第16話
とあるVルーム。俺は少年と会っていた。
少年の名前は加藤勝夫。十五才の中学三年生。市内在住で学校も市内。両親祖父母健在で兄弟無し。親はバーチャルスペースやイベントの設計など。自営業だな。収入もそこそこ。
「師匠、なんか身上調査みたいですね」
「いや、実際そうだぞ」
少年、勝夫の姿は今流行りのゲームキャラ、デミウルゴスの改造アバターだ。身長三メートルを超える厳つい姿が肩をすくめてしょんぼりしてるのは面白い。ギャップ萌えって奴か?
「後、既往歴……。今まで大きな病気とかしたことあるか? 後は精神疾患とか」
「え? 多分無いと思いますけど……。何故必要なんですか?」
「魔術修行は、心身共に損ないやすいからな。予め分かっておけば対処も違う。長い付き合いになるんだ。詳しく知っておいた方が良いだろ?」
「もし、大きな病気持ちとかだったらどうなるんですか?」
「場合によっちゃ、さようなら、だな。特に精神疾患は慎重になる」
俺は説明を加えた。昔、黄金の夜明け団の時代では精神疾患持ちはオカルト禁止だったこと。その辺は、一般に売られている書籍にも残っていること。そして、今でもそうしている団体がある事など。他にも脳に問題がある場合の対処など。
「まぁ精神疾患については、俺は物によると思ってるし。ちゃんと治療して落ち着いていれば大丈夫だと思ってる。それこそろくに薬も治療法も無かった時代と現代を比べてもな」
「なる、ほど……」
「あぁ、大丈夫。お前が嘘付いてるかどうかは直ぐ分かる。今度協会の息の掛かった病院で検査して貰うからな」
と、そこで勝夫が興奮しはじめた。アバターもなんか蒸気やらオーラやら吹き出してる。
「し、師匠! 協会ってなんですか?! 真の世界の支配者ですか?!」
「いや、そんな大したもんじゃねぇな。実践オカルティストの互助会、労働組合みたいなもんだ。俺は東京オカルト協会多摩地区正会員。お前は登録できたら準会員で、俺の子になる」
「え、なんか現実的ですね……」
「まぁな。オカルト絡みの収入は、ちゃんと税金も払ってるし、保険証もある」
「うわー」
「はっはっは。リアルなんてそんなもんさ。ゲームみたいな便利な治癒術なんて無いから病院だって必要だしよ」
「あ」
落ち込んでブツブツ言ってたデミウルゴス勝夫が不意に思い付いたように言った。
「親になんていいましょう?」
確かにそりゃ心配だよな。だが……。
「それは心配するな。協会が上手に接触して、説明とカウンセリングは行うはずだ。まぁ今度の健康診断で、駄目だったら無かったことになるけどな」
お前の記憶もその場で消去されるけどな。と言いたかったが可哀想なので黙っておこう。
「それは助かりますけど。こういうのは僕が自分で言うイベントなんじゃないですか?」
「確かにシナリオ的には盛り上がるが。往々にしてトラブルになるから、専門の交渉官が地ならしするんだ。その後、俺とお前で話をすることになる」
「こういうのって、周囲の人に黙ってやるんじゃ無いのですか?」
「そりゃ、おおっぴらにやるわけにはいかねぇ。お前が無駄に広めたら処罰されるけどよ。俺たちの術はどうしたって近しい人間にはバレる。お前の様子も変わる。何せ、精神の技だからな。なら最初っから協力を得た方が良い。この辺は大昔から変わってねぇ」
「そういうもんですか。両親公認の魔術師なんて、かっこ悪いです……」
「気持ちは分かるけどよー。俺も未成年略取で捕まったりするの嫌だからな」
「……はい……」
デミウルゴス勝夫が大きく息を吐いて泣き真似をはじめる。やたらと重い演出がついて怖い。こいつのキャラ良く分からねぇ……。
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