戻った。ベットのなかで今日先輩方や咲久野に言われたことを振り返る。正直いって嬉しかったのだが、まだ先輩方を信用することはできなかった。悶々とした状態で俺はそのまま眠りについた。


 ーーいつも通りの朝を迎える。当然咲久野は俺のベットで寝ている。そういえば昨日、ルールを決めようとかって言ったけど、結局決めることできなかったもんな。それじゃ、仕方ないと思い、俺は咲久野を起こした。


 「咲久野、早く起きてくれ」


 咲久野の肩を揺する。咲久野は目を擦りながら起きた。


「おはよ〜。光太起きるの早いねぇ〜」


呑気に挨拶してくる咲久野をみると、悩んでいる俺が馬鹿らしくなってくる。だからと言って何かが解決した訳ではないんだがな。


 いつも通りの日常が再開した。学校に行けば悪口を言われる。自分でやったことだからそうなってもしょうがないと思っていた俺は、予想通りの結果だったためそこまで辛くはなかった。そうは言っても多少は傷つく。なんとか罵声を聞き流し、やっと帰りのホームルームが終わり、今は帰宅中である。隣には勿論咲久野がいる。そういや、帰ったら咲久野とルールを決めないとな。一応咲久野にも言っておくか。


 「帰ったら、忘れないようにまずルールを決めようぜ」


 「わかった!」


 あまり口数が多くなかったため、沈黙状態が続いた。それでも俺は、その沈黙が苦ではないと感じていた。


 ーー寮につくと、俺たちはそのまま部屋に向かい、ルールを決めることにした。


 「まずは寝るときなんだが、一人で寝てくれると嬉しいんだが、まだ無理だと思う。だから、俺は最初から床で寝るから、咲久野は俺のベットを使ってくれ。咲久野は、自分の部屋から布団を持ってきてくれ。多分一度も使ってないやつがあると思うから」


 「寝るときも、一緒がいい」


 咲久野は駄々をこねるが、これだけは譲れない。一緒に寝たら、俺の精神が持たないからな。


 「それは無理だ。普通は、男女が一緒のベットで寝るなんて事はありえないからな」


 「やっぱりそうなんだね。ーーわかった」


 なぜか落ち込んでいた咲久野だが、俺はそれを無視し話を続ける。


 「お風呂に関しても、やっぱり俺と入るべきじゃない。そもそも、男女で風呂にはいるとか、一歩間違えれば警察沙汰だからな」


 「でも、私一人でお風呂に入れないもん」


 「そこが一番の問題なんだよなぁ......綺羅星先輩とかに頼んでみるか」


 「綺羅星さんはやめて。怖いもん。私、光太以外と入れないもん」


 なぜ男の俺と入るのは大丈夫で、綺羅星先輩は無理なのだろうか。まあ確かに、あの人と風呂に入ったら色々と疲れるとは思うがな。

 一方咲久野の方は、なぜか泣きそうになっている。おいおい、どうして泣きそうになってるのん? 俺何かしちまったか?


 「ならこうしよう。今まではお互い隠さずに俺だけが目隠しをして入っていたが、これからは水着を着て入ることにしよう。そうすれば全然大丈夫なはずだ」


 「水着か......私持ってないんだよね。海に行くことなんてないしさ」


 「そうか......なら明日買いにいこうぜ!」


 「明日は、養成所でレッスンがあるから無理かな」


 「そっか、ならしょうがないか。買いに行けるまでは今まで通りに風呂に入るか」


 「うん!!」


 咲久野は嬉しそうだった。俺と風呂に入ることがそこまで嬉しいことなのか、と思った。ていうか、裸を見られていいのかよと今更ながら思う俺であった。


 「そういえば、養成所ではどうしてるんだ?一人だと泣いちゃうのに、ちゃんと出来てるのか?」


 「なぜかわかんないんだけど、養成所にいくと、一人でも泣かないんだよね」


 なんでだろ?と咲久野は首をかしげていた。おいおい、自分でもわかってないのかよ。なんなら一人でいれないとかっていうのも、何かの勘違いなんじゃないのか?


 「自分でもわかってないのかよ」


 なんじゃそりゃ、とあきれていたが、養成所では頑張っていることに、自分自身の事じゃないが嬉しくなった。


 「今、どんな感じなんだ?」


 「筋がいいね、って言われてるよ!一週間後には主役の子のオーディションに参加しない?って言われてるんだ。だから、主役になれるよう、頑張る!」


 筋がいいって言われてるのか。正直驚いたわ。声優としてデビューしたら、今の関係は終わってしまうんじゃないか。頭のなかでそんなことを考えていた。


 「悪い、もう寝る」


 「ーーわかった。少し待ってて、今部屋から布団持ってくるからさ」


 俺も一緒に咲久野の部屋にいった。布団をもち、自分の部屋にもどる。

 俺はもう眠りに入りたかった。目標がない俺とは対称的に目標がある咲久野。俺は正直、咲久野の事が羨ましいと思った。咲久野だけじゃない。この寮にいる人全員だ。皆なんらかの目標がある。


 「、だめだ」


 小さい声で言ったそれは、隣のベットで寝ている咲久野にも聞こえなかった。

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