2-029 謎が謎を呼ぶようで
ガラキを追うこと
因みに、僕たち5人には、光学迷彩と消音、それにいつもの『
いや、シシイやイノにバレてるかもしれないけど……
今バレてなかったとしても、どこかで服を着替えないと、いずれバレてしまうだろう。
だって、フード付コート5人組なのに、誰も怪しんでないんだもん。
「おい、嬢ちゃん、なんであいつを追うんだよ?」
途中、シシイはそんな質問をして、僕の行動を気にしていたから、まだ魔法には気付いていないと信じたい。
理由は、人魚の鱗の話を色々として、行方が気になると言ってある。
自分の気持ちそのままだ。
ただ説明をちょっと長くしただけで。
とは言え、シシイの視線にも、そろそろ限界を感じてきたので着替えたい。
入ったことのあるお店でもあれば──と思っていたらブリンダージ商会が見えてきた。
ある程度事情を説明して、防具購入ついでにでも着替えさせてもらおう。
一時目を離すから、ガラキを見失わないための魔法でも探そうかな……
って、対応を考え始めたというのに、ガラキがブリンダージ商会へ入っていってしまった!
薬の卸先ってここなのかよ……
そりゃ、可能性としては……あれ? でもここは武具屋なんじゃなかったっけ??
尾行がバレたのか?!
悩んでいても、仕方がない!
ここは店に入るしかない。
僕が先頭で店に入って、すぐに魔法を解除する。
昨日も見た店員が、胡乱そうにこちらを見ている。
店内を見回しても、すでにガラキはいないし、他の客も居ない。
客じゃないから、奥に通してもらったのだろう。
そうなると、これ以上は頭取に聞かないとダメか……
フードを外して店員に近付くと、覚えていてくれたようだ。
いや、後から入ってきたイノを見て、気付いたのかも知れない。
「今日はどういったご用件でしょうか?」
若干引きつり気味の笑顔だけど、それは、少々汚れたコートを羽織っているからだろう。
店の中を汚して欲しくないだろうからね。
「昨日はあまり見て回れませんでしたので、防具など見せていただければと思いまして」
とりあえず、普通にお店に来た体で進めよう。
「もし、頭取がいらっしゃいましたら、ご挨拶もさせて頂こうかと」
言いながら、コートの裾をつまんでお辞儀をする。
こんな格好で、この挨拶は違和感しかないけど……
転生前には、女の子同士が普段着でエアーカーテシーをしているのを見たことがある。
それとそんなに変わらないだろう。
「た、ただいま呼んで参ります」
店員は、慌てて奥に引っ込んでしまった。
といっても、もちろん他に店員は残っているから、僕たちだけになったわけじゃない。
「嬢ちゃん。見失ったし、この遊びはこれで終わってくれるのか?」
シシイが珍しく、嫌みを含んだ質問をしてきた。
訳が分からないままに振り回されたのだから、当然だろう。
他の3人は何とも思ってなさそうだけど、話には興味がありそうだ。
受付から離れて、防具を見繕いながら、声を潜めて答える。
「シシイさんは、彼が何を受け取ったと思いますか?」
「包まれていたから何かは分からんが……小さなものだったのは確かだな」
やっぱり、シシイには会話が聞こえていなかったみたいだ。
「わたしには会話が聞こえたのですけど、どうやら薬のようでした」
「嬢ちゃん……そんな特殊能力もあるのか」
魔族と認識されたら、普通の人が出来ないことを言っても、納得してもらえるようだ。
それだけ、魔族の能力は未知だってことなんだろうね。
「ただ、薬を武具屋に持ち込んだ理由が分からないのです……」
「病人がいるのではないですか?」
え?
ミレルさん?
今なんと?
「お姉様はご存知ないかもしれませんけど、薬は病人に使うものですから、薬あるところに病人ありです」
いや知ってるよ!
全然知ってる、自称医者なんだし薬の処方もしようとおもうよ?
魔法で何でも治っちゃうけど。
でも……
確かに……
普通、病人がいるわな。
薬は病人に使うものだからね。
「貴重な薬を使うということは、それだけ重篤な症状で、何としてでも治ってもらいたいだけですね……」
いや、でも、あんなに怪しげな取引だったから、何かあると思うじゃん!
単純に病気であることをバラしたくないから、取引を秘密裏に行っていただけか。
重要人物ってことかな?
この店にいる重要人物って……第三王子?
んー?
んんー??
なんか遠回りすぎない?
第三王子はレバンテ様の家に住んでるんでしょ?
そこに人魚がいるのに、なぜガラキを通して、なぜ怪しげなフードの男に頼んで薬を作らせて、なぜそれをブリンダージ商会に届ける??
「ようこそおいで下さいました、お嬢様方……その格好は……?」
ブリンダージが、店の奥から上機嫌に出てきたと思ったら、僕たちを見て困惑している。
後で説明するとして、ブリンダージが困惑している今のうちに、にガラキのことを聞くべきなのだろうか?
「街に出て少しはしゃいでしまいまして……それより、こちらに珍しいお客様が入って行かれるのを見たもので、少し気になってついてきてしまったのですが……?」
少し店内を見回して探す素振りをする。
ブリンダージは一瞬考えた後、光り出しそうな笑みをこちらに向ける。
やっぱり、街の女性なら頬を朱に染めそうなイケメン顔だな。
ここには街の女性はいないようだけど。
「あ、ああ。
……ほほぅ……
商品を届けているとな?
つまり、誰かに売るものだと。
いやいや、それがまだ薬の話とは限らない。
「そうだったのですか。彼は身軽そうでしたが、どんな商品を卸していらっしゃるのですか? わたしも興味があります」
なるべく、すました顔でブリンダージに問いかけた。
ブリンダージは、僕がお金を持っていることを知っている。
だから、売りたい商品なら、どんなものか説明してくれるはずだ。
「申し訳ございません。あれは特別なお客様のための商品でして、この店に並べるものではないのです」
ブリンダージは焦るでも困惑するでもなく、淀むことなくすぐに断ってきた。
これは、誰から聞かれても、答えを決めているのかも……
つまり、それだけ重要な人物なのか、実は売りものではないか。
一度は商品と言ったのだから、前者の方だろう。
やはり第三王子なのか……?
これ以上は、ブリンダージに聞いても仕方がなさそうだ。
「承知しました。無理を言って申し訳御座いません」
軽く謝って、お詫びも兼ねて防具を購入する話をさせてもらった。
幾つか見せてもらって、それぞれが気に入ったものを購入した。
因みに数量は3人分だ。
シシイとイノは、自分で購入するのでいらないと言われた。
セミオーダーでも合わせるのが大変そうだから、完全オーダーメイドで作るのだろう。
僕とミレルは着る必要がないと思われていたようで、試着することを告げると驚かれたけど……
ドレスアーマーを着たお姫様冒険者は、ブリンダージの客には居ないようだ。
オシャレな防具もあるのだけど、それは装飾が凝っているだけで、大きく形状が異なるわけではなかった。
試着ついでに着替えてみたものの、ドレスには胸当てですら着られなかったので、
うーん……高強度な樹脂繊維も無ければ、軽量な金属繊維も無いわけで、ファンタジー世界だけど、刀を弾くようなロマン溢れるドレスは無いみたい。
村に帰ったら、スヴェトラーナかシシイに、カワイイ鎧を作ってみよう。
さて、魔法防具が手に入ったから、これで魔法レベルの調査ができる。
また夜中にでも調べてみよう。
新しい玩具を手に入れたような、ほくほくした気持ちでブリンダージ商会を出ると、すでに日が傾いていた。
王都の赤い建物が夕陽に照らされて、更に赤さを増している。
世界の境界が曖昧となる、俗に言う「逢魔が時」というやつだ。
本当の悪魔事件というものは、こういうときに起こるような気がするけど……
街中で何事も起こることなく、僕たちはお屋敷に帰り着いた。
帰り着いたときに、僕たちの帰りが遅かったからか、過剰に心配された。
この世界は門限が厳しいのかな……
◇◆◇◆◇◆
第三王子も帰ってきていて、昨日と同じように5人で同じ卓について晩御飯を頂いた。
「今日のお召し物も麗しいですね。どこで仕立てられたのですか?」
なんて、第三王子からお世辞を言われたり、
「今日は王都観光をされたのですか?」
とか、詮索を受けてしまったので、やっぱり素性を疑われているのかもしれない。
いや、まあ……昨日と同じドレスはマナーに反する気がして、違うドレスを3人分作ってしまったのが、たぶん悪いんだけど。
シシイとイノには聞こえないから、ドレスは宿に置いていた荷物から持ってきたことにして、今日は大通りでウィンドウショッピング的なことをしていたと言っておいた。
ガラスが一般的でなく、ショーウィンドウが少ないので、厳密にはウィンドウショッピングではないけど。
第三王子との会話をやり過ごし、なんとか平和的に食事を終えた。
そして、夜になり、僕たちは完全にフリーとなった。
いっそシシイとイノには、全て説明してしまった方が動きやすくなるんだけど……
まだ何とかなるので、リスクを負うわけにも負わせるわけにもいかない。
今日は久し振りに、やることの多い夜だ。
まずはサラの方から行ってみよう。
少し身軽な服に着替えてから、ミレルに行き先を告げて、ステルス全開で部屋を出る。
ミレルは止めることもなく、ただ「気を付けて」と言って見送ってくれた。
皆まで言わずに、分かってくれる嫁さんに感謝だね。
そして、誰にも気付かれることなく、サラのいる部屋へと辿り着いた。
灯りはついておらず、ほぼ真っ暗闇だ。
でも恐らく、ステルスを解除すれば、サラには僕が見えるだろう。
魔法で音だけ外に漏れないようにして、僕はサラに話し掛けた。
「こんばんは、また会いに来ました」
「昼……会った人間キ?」
サラは予想していたのか、突然目の前に現れた僕に驚くことも無かった。
「そうだよ。気軽にボーグと呼んでくれたら良いよ。わたしからはサラとの呼んで良いかな?」
サラは静かにコクリと頷いた。
あまり活発に動くこともなく、諦念を滲ませている彼女だけど、今は僕に興味を持ってくれているようだ。
「ボーグは、なぜ……喋られるのキ?」
サラはゆっくりと、言葉少なく問い掛けてくる。
今までの対応から考えて、彼女は喋るのが得意ではないのだろう。
「秘密なんだけど、実は魔法が使えるんだ。魔法でお互いの言語の意味が、分かるようになっているだけだよ」
「そうキ……」
僕の説明を疑うことなく納得したサラは、僕から視線を外して天井を眺めた。
これって、すでに僕への興味が、無くなっているように見えるんだけど?
気になってたのはそこだけなんかーい。
病気を話とかどうでも良いの?
「別に……」
それだけ!
ホントに、人生諦めてる感をひしひしと感じる。
捕まってしまってこんな水槽に入れられて、諦めてしまったのだろうか?
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