2-069-1 水が合えば新しい環境もすぐに受け入れられるようで①


 クタレがひとしきり泣いて落ち着いた後、魔法で炎症なみだあとを消した。

 と言っても、彼は仮面を被るから、目立たないんだけどね。

 そして、クタレにはもう一度スポドリを渡して、消費した水分を補給してもらった。

 水槽を透明に戻して、スヴェトラーナに入室してもらったら、サラの準備を再開だ。


「わたしはシーオーラタス族のサラ……」


 サラがマイペースに自己紹介をしてくれた。

 そういえば、自己紹介をお願いしたのは僕だった。

 クタレはさっき自己紹介したから、返してくれたみたい。

 スヴェトラーナだけを紹介した。

 にしても、サラには族名があったんだね。

 その族名……付加遺伝子情報アドオンゲノムで見たような……

 今は重要では無いのでそれは後にしよう。


「温泉に連れて行くには、服を着てもらった方が良さそうだね」


「キシラがいますもんね」


「そうですね、扱いに差があるように見えてしまいますから……」


 そこなの? 半裸が良くないとかそういう話じゃないのね?

 人間社会で共存している異種族なら、また違った捉えられ方をするかもしれないけど、とりあえず人魚は裸でも問題ない認識なのね。

 きっと、それがこの世界の常識なんだろう。

 常識に抗うつもりはないので置いておいて、服の話に戻そう。


サラは元から服を着る習慣はあったのかな?

 ないなら邪魔にしかならない気がするんだけど……

 確かキシラは、最初からワンピースを着て倒れていたような。


「服は着てたキ……頭から被れば良い長い服キ……」


 サラの説明ではどんなものか分からないけど、たぶんキシラと同じようなワンピースのことだろう。

 うん、服を着ていたなら問題ない。

 どんなデザインにしようかな?


 何となく、サラの豪華な尾ヒレは和物っぽい印象を受けるんだよね、グラデの色合いかな?

 それとも、拡がったフリルスカートみたいな形がかな……

 もしくはその両方か。

 そうなると、和服?

 リボンというか帯のある……そう、浴衣みたいなのが良いような。

 尻尾があるから衣裳としてはミニスカ浴衣で、尻尾が裾扱いになるけど。

 上は花柄で飾りえりを付けて、下はグラデにして尻尾と馴染むようにすれば似合いそう。

 帯は花魁ではないけれど前帯にして、柄と同じ花帯を控えめな大きさで付けよう。

 思えばすぐに、イメージ通りの服が出来上がっちゃう。

 衣裳関係の魔法は、デザイナー垂涎な魔法だね。

 あ、逆か、デザイナーが作ったのかも。


「うわぁ〜! 素敵な衣装ですね!! 今まで見たことの無い形です! わたしの知ってる世界はとても狭いですけど……」


「ツェツィさん、こんなのボクも見たこと無いですよ! でもとてもサラに似合っています!!」


 2人が絶讃してくれている。

 やっぱり和服は見たことが無いのか。

 いや、そもそも、ミニスカ浴衣は和服と洋服を組み合わせたものになるので、この世界に和服みたいな服があったとしても、まだ作られていない組合せかもしれない……

 常識に抗うつもりはないけど、破壊する方向にはなりそうな……

 この世界にないと決まったわけじゃないし、気にしないでおこう。


「サラ、動きにくいとかないかな?」


 鏡を出しながら感想を聞いてみたけど、サラはふわふわと漂うだけで頷いた。

 いや、もっと、こう、泳ぎ回ってみたりしなくて良いの?

 キシラなら端から端まで泳ぐよ?

 泳いでも問題ないように、キシラの衣装と同じ魔法を登録した魔石を付けてあるけど。


 あ、因みに、極術の物質創造系の魔法の中に、魔石みたいな物を作れる魔法があったので、最近はそれを使って魔石も生み出している。

 極術『原理端末プリンシプルデバイス』という名前だったので、魔法で作るのは石では無さそうだ。


 今は材料はどうでも良くて、要するに魔石がついているので、服を着てても同じように泳げるということだ。

 着せられたサラは、ボクの出した鏡をじーっと見ながら、首を傾けたり少し身体を捻ったりしている。

 動かせるかどうかより、見た目の方が気になるみたい。


「ボグダンはわたしをキレイにしてくれるキ……」


 あ、笑ったのかな?

 表情の変化が少ないから分かりにくいけど、どうやら気に入ってくれてるみたいだ。


 よし、サラが服を気に入ってくれたなら、予定通り温泉に移送しよう。

 キシラの住処である巨大な中央水槽に移ってもらおうかな?

 キシラと顔合わせしないと、同じ水槽で良いのかも決められないか。

 穏やかそうな熱帯魚達も、相性が悪いと混泳させられないって言うし。

 水の温度や成分も同じで良いのか分からないし。

 そもそも、遺伝子付加魔法エンコーデッドアプリで環境に関係なく住める気もするけど。


 サラに移動させることを断ってから、水槽を浮かせて移動を開始した。


「特別室を通れないから、僕は飛んでいくよ。中央水槽に連れて行くから、遠回りだけど2人は歩いて来てくれるかな?」


「分かりました! クタレはわたしが案内します!!」


 元気いっぱいに答えるスヴェトラーナ。

 仕事だからか、気合い入ってるね。

 クタレも頷いてくれてるし大丈夫だ。


 自分自身にも浮遊魔法をかけて、水槽と共に空に浮かぶと、人に見られないうちに素早く中央水槽へ飛行した。

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