第15話

「あ、すいません。本人は留守にしてますので」

「待ってください師匠! 思い切り本人じゃ無いですか!」

「俺はお前の師匠じゃねぇ!」


 俺の目の前には、保健所職員の格好をした中学生くらいの少年が立っていた。先日、前田神父絡みで助けた男の子だ。もうこれで五回目の訪問になる。初回は普通に学生服、二回目は私服だったんだが、三回目からは変装している。今回の完成度は高く、体が華奢じゃ無かったら騙されてたな。後、声も高い。声変わりしてないんじゃないか?

 やり取りが面白くてついつい玄関を開けて対応してしまうんだ。ムキになるところが面白くてな。


「……いやもう断っただろ。帰れよ。三顧の礼でも駄目だったんだしよ」

「七転び八起きとも言いますし?」

「まだ来るつもりか? いい加減警察呼ぶぞ?」

「そんな。光の白魔術士なんですから慈愛の心で受け入れてくださいよ」

「止めろ! 俺を中二ワールドに引き込むな!」

「何言ってるんですか! リアル魔術師なんて中二中の中二、キングオブ中二じゃないですか!」

「バカヤロウ! 俺にとってはがっつり現実だ! もう、お前帰れ!」


 こいつも、最初はおどおどしてた癖に前々回くらいから妙になれなれしくなってきた。中二キーワードに迂闊に反応したのがまずかった。学校でも、親しみやすさの演出のためにネタを振るんだが、失敗した。

 昔、師匠がこういう奴が来たら初回で手ひどく追い返せって言ってたのが分かる気がしてきた。


 と、近くにEVバイクが止まった。……あれは警官か。こないだの熊騒動からよく来るんだよな。めんどくせー。こっち来るぞ。


「おはようございまーす。最近変わったことありません?」


 あー、明らかに怪しんでる目だな。


「(おい振り向くなよ)いえ、特にないですね」

「そちらの方は?」

「ええ、予約時間に間違いがありましてね。ちょっとこれから話しあうところです」

「先日の熊騒動からこっち、市街地での野犬や猪なんかの被害が増えてますので気をつけてください」

「分かりましたー。じゃ、中で話ししましょうか」


 いぶかしむ警官をおいて、俺は少年を応接間に通した。冷蔵庫から麦茶を出してやる。


「いよいよ弟子入りですね!」

「ちげーよ。引導を渡すんだ。大体お前、なんで魔術師になりたいんだ? 修行はきついし退屈だし、美味しい話じゃないぞ」


 それまでキョロキョロと落ち着き無く、浮ついた事ばかり口走ってた少年が俺の目をしっかり見返した。


「ご存じの通り、僕は弱いです。いじめられっ子です。だから力欲しいんです」


 あー、駄目な奴か。返答によっては始末せんと……。九割方そうだとは思ってたが。念のため、聞く。


「力を手に入れた後はどうする?」

「観察します。僕がどんな風に変わるのか」

「こないだの奴らみたいになったらどうする?」

「お任せします」

「まぁそういうが、実際始末される時に命乞いをしなかった奴は居ないけどな。良いだろう。俺のやり方なら面倒見てやる」

「本当ですか!」

「ただし、成人になるまでは基礎訓練だけだ」

「十六才まで、お預けですか……」

「不満か?」

「不満じゃないですけど、説明頂けますか?」

「お、そういう理屈っぽいの嫌いじゃ無いぜ」


 少年の目と台詞が良かったから、ついノリで弟子迎え入れちまったが。後悔しそうだ……。

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