波乱万丈な寮生活の始まり
青空の下、桜が舞い降りている景色に、彼女はよく似合っていた。その光景に見とれていた俺は、彼女の事をずっと見ていた。
「あ、あの誰ですか?私の事ずっと見つめていましたけど、なにかありますか?」
かなり警戒されているみたいだ。そりゃそうだ。だって知らない人にずっと見つめられたら誰だってそうなるだろ。俺でもなるからな。
「俺は、
ていうかこの写真、何年前のやつだよ。随分と大きくなってるじゃん。
俺が差し出した写真を、彼女は恐る恐る覗いた。俺は彼女が近くに来たため緊張していた。そういや、彼女も人見知りするタイプなんだなと思い、少し嬉しかったのと同時に、さっきの俺を褒めてやりたいくらいだ。初対面の、それも女子だったらいままでの俺なら緊張して噛んでいた。それが噛まずに言えたんだ。これは進歩したと言ってもいいのではないだろうか。
「そ、それはすみませんでした」
彼女は丁寧に謝ってきたため、俺は、大丈夫だと返事をした。警戒心をといた彼女だったが、まだびくびくしている。どうしたのだろうかと思ったが、まだ、緊張してるだけだと思った俺は、そこまで心配しなかった。
「そういえば、あなたの名前まだ聞いてなかったんでしゅが」
噛んでしまった。恥ずかしい。ここにきて噛んでしまうとは思ってもみなかった。
「わ、私は、
「あ、ああよろしくお願いします咲久野」
「後、野雫目さんは私と同じ学年だったはずなんで、敬語じゃなくていいですよ」
「わかった。なら、咲久野も敬語じゃなくていいからな?」
「わかった!」
それっきり話が続かなく、何となく雰囲気が悪かった。そんなとき、咲久野が口を開いた。
「そ、そういえば、野雫目君はなりたいものとかってあるの?」
いきなりそんなことを聞かれ、俺は咄嗟に答えた。
「俺か?俺は、いまのところないかな。そういう咲久野は、あるのか?」
「わ、わたしは、これでも声優養成所に通っているんですよ。まだ、声優デビューはできてないんだよね」
あはは、とばつの悪そうに笑っていた。
そーだったのか。全然知らなかったわ。俺も結構アニメは見ているのだが、声優にはあまり興味がなかったからなぁー。もう少し興味をもっとけばよかったなーと後悔していた。それにしても咲久野はすごいな、と感心した。俺と同い年なのにもう夢があるなんて。俺とは大違いだ。何が俺に似ているだ。全く違うじゃないか。
「夢があって、俺とは大違いだ」
声に出てしまった。咲久野に不満はないが、おいていかれた気分になりつい言ってしまった。
「そんなことないよ。そのうち、見つかると思いますよ」
彼女からの慰めは、逆に俺の心を傷つけた。俺には皮肉にしか、聞こえなかった。なんでここまで腹が立ていたのだろうか、俺にも疑問だった。
「お、おう」
素っ気なく返事をした。それからあまり話すことがなく、無言の状態が続いたまま、寮に向かった。不思議と無言でも辛くなかった。どちらも話すのが苦手ってこともあった。逆にその無言がいまの俺にはありがたかった。
ーーひまわり荘についた俺たちは、扉を開けた。
「ただいま戻りました」
俺は、そう一言声をかけ、部屋に行く。咲久野の部屋がわからなかったため、寮にいた佐倉先生に聞いた。なぜ佐倉先生に聞いたかというと、佐倉先生は、この寮の管理人だ。なので、番号も知っているのだ。
「あの、今日先生に言われて写真の娘を寮につれてきたんすけど、部屋はなん号室なんですか?」
「それなら二階の214号室よ。鍵は預けるから、なくさないように」
「ありがとうございます」
お礼を言い、その部屋をでる。その頃、咲久野は、怖かったのか俺の後ろにずっといた。まぁ、しょうがないか。大人相手だったしな。
俺は咲久野に部屋の鍵を渡す。彼女は受けとると、そのまま部屋にいった。これで一息できると思った俺は、部屋に戻った。よほど疲れていたのか、俺は部屋に戻るなり眠ってしまった。
ーー目を覚ますと、もうすっかり夜になっていた。どおりでお腹がすくわけだ。ベットから起き上がり、周りを見渡すと、そこにいないはずの咲久野がいた。俺は寝ぼけているのかと思い目を擦り、みなおすが、やはりそこに咲久野はいた。
「なんで咲久野が俺の部屋にいるんだ?ていうか、どうやって入ってきたんだ?」
「へ、部屋の鍵、かかってなかったよ。あ、あと私一人でいることができないんだよね。一人でいると、すぐ怖がるし、泣いちゃうんだよね。いると、迷惑だよね?」
目をうるうるとさせながら、今にも泣き出しそうだった。俺は別に来たいときはきていいから、それと、迷惑じゃないから。ということを伝えると、咲久野は嬉しそうにしていた。
ーーやはりこの世には完璧な人などいないということを改めて感じた。また、咲久野が、一人でいれないと聞いたときはびっくりしたが、これから大変になるということを、今の俺は知らなかった。
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