2-067-3 罰ゲームは身内に見られると効果的なようで

 お客さんが来ているのに入ってくるとしたら、ダマリスかな……?

 だとしたら緊急の相談──他のお客さんが来たとか?

 暫くするとパシャパシャという足音ともに、人影がこちらに近付いて来た……けど……


「ボグダンが帰ったと聞いたが、ここにボグダンは居るか?」


 一番入口近くに立っていた侍女さんに、そう尋ねるのは村長おとうさんだった。

 誰から聞いたの?

 ダマリスが伝えに行った??

 いや、一般浴場の案内をしてるなら時間的に難しいから、誰か使いを出したとしたら……マリウスか。

 確かに彼が適役だね。


 問われた侍女さんが首を傾げて困っている。

 僕が要因なので助け船は出さないといけない。

 でも……

 この黒ビキニスタイルでお父さんに話しかけるの? 息子が!

 いやそもそも、息子と認識されないんだけど、この状況はツラいものがある、お互いに!


「お父様! ご挨拶に行かず申し訳ございません。優先すべき用事が済んでから伺う予定でした」


 深々と頭を下げるミレル。


「おお! ミレルちゃん! それはボグダンに聞くから、ボグダンはどこに行ったのだ?」


 お父さんちょっとおこっぽいなー

 そりゃそうだろう。

 本来の旅程なら、まだ王都にいる可能性が高いのにもう帰ってきたなんて、王都に行かずに途中で帰ってきたと思われていても仕方がない。

 しかもその説明に来ていない。

 真っ先に村長ところへ報告に行くべきところを、温泉でゆっくりしてるなんて、って思われてたら怒りたくもなるだろう。

 でも、今回は正式に帰ってきたわけじゃないから、説明が難しい。

 といっても、正式に帰ってくるのも今夜で、あんまり変わらないんだけど。

 ミレルに説明を頼むか……


「ボグダンというのは、其方の本来の名前だったか?」


 悩んでいると陛下が後ろから小声で問い掛けてきた。

 陛下に合わせてヒソヒソと小声で返す。


「はい。僕を探しに来た彼は、この村の村長で、僕の父でダニエルといいます」


「父親か……」


 陛下が重い息を吐きながら、僕の身体を頭から足先まで撫でるように見つめる。

 え、ちょっと、怪しげな視線を送って、こんな時に陛下何考えてるの?!


「息子がこんな格好になってたら、わたしなら泣くな」


 誰がさせとるんじゃーい!!


「分かっておる。わたしもこのまま其方が男に戻るところは見ていられない」


 それはビキニ姿の男は見たくないって意味でしかないような……

 ヒソヒソと話している、お父さんがこちらに向いた。


「お客人にこんな見苦しいところをお見せしており申し訳……な……い…………!?」


 何かに気付いたお父さんは、服が濡れることも構わず跪いて、頭を床につくぐらいまで下げた。


「も、も、申し訳ございません!! まさか、陛下がこのようなところにいらっしゃるとは──」


「よい。頭を上げよ。本来わたしは今ここにはいない身でな。そうかしこまるな」


 お父さんが狼狽うろたえながら頭を上げる。


「ダニエルよ、お主の息子はしかと大義を果たした、安心せい」


「ははっ! 有難きお言葉恐れ入ります! 陛下のお言葉に間違いなどあろうはず御座いませんが、出来の悪い息子でしたもので、ゆめゆめ信じられぬ思いで御座います」


「ふむ、確かに、にわかに信じられぬやもしれんな。少々大義を果たした過ぎたとも言うしな……」


 ちょっと余計なこと言わないで陛下!

 お父さんが困惑してるよ!


「何か粗相そそうを仕出かしたので御座いますか?」


 温泉にいるのにお父さんの顔がちょっと青くなってるよ!?


「そんなことはない。言葉の綾だ──では、少し話そう。レバンテとお主のみで話がしたい。他の者は席を外せ」


『はっ!』

「はい!」


 侍女さんとクタレ、それにミレルも揃って声を上げる。

 声を上げられなかったのは、僕だけ。

 悪目立ちするじゃないか……


「陛下、そちらのご婦人は?」


 ほらぁ!

 僕の対応が遅れたわけで自分のせいだから、誰も責められないんだけど!


「これほどお美しい方……はっ! 新しい奥方で御座いますか!?」


 ダメな方向に推測されたぁ!!


「ふむ、これがなかなか器量の良い娘でな、それも悪くはないと思っておるのだが断られてな、そこのフェルールの妃にどうかと言ったのだが、それも断られておるのだ」


 陛下、真剣な顔で嘘言わないで!

 何で悪ノリするの!?

 後ろでレバンテ様がオロオロしてるよ?

 お父さんは驚愕してるじゃん!

 陛下の申し出を受けないとは何事か、とか言い出しそうなんだけど!


「陛下の申し出を断るとは……まさか、他国の姫様で御座いますか?」


 違った-!?

 けど、んなわけないでしょ!

 そんな人がなんでシエナ村なんかに来てるの!?

 確かに、陛下と対等に話が出来るのなんて、他国の王族ぐらいと思うかも知れないけどさー!


「そうではないそうではない。勘違いさせてすまんな。この娘を揶揄からかえることなどもう無いであろからな、つい遊んでしもうた。ほれ、膨れた顔もかわいいだろう?」


「確かに」


 みんなうんうん頷いてるんじゃないよ!

 僕で遊ばないで!

 しかし、大袈裟だね陛下も。

 あまり会話もすることがない立場の人だから、確かに揶揄われることもほぼないとは思うけど、金輪際のんりんざいないということは無いような……

 いや、揶揄って欲しいとかそういう意味じゃないからね!


たわむれはこのぐらいにして」


 陛下がそう言うと、僕やミレルも侍女さんに促されて、特別室から退室させられた。

 皆まで言われなくても、侍女さん達は察してすぐに動かないといけないだね。

 大変な職業だと思う。


 さて、この後は、とりあえずシシイに見せに行って着替えるか。


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