第17話

 デミウルゴス勝夫ことデミカツは、案外真面目だった。

 一週間で音を上げるかと思ったんだがな。最初に来たメッセージは記録の効率的な付け方と分析法の問い合わせだった。各回のデータに一喜一憂しないことを戒め、適切なフリーのデータベースを幾つか勧める。ヘルスケアのソフトにも良い物が多いが、日記を付けるのが面倒だ。英語が面倒で無ければ海外で良いフリーソフトがあった。

 幾つかの選択肢を提示すると案の定デミカツは俺の管理法を聞いてきた。

 俺の管理は自作ソフトだ。自分用にカスタマイズしていて管理も面倒だ。いつかちゃんと手を入れてフリーソフトとして配ってみたいんだが。現状は人に見せられる出来では無い。例え弟子であってもな。


 一般的には今も魔術日記を付けるのが「」だ。これはこれで正当な理由も歴史も有る。だが、入力デバイスが限られていた長老達の時代と違う。今では手書きデータもストレス無く入力出来て、自分の動作は指先までVRで録画し後でトレース出来る。

 災害が起きたらどうするのか、と言う問題も分散バックアップすれば、地球まるごと滅びない限り安心だ。セキュリティ? 紙であっても同じ話だ。猿の惑星になっちまったらどうすんだ、だって? めんどくせーな。オベリスクでも建てとけ。モノリスでも良いぞ。


 熱くなっちまったが、まぁそんなわけで俺は電子許容派。デミカツにも是非そっちに……。問題無さそうだな。けけっ。


 で。デミカツはデータにも拘るが、内面の観察にも拘っていた。最初は小学生の絵日記みたいな一言メッセージだったんだが。俺が徹底的に駄目だししたために段々細かくなってきた。

 これが中々面白かった。デミカツは文を書く才能が有るかも知れない。俺は惜しまず参考資料を与え、デミカツは眠っていた扉を開けるかのように上手く文を書くようになった。

 ただ、一日の日記に掛ける時間が2時間を超え、本文が1万字を超えた辺りで、30分以内で二千字以内に記録しろと義務づけた。社会生活をおろそかにしてはな。

 後、学校の勉強と家の手伝い。全然やらなくなってるようなので理屈を説いた上で罰を与えた。


 そんな訳で愉快なデミカツは、基礎訓練と基礎知識を取得中。本人は訓練だと思ってないも基礎になってるんだが。分かるのはいつのことかねぇ。


 俺自身も研究を進めている。デミカツに刺激を受けたかな。

 協会から世界全体で魔法現象の発生頻度が高まり、魔素の濃度が高まってるという警告があった。これはつまり、地獄の蓋がますますおんぼろになり、何かとおかしな連中がやってきやすくなる、ってこと。ホントくそったれだな。

 そりゃ、悪を為す奴らを倒せば金になるけどよ。そろそろ一般人に隠すの無理じゃねぇのか? 協会のMIB、どいつもこいつも過労で倒れそうだぞ。

 つーことで、俺の方も高まった魔素を元に色々術を開発しようとしてるわけ。

 今、目をつけてるのはエレメンタルマジックだな。元々の西洋魔術では精霊は余り重要視されてなかった。生命の樹を登って神との合一を狙うのがメインだから、精霊は主題じゃ無かったんだな。

 だけど今は違う。物質的で即応的な力が欲しい。それだと物質界に近い精霊に力を借りるなりして術が使えれば楽だ。毎度毎度自力で準備するのは面倒だしな。


 さて、そんなわけで精霊の喚起を試してみたのだが。

 なんか出てますね。うす青の丸い奴。信玄餅みたいなの。透明度99%的な。


「なーなー、兄さんさっきから黙って虚空見つめてどうしたん? わし襲ったりせんよ? 良いスライムよ? ほよほよ!」


 と、妙に良いデスボイスで呼びかけてくる信玄餅。

 こういう実験が一発で行くのはスゲー不安。

 普通、何百回とか失敗してやっと、じゃないの?


「なーなー、しゃちょさーん!」

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