第21話

 暑い盛りの夜だった。

 風呂上がり、誰に憚ること無く裸にバスタオルで米国産の有名ビールを呷る。

 エアコンが部屋を程良く冷やし、部屋のスクリーンにはアメフトが流れている。

 日本産のピルスナーと比べるとキレが無いが、俺はこれにチーズを合わせて食うのが好きで箱で買ってある。ちなみにチーズは国産だ。駅前の個人商店で売ってる燻製肉と合わせて食うと更に贅沢な味わいになる。

 稼ぎはある。贅沢に使わなきゃ損だろう?


 そんなとき、スクリーンに着信のアイズ。ホームコンピュータに電話を取るように指示し、俺はソファに沈み込んだ。

 電話を取る気分じゃ無いが相手が相手だ。


「はい」

「晃か?」

「俺の番号なんだから俺が出るのは当たり前だろう。他に誰が出るんだよ」

「そういうなよ。機嫌悪いのか?」

「いや、そういうわけじゃ無いよ猛(たける)兄」


 田舎の兄からだった。

 昔から何かと世話になってて、どうにも頭が上がらない上の兄。猛(たける)。

 昔から何かと世話をしていて、どうにか縁を切りたい下の兄。悟(さとる)。

 今回は猛兄からだった。仕方が無い。


「で、猛兄からなんて珍しいじゃ無いか。どうしたんだ?」

「……実はな」


 珍しく猛兄が言いよどむ。どっちかの親が倒れたか?


「どうした、親父でも倒れたか?」

「いや、見合いを頼まれてな」

「は? 猛兄はもう結婚して子供が三人も居るじゃ無いか。無理でしょ」

「いや」

「悟兄も今は結婚してるだろ? バツ4だけど」

「いや、お前がご指名なんだ」

「んーー、無理」


 一身上の都合により結婚しない予定だ。


「事情は知ってるんだがな。どうしてもと先方に頼まれて断れなかったんだ」

「大体どうして俺なんだ。しがないIT系ライターで、明日をも知れぬ身だぞ? お見合い相手としては一番駄目だろ?」


 おまけに家はオカルトまみれだ。絶対入れるわけにはいかん。


「会うだけ会って断ってくれれば良いから」

「まぁそれなら……。猛兄の頼みじゃ仕方ないか……。で、いつのどこ?」


 猛兄は知事有力候補という噂だ。色々断れない話も有るんだろう。お見合いを断っても良いというなら、一度会っても良い。

 しかし、田舎に行くのなら若干スケジュール調整が必要だろう。ハルさんを頼るのは最後の手段として。田舎までアレ使ったら一財産吹っ飛んじまう。


「時間はお前に合わせる。場所は都内だ。安心してくれ、晃」

「え? 相手も都内に居るのか?」

「いや、お見合いあわせで上京してくれるとか言ってたぞ」

「おいおい、何だその人? 怪しい相手じゃないよね?」

「当日まで黙っておくように言われてるんだ。これ以上は言えないね」


 若干楽しそうな声音で言われては仕方が無い。

 しかし、お見合い当日まで相手のことが分からないのは気持ち悪いな。多分相手は俺の事詳しく知ってるんだろうな。と言うことは俺が相手のことを知ってる可能性も高い。

 となると……。


「あー、分かった。当日まで情報無しとは若干前時代的な気がするが、良いよ。時間はお相手の最速で」

「じゃぁ明日」


 ブーーーーーッ!

 ビール吹いた。

 けほっ。


「大丈夫か? 場所はメールするから」

「ん、あぁ大丈夫。しっかし明日か。お相手、暇なのか?」

「さぁな。出張が重なってるとか言ってたよ。じゃぁな」


 電話が切れて、アメフトの解説の音声が大きくなってきた。

 しかしお見合いねぇ。まぁ断れば良いんだが。面倒だな。


 お、場所のメール来た。

 結構良い場所じゃ無いかこれ? 新宿の「せせらぎ」か。ビル最上階にある予約制割烹か。これ、予約どうしたんだ? ノータイムだったよね? なんか怖いんですけど。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

兼業魔術師の日常 OTE @OTE

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ