第18話

 これは予想外。人語を話すゲームのようなスライム、か。

 俺は目の前の信玄餅を睨みながら考えた。守護の魔法円は問題ない。呼び出す方は、が。


「な、わし珍しかろ? 善良なウンディーネやし、きっと役に立つで! こんなからはよだしてーな」

「そうだな。なら早く出してやらなきゃな」


 俺は守護の魔法円から出ようとして、ふと、思い出したことを口にする。


「お前、名前はなんという?」

どうでも良いやん?」

「あぁ、それでは出してやるわけにはいかんな」


 俺は守護の魔法円に戻り、胸元から一つのアミュレットを取り出す。魅了などに抵抗するためのサニティのアミュレット。今は知霊を象徴する深い青に輝いている。正に全力稼働中だ。


「精霊の王達と天使団に助力を願ったこの召喚儀式。確かに一発で上手く行くとは思わなかったが。お前は何者だ? さぁ、アストラルボディまで刻まれたくなければ、とっとと吐いて深淵に帰ることだな」


 俺がそう言うやいなや、信玄餅は召喚円の中で膨れ上がりたちまちムキムキの髭親父になった。手には三つ叉の槍。分かりやすい。


「ふはははは! 我こそは『水の神ポセイドン』! 我が下手に出ておれば調子にのりおって、疾く早くここから出すが良い!」


 『ポセイドン』の圧はすさまじい物だ。このサニティのアミュレットが無かったら、ちっとヤバかった。奴の影響力で、高さ数十メートルの津波を幻視したからな。


「バカヤロウ。そんな訳あるか! こちとら星辰も整えてないインスタント儀式だぞ! いくら魔素が増えたからってひょいひょい神話の神が出てくる物かよ! 大体72柱の悪魔が勝手に出てくるような状況なのに、なんでわざわざこんな細い通路通ってくるんだよ。シロウトじゃあるまいし騙されねぇよ」


 そして、俺は戒めの呪文を唱える。水には雷だろ。そんな俺のイメージからか、召喚円から数本の逆雷が伸び『ポセイドン』に襲いかかった……。


 10分後。

 召喚円の中には、ぼろ雑巾のようになった水色のゴブリンがくたばってた。


「……早く口を割らないからだ。俺は悪くない」


 最後の最後で幾らか情報の欠片は得られたが。

 励ました甲斐も無く水色のゴブリンはくたばってしまった。え? 励ましただけかって? そりゃそうだろ。騙してくるような相手だしな。召喚と契約はシビアなんだぜ?


 どうやら、先日から有ったオカルト的な事件のイメージに引き寄せられた雑霊が体を得ようとしたらしい。その辺の難民より俺の儀式の方が魔素もしっかりしてるから強い状態で現世に出られるだろうと思ったそうだ。


 まぁその発想自体は間違ってないが。俺を相手に騙しきれると思ったのが敗因だな。


「しかし、消えねぇな」


 眼前のゴブリン、いやホントはゴブリンじゃ無くてただの雑霊なんだが。

 本来の格としては、最初の信玄餅くらいが精一杯で、『ポセイドン』での圧力は出せないはず。それにその後の粘りも異常だ。

 正体を推測され、上位存在からの攻撃があったのにしばらく耐えて見せた。そんな事、ポッと出の雑霊に出来るはずがない。


 まぁそこの所は俺の管轄じゃ無いな。

 然るべき機関に届け出るとしよう。


「あぁはい。会員の坂田です。ちょっと報告しておき体験がありまして。いや、定例会まで待ってても良いんですが、気になる事が」


 協会職員は忙しい。まぁ後に出来る事は後にしたいのは分かる。だけどな……。


「召喚時の事故で、ほぼ受肉した物が出てきたんですが、ただの雑霊のようでして」


「はい。今現場ですので、ちょっと画像送ります。まだ残ってるんですよ。現在始末を終えて5分くらいですかね」


「はい。では今夜、鑑識が来ると言うことですね。現場は特に汚染も無いのでほぼそのまま保存しておきます。レポートもできるだけ……。ええ、いや、こっちも生活がありますから。ええ」


 協会に届けも済んだ。ちょっと冷蔵庫に有る物つまんだらレポートを書こう。

 しかし、協会もひでー事言うな。今日から3日ほど調査に協力しろ?! 仕事干されてあちらの住人になるわ!

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