2-067-1 罰ゲームは褒められても正しく罰になるようで


「当温泉では、男女一緒に入れるように、共用スペースでは水着を着て入浴するスタイルをとっています。洗い場は男女別になっており、水着を脱いで身体を清めて頂けます」


 水着の説明から始めて、温泉のルールや設備説明を一通り終えた。

 今までの印象通り、陛下もレバンテ様もわがままを言うような貴族でないことは分かっているけど、温泉のルールに関しても文句なく納得してくれた。

 そして、実際に着がえてもらうことになったわけだけど、プラホヴァ領主様の水着を専用にしたわけだから、王族の水着を専用にしないわけにはいかない。

 着替えてもらう前に一旦水着を受け取って、ロイヤルブルーと王家の紋章を入れた水着にこっそり作り替えた。

 クタレの分は……今回は王子扱いと言うことで、同じ仕様にしてある。


「では、こちらの水着にお召し替えください」


 とりあえず、3人分の水着を手渡し、後から侍女さん達も着替えて入ってもらう。

 侍女さんの水着は、布多めの白い清楚なワンピースタイプだ。

 メイドさんデザインのまま水着にすると、なんとなく卑猥なエロい雰囲気になってしまうので、水着は水着らしいままにした。

 僕たちは、侍女さん達が陛下達の着付けをしてもらっている間、衝立ついたてを立てて待機している。


 一番最初にクタレの着付けが終わったようで、手の空いた侍女さんが衝立のこちら側にやってきた。

 あれ?

 陛下とレバンテ様の手伝いに回るんじゃないの?


「ボグコリーナ様とミリエール様には、この先もご案内をお願いしなければなりませんので、お二人にもお召し替え頂きたく。私どもの衣装以外に、丁度2つ御座いましたのでお持ちしました」


 丁度2つの余り……シシイの持ってきたやつ!

 袋を受け取って開いてみると、黒のビキニタイプ水着が1着と麻っぽい色のタンキニタイプ水着が1着……

 タンキニタイプはミレルの水着だけど……シシイ良く憶えてたな。

 じゃなくって、ということは黒ビキニが僕のって事になるんだけど!?

 男がビキニ着けるとか血の気が引くよ……


「下着より布地が少ないですが……ただ、ボグコリーナ様には大変お似合いになると存じます」


 なんか侍女さんが嬉しそうに頬を緩めて僕を見てるんだけどー

 うぅ……今は陛下達の要望で女性形をとってるから、侍女さんの言葉を完全否定するには足りない。

 似合わないから、程度の言い訳で逃げるしか……


「それと、こちらが一緒に置かれていました。シシイ様からボグダン様という方に宛てた手紙のようです」


 シシイから僕宛て?

 直接言えば良いのに?

 いや、今の姿ではボグダンと話し掛けにくいから、あえて手紙で書いたのかな?

 手紙には意外に丁寧な文字が、やや走り気味に書かれていた。


 ──わたしに正体を明かさなかった罰に、お前か嫁さんがその水着でも着て見せに来るといいさ。魔法使うなよー?


 ダマリスを揶揄うんじゃなかったのかよ!

 意外に根に持ってたのか……

 いや、半分は腹いせだけど半分は悪戯か。

 陛下の寝室に入るときに、侍女さんに裸を見られるのは一度やったけど、この水着を着る方がハードル高いな。

 しかもしっかり魔法のことに言及してるし。

 シシイがこういうことをするってことは、案外気の置けない相手って思われてるのかな?

 そう思って納得することにしよう……かな……

 僕もシシイのことは良いやつだと思ってるし、悪戯を受けるのも悪くはないと思うし……

 いや、無理でしょ!

 やっぱりハードル高いって!


「お姉さまが着た方が似合うと思いますが、わたしがそちらを着ましょうか?」


 ミレルが少し困り顔を浮かべて提案してきてしまった。

 いや、それは絶対にしない!

 嫁さんを好奇の目にさらすなんて僕には出来ない!

 そんなぐらいだったら自分が好奇の目に晒される!!

 くそぅ! シシイめ、分かっててビキニ渡したな-!


 はぁー……


 女装趣味の友人は「壁をぶち破ったらウルトラハッピー!」って両手を天に掲げながら言ってたけど……

 ハッピーになれる気がしねぇー……

 けど、ミレルが着るぐらいなら僕が着る!


 陛下を待たせるわけにはいかないということで、ササッと侍女さんに着替えさせられて、「滅茶苦茶お似合いです!!」とか言われながら、衝立の向こう側に連れて行かれた。

 ちなみに、僕が着替えさせられてる間に、ミレルはさっさと自分で着替えていた。


『おおぉぉぉーーーっ!!!!』


 姿を現した途端にどよめきが起こった。

 クタレを含めた男性陣だけでなく、侍女さん達にも揃っておののかれてしまった。


「ボグコリーナ嬢にこのような歓待を頂けるとは!!」


「やはりボグコリーナ様は何を着ていらっしゃってもお美しいですね」


「わたしが着ればはしたない格好なのに、ボグコリーナ様なら卑猥さを感じさせません」


「まるで芸術家の作る彫刻のような静かなキレイさです」


「例えるならノマリエのような端麗さを感じます」


「この村の在り方を自ら体現していると言うことか、上に立つ者として素晴らしいな」


 みんな口々に感想を伝えてくる。

 そんなに褒められたって嬉しくないんだからね!


「お姉さま赤くなってる。かわいい」


 ミレルまでそっちに回らないでー!

 だから僕は男だってばーっ!!

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